転職・中途退職された方!企業型DC(企業型確定拠出年金)を放置していませんか? ~自動移換はデメリットしかありません~

◆企業型DC導入企業数・DC加入者数が増加している
『企業型DC(企業型確定拠出年金)』とは、企業が従業員の退職金や年金を支援するために導入する福利厚生制度です。企業が掛金を毎月拠出し、その運用は、従業員自身が行います。拠出金は確定していますが、将来受け取る退職金や年金は運用成績次第で増やせる可能性があるため、「確定拠出年金Defined Contribution」と呼ばれています。
企業型DCは、会社が規約を定めれば従業員が一定の範囲で上乗せして拠出することも可能で、年々導入企業が増え、加入者数も増加しています。厚生労働省の確定拠出年金統計資料によれば令和5年3月現在、企業型の規約数は、7,049件。企業型DC加入者数は、805万人。正規従業員(3,615万人)の4.5人に1人が加入していることになります。

◆自動移換者数が増加

企業型DCに加入されていた方が、転職などで会社を退職すると加入資格を失います。資格喪失してから6ヶ月以内に手続きを行わないと、積み立てられた年金資産は、国民年金基金連合会に自動的に移換され(『自動移換』)その後は運用されない等デメリットがあります。
国民年金基金連合会の資料(右表)によると令和3年3末までは、自動移換者数が正規移換者数を上回っていました。令和5年3月末時点の自動移換者数は、118万人、その内66万人の口座には資産があるまま放置されている状況です。

◆自動移換されるとデメリットしかありません
①運用されない。(➢運用機会を逸する・運用益非課税メリットが享受できない)
運用していた年金資産は、いったん全て売却され現金化されます。その後に国民年金基金連合会に移換されるので
投資信託などの運用ができません。DCは、運用益が非課税になるメリットがあるのに享受できないだけでなくインフ
レが進むと資産価値が目減りしてしまいます。
②手数料が差し引かれる。
自動移換される際には国民年金基金連合会に事務手数料として1,048円、特定運営管理機関に対して3,300円の手数料が徴収されます。自動移換されてから4ヶ月後の月末までに移換などの手続きをしなければ、その後は月額52円の管理手数料が年金資産から徴収され続けます。(例:11月に自動移換→翌年3月分から徴収される)
自動移換された場合でもその資産を企業型や個人型(イデコ)へ移換することは可能ですが、手数料が発生します。

③受給開始の時期が遅くなる可能性ある。
確定拠出年金の老齢給付金を受け取るには、10年以上の通算加入者等期間が必要です。自動移換中は老齢給付金を受け取るための加入者期間に算入されません。そのため、通算加入者等期間が10年未満であれば、最大65歳まで受給できない可能性があります。
④「退職所得控除」の金額が減る可能性がある。
自動移換中は「退職所得控除」の計算に必要な勤続年数に算入されないため、一時金受取時の税制優遇効果が低下する可能性があります。
◆自動移換を回避する手続き期限の6ケ月以内とは?
自動移換手続きの期限は、前職の加入者資格を喪失した月の翌月から起算して6ヶ月以内(下表参照)です。

『自動移換』されると国民年金基金連合会から「自動移換通知」が送付され、その後年1回「定期通知」が送られてきます。通知には、資産の状況や手数料などが記載されています。

◆企業型DC加入者が退職した場合の移換先
・選択肢としては、下記の図のようになります。退職後の転職先や職種によって移換先や掛金上限額も異なります。

・積み立てた年金資産は、原則60歳まで引き出すことはできません。【E】の脱退一時金を受け取るという選択肢もありますが、法律に定める要件をすべて満たす必要があり、通常では、選択肢として考え難いです。

◆『自動移換』による年金資産の放置回避への取組・救済措置
・『自動移換』が増加している背景には、退職時の忙しさや手続きの煩雑さ以外で、制度の理解不足があると考えられます。厚生労働省では、「企業が掛け金を負担するため、自分の資産という認識に乏しく、自覚なく放置する人が多い。」として、事業主および運営管理機関に対し、退職者に対する移換手続きの説明・勧奨を行うよう指導しています。
国民年金基金連合会でも、自動移換者に対して、年1回送付する通知の中で、2017年1月から個人確定拠出年金(iDeCo)の加入範囲が拡大され、より多くの退職者が加入可能になっている旨等を周知しています。
・自動移換を減少させる取り組みとして、自動移換する前に別の確定拠出年金の口座が開設されていることが判明した場合、 もしくは既に自動移換された方が新たに確定拠出年金口座を開設した場合、自動的にその確定拠出年金口座へ移換されるようになりました。

◆アクションを起こすのは、ご自身です。
・退職後、その資産を期限内に移換する必要があることをお話してきました。企業型DCは、持ち運ぶこと(ポータビリティ)が出来るので、きちんと手続きをすることで、年金資産を継続して積立運用し資産形成をすることができます。
・移換手続きでは、運用している資産をいったん解約して預け替えることになります。それまで運用していた商品を売却して現金化し、移管先の制度の商品ラインアップの中から選択した商品を購入することになります。残念なことに売却のタイミングを指定することができないので、例えば投資信託を選んで運用をしている場合は、市場の状況によっては含み損の商品を売却してキャッシュにするため、損失を確定してしまうことになります。転職を予定している場合は、運用状況の良い状態の時にスイッチングして定期預金などの元本確保型の商品に資産を置いておくようすることで、残高が急激に減ることを防ぐことが出来ます。
・転職先に企業型DCがあれば、移管する箱はありますが、移管先としてiDeCo口座開設される方は、早速、行動開始です。iDeCo口座開設には、1~2ヶ月位かかります。iDeCo口座は1人一つの口座しか開設できません。年金資産運用口座として長いお付き合いになるので、商品のラインナップ・口座管理手数料・サポートサービス・その他の付加価値を比較して自分に合った金融機関を選ぶことが大切です。
・企業型DCに加入していた人は、退職した企業からの郵便物やメールなどは必ず確認してください。
退職した企業が積立ててくれた「大切な自分のお金」です。『自動移換』されて、残念なことにならないように、行動しましょう。
・ご自分が「自動移換」されているかもと思われた方は、下記サイトをご参照いただきくか、自動移換者専用コールセンター 03-5958-3736へ問い合わせしてみてください。
『自動移換』されてからでも移換して資産形成を継続することができます。

特定運営管理機関 (jis-t.co.jp)

180万円の壁をご存知ですか?

~59歳まで130万円の壁、60歳以上では180万円の壁になります!~

○○円の壁、と言われますが、いくつの壁があるのでしょうか。
大きく分けて、税法上の壁と社会保険上の2つの壁があります。その中でさらに複数の壁が存在しますが、今回は、60歳以上になると出てくる180万円の壁についてお話ししたいと思います。(図の青矢印部分です)

130万円の壁とは、社会保険の扶養に入れる年収の基準を表した言葉です。
社会保険上の扶養条件は次のように定められています。
≪社会保険上の扶養条件≫

表内の太字のとおり、60歳以上になると、扶養条件の年収が180万円未満に変わりますが、実はあまり知られていません。
扶養されている方が配偶者の場合、59歳までは、年金と健康保険料を自身で納入する事なく加入できましたが、60歳(厳密には60歳の誕生日の前日)になると厚生年金第3号被保険者の加入資格はなくなります。ですから60歳以降の扶養については、年収が180万円未満であれば、「配偶者の勤務先の健康保険に入ることができる」という意味になります。
扶養の条件について気をつけておきたい点がありますので、順に説明していきましょう。

【配偶者の年収の減少に注意!】
仮に、夫が扶養者、妻が被扶養者で同居している場合、年収180万円未満“かつ”収入が扶養者の1/2が条件ですので、夫に360万円以上の年収があれば、妻は年収180万円未満までが対象となります。しかし夫の収入が350万円であれば、妻の年収は175万円未満となる点に注意が必要です。雇用条件等に変化が起きることの多い60歳以降では、夫の年収の増減に伴って妻の収入条件が変わることに留意しましょう。
≪被扶養者自身の収入増加≫

60歳以降に給与以外に増える収入として、昭和41年4月1日以前生まれの方は、65歳以前に特別支給の老齢厚生年金があります。その他、個々の加入状況により、厚生年金基金や個人年金保険の受け取りがあれば、その合計が180万円未満かつ扶養者の年収の1/2であることが扶養の条件となります。65歳以降働く場合、本来の年金支給を加えると収入基準を超えてしまう可能性が高まります。その場合年金受給時期の引き下げを検討してもよいでしょう。

また、年収130万円(60歳以上では180万円)の壁を越えないよう就業調整をする方への対応として、年収の壁・支援強化パッケージと名付けられた施策が作られています。
【職場の状況等による一時的な給与収入増についての国の対応】
パート・アルバイトで働く方が繁忙期に労働時間を延ばすなどにより収入が一時的に上がったとしても、事業主がその旨を証明することで引き続き被扶養者認定されるものです。
(詳しくは厚生労働省HP:年収の壁・支援強化パッケージ

こうした施策がある一方で、10月からは更に加入対象者を増やす改正が行われます。
【2024年10月の改正に注目】
すでに2016年10月から従業員501人以上、2022年10月から従業員101人以上の勤め先で働くパート・アルバイトの方は社会保険の加入対象になっていますが、2024年10月から新たに、従業員51人~100人の企業で働くパート・アルバイトの方が社会保険の加入対象になります。なお、従業員数50人以下の企業においても、従業員と企業が合意することで51人以上の企業等と同じ加入要件にすることができるようになります。
≪対象となる従業員の要件≫

詳しくは社会保険適用拡大ガイド

社会保険加入対象者拡大の動きはこの10月の改正にとどまらず、今後は、従業員数など企業規模の要件をも撤廃する方針を固めています。また、7/3に発表された、5年ごとに行われる年金の定期健診、「財政検証」の結果では、パート労働者の加入要件である、企業規模要件・賃金要件・個人事業所の要件・週の所定労働時間要件などを撤廃した場合について、それぞれ試算と効果が示されています。支え手である加入者を増やして制度の安定を目指します。

60歳以上の方が180万円の壁を越えるなどで扶養条件から外れると、社会保険料負担(約15%)が発生し、手取り収入が減少します。では、メリットはないのでしょうか?
60歳になると第3号被保険者の資格はなくなると前述しましたが、厚生年金第1号被保険者としては70歳
になるまで加入することができますので、納付の月数に応じて年金受取額が増加します。また、自身で健康保険被保険者になることで傷病手当金の支給対象になります。

60歳以降も継続して働く人は年々増えています。ご自身の健康状態・給与以外の収入状況、ご家族の状況などもふまえ、配偶者や子どもの被扶養者になる、または被保険者として自分の年金を増やしながら働く、など今後のライフプランを考えてみてはいかがでしょう。

詳しくは厚生労働省HP 

および配偶者の勤務先の健康保険組合にご確認ください。

経過的加算って知ってますか? 

皆さんの中で、「経過的加算」と言う言葉を聞いたことのある方は どの位いらっしゃるだろうか?
経過的加算とは、年金(厚生年金)に関する用語だが、初めて聞く方も 多いと想像する。
FPでも、聞いたことはあるが詳しくは分からないというのが、実感では ないだろうか。普段、聞きなれない経過的加算だが、知らないうちに 厚生年金の額に影響を与えている。
経過的加算を深く理解するには計算式が必要だ。本ブログでは、経過的加算について計算式を用いずに、その意味する内容の概要とポイントおよび意外と得する経過的加算(注記1)について、筆者の経験を元に出来る限り分かり 易く説明する。
(注記1)ねんきん定期便では「経過的加算部分」、老齢年金ガイドでは 「経過的加算額」と記載されているが、本ブログでは経過的加算と記す。
少し長くなるが、日本年金機構のホームページから、経過的加算の説明を 引用する。

経過的加算
60歳以降に受ける特別支給の老齢厚生年金は、定額部分と報酬比例部分を合算して計算します。65歳以降の老齢厚生年金は、それまでの定額部分が老齢基礎年金に、報酬比例部分が老齢厚生年金に相当します。しかし、 当分の間は老齢基礎年金の額より定額部分の額のほうが多いため、65歳以降の老齢厚生年金には定額部分から老齢基礎年金を引いた額が加算されます。これを経過的加算といい、65歳以降も60歳からの年金額が保障されることになります。』
この説明を読んだだけで経過的加算を理解するのは困難だろう。
経過的加算には、昭和61年4月の年金制度改正が大きく関わっている。
この改正内容を知ることが、経過的加算を知る上で大切なので、 まず改正内容を調べてみよう。

1.昭和61年4月年金制度改正
この改正は大きな制度改正で、改正点はいくつかあるが、特に経過的加算
に関係する内容は:
① 老齢厚生年金の支給開始年齢の変更(60歳から65歳へ)
② 20歳以上の全国民への年金加入の義務化(学生は除く)
である。
老齢厚生年金の支給開始年齢の変更(60歳から65歳へ)
これは言うまでもなく、年金支給年齢が現在のような 満65歳以降になったことだが、いきなり60歳から65歳と すると影響が大きいので、移行措置を設けた。
生まれた年により段階的に年金支給を引き上げる 『特別支給の老齢厚生年金』である。
特別支給の老齢厚生年金については、昭和41年5月以降に生まれた方 は支給されないので、詳しい説明は省くが、興味のある方は 年金機構のホームページをご覧いただきたい。
(https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/jukyu-yoken/20140421-02.html)
この年金制度改正での大きなポイントは、旧制度では自営業者は 国民年金、サラリーマンは厚生年金という縦割りだったものを、 全国民共通の「基礎年金」を導入したことだ。
新制度では、厚生年金は基礎年金と報酬比例部分の二階建て となった訳である。

ここでは、昭和61年4月の年金制度改正で、厚生年金がそれまでの報酬比例部分と定額部だった構成が、報酬比例部分(老齢厚生年金)と基礎年金(老齢基礎年金)となったことを覚えておいていただきたい。
注記2:このブログでは、厚生年金の中の報酬比例部分を老齢厚生年金、基礎年金部分を老齢基礎年金と記載する。
②20歳以上の全国民への年金加入の義務化
日本国籍を持つ20歳以上60歳未満の人は、第1号被保険者と呼ばれ国民年金に加入することが義務化された。ただ新制度発足当時は20歳以上でも学生は除外されていた。
学生が義務化されるのは平成3年4月からとなる。この点も後ほどの議論で出てくるので、これも覚えておいていただきたい。

2.経過的加算の意味
経過的加算の内容のポイントは、大きく次の2つである。

A.旧制度と新制度での年金計算方法の違いによる老齢基礎年金の 差額補填
B.20歳未満と60歳以上で厚生年金に加入した際の厚生年金額の増加
以下に、それぞれ説明する。

A.旧制度と新制度での年金計算方法の違いによる差額補填
前掲の日本年金機構のホームページからの引用を見ると 「・・・・当分の間は老齢基礎年金の額より定額部分の額の ほうが多いため、65歳以降の老齢厚生年金には定額部分 から老齢基礎年金を引いた額が加算されます。」 と言う記載なのだが、もう少し詳しく説明しよう。
年金改正前の制度における、現在の老齢基礎年金に当たる『定額部分』と新制度の老齢基礎年金の計算方法が異なり、旧制度の方がわずかながら定額部分の方が老齢基礎年金より 金額が多くなる事態が発生した。
そこで昭和61年4月の年金制度改正前に年金加入していた人が不利にならない(年金額が少なくならない)ように調整を行うのが、経過的加算の一つの意味である。
差額の計算方法は、ここでは掲載は省略するが、多い人 (旧制度での年金加入年数が多い人)で年数万円、少ない人で 数百円である。
また、特別支給の老齢厚生年金の計算に、旧制度の定額部を用いるため、差額補填を経過的加算で行うのである。
B.20歳未満と60歳以上で厚生年金に加入した際の厚生年金額の増加
これが今回の内容の中心となる点である。
B-1. 老齢基礎年金と老齢厚生年金の相違点
老齢基礎年金は、20歳から60歳までの40年間加入し、 40年間加入する(国民年金保険料を納める)と、いわゆる満額(令和6年度では月額68,000円)が65歳から支給される。
ただ国民年金保険料が40年に満たないと、未納部分に比例して老齢年金受給額が減額される。
例えば、年金保険料を30年収めた人は、満額に対して30/40=0.75 すなわち25%減となる。
保険料納付に未納部がある方向けに救済処置ともいえる、60歳から 65歳までの間に未納分を納入できる「任意加入制度」がある。
一方、厚生年金は働き始めた年齢から70歳まで加入可能だ。
老齢基礎年金と老齢厚生年金の違いを下図に示す。

B-2. 老齢基礎年金未納分を経過的加算で補填
国民年金保険料に未納部分がある人のために「任意加入制度」があると言ったが、この制度が使えるのは自営業者などの『第1号被保険者』であり、サラリーマン等の第2号被保険者は使えない制度なのだ。
それでは、サラリーマンでは年金保険料に未納部のある人は、65歳から老齢基礎年金は満額貰う術はないのか?
ここで登場するのが、経過的加算だ。すなわち60歳を過ぎて厚生年金に加入すると、国民年金未納部を経過的加算として厚生年金が補填してくれる、ありがたい制度だ。
例えば、大学生時の20歳から22歳まで、国民年金保険料2年分未納で、22歳から会社勤めをしたサラリーマンの人が62歳まで厚生年金に加入(会社勤めを継続)したとき、60歳からの2年間で厚生年金が国民年金未納の2年分を経過的加算として、ほぼ同額を補填してくれるのだ。(注記3)     
(注記3)学生時代の2年間、国民年金保険料を支払った人で60歳以降も厚生年金に加入した場合も経過的加算は増える。経過的加算は厚生年金加入月が480か月まで加算されるからである。

ここで重要なのは、国民年金未納部分を納めた訳ではなく、あくまで 厚生年金の経過的加算で未納部を補填することに注意が必要だ。
例えば、未納年数が2年ある人が、65歳以降老齢基礎年金を繰り下げ 支給をする際の、繰り下げ計算の元となる基礎年金は38年分の年金額となることを留意する必要がある。
経過的加算は、50歳以上の方の「ねんきん定期便」に記載がある。
該当する方は、一度確認してはいかがであろうか。

前述のように、学生の国民年金加入が義務化される平成3年4月以前では、20歳から年金保険料を支払うという意識が薄かった。
60歳を過ぎても厚生年金に加入した場合、厚生年金の経過的加算で 年金保険料未納部を補填する救済措置が設けられている。
一般的に経過的加算については、定額部と老齢基礎年金の差額補填にの説明が主となっているが、20歳以後の学生時代に年金保険料未納があった筆者の実体験では、この救済措置の方が重要かつありがたい 制度だと感じている。
また、年金保険料未納が無い人でも、(注記3)で述べたように 厚生年金加入月が480か月になるまでは経過的加算は加算される。

3.まとめ
経過的加算には大きく:
A.旧制度と新制度での年金計算方法の違いによる老齢基礎年金の差額補填
B.20歳未満と60歳以上で厚生年金に加入した際の厚生年金額の増加
の二つの面がある。
特にB.では、国民年金保険料未納部を厚生年金加入年数により補填してくれる有難い部分である。
ここで注意点を2つ。
1)経過的加算は厚生年金加入年数に基づき、自動的に計算されるが、経過的加算が記載される機会が少ない。
2)経過的加算の金額は、本人が年金機構へ問い合わせる事で知ることができる(筆者も電話で確認した)。
本ブログでは、経過的加算の概要について述べた。より詳しい内容を知りたい場合は、年金事務所へ問い合わせすることをお勧めする。
このブログが皆さんの参考となれば、幸いである。

CFP 前川敏郎

投資について考えてみる

 先日、日本経済新聞の論説委員の方が講師を務めるセミナーを受講した。この中で読者に参考になるであろう事項と若干疑問を感じた事項を示し、皆様の判断を仰ぎたい。

資産4分割の運用は時代に合わない?

 いわゆる日本と海外の株式と債券に25%づつ分散投資するバランス型運用(日本ではGPIFの運用が代表例)はこれからの運用にふさわしくない、と講師は言う。それは、これからの日本の金利環境は下がることはなく、いつかは兎も角、いずれ上がってゆく環境にある。ということは債券の金利が上昇すると債券価格は下がるという法則からすると、価格が下がる債券を運用に含めるのはナンセンスであり、他の資産に入れ替えるべきだという。

 この指摘を受けて最初私もバランス運用の投信を見直さなくてはと正直思った。しかし、そもそも資産4分散の考え方は値動きの違う資産(株式と債券)を組み合わせて価格の変動リスクに備えるというものであり、慌てて修正すべきではないと考えるようになりました。ただ、資産分散の割合は今後株式の割合を増やし、債券の割合を減らすという手当は必要なのではないかと感じている。

“オルカン“だけで良いのか?

 今年1月からNISA制度が大幅改正され、新聞報道等によればネット証券が若年層の大半の証券口座を獲得し、1人1口座の口座獲得競争はほぼ決着したと言われている。もっとも野村証券等の大手対面型証券会社が本気でNISA口座獲得に動いていたという実感はない。そもそもネット証券が選好されているのは主に手数料が0円という点にある。手数料が0円ではいくら口座が増えても会社の利益には貢献しない。大手対面証券会社が冷ややかな?対応なのもわかる気がする。

 そして、本年2月の投資信託販売額最上位は1月に続き、三菱UFIモルガンスタンレー証券のEMAXIS-SLIMシリーズの「全世界株式(オール・カントリー)」、略称「オルカン」であり、購入額は1,892億円、第2位は同シリーズの「米国株式(S&P500)」で1,415億円であったという。(いずれも日経掲載記事より)

 この状況は全世界への資産分散、好成績のS&P500銘柄への投資であること、またEMAXISシリーズが同業投信の中で最低手数料(オール・カントリーで信託報酬は年0.05775%)であることから正しい選択といえるし、人気があるのもわかる。

 ただ、私が気になるのはNISAでオルカン等を積み立て投資を始めて(金額は人によって異なるだろうが)とりあえず時流に乗ったと思っている投資家・生活者に問いたい。確かに上記2つの投資信託は手数料も安いし、これまで成績も好調ではある。が、それは4資産分散の区分でいえば海外株式の1部に投資を始めたにすぎず、1本足打法的な危うさがありはしないか?

 勿論、投資資金にも限度があるという声があるのもわかる。たが、所得の中からだけでは投資資金に限度があるのもわかる。しかし、今回のNISAの改正は所得の中からだけではなく、既に保有している預貯金や課税扱いで行っている証券投資(株・投資信託)から非課税枠の広がったNISAに資金を移動させてこそ非課税のメリットを最大限享受出来るのではないだろうか?

                           CFP 重田 勉

「おひとりさまの不安」を少しでも解消するために

最近のFP相談は50~60代の女性のおひとりさまが多いように感じます。

一人っ子で未婚のまま両親が他界し、全く1人になった。兄妹はいるが、姪や甥に負担はかけたくない。姉妹はいるがお互い疎遠であるなど。

国立社会保障・人口問題研究所の「人口統計資料集(2023年)」によると、2020(令和2)年の「50歳時の未婚率」は男性が28.25%、女性が17.81%でした。前回調査と比べると、男性は約3.5ポイント、女性は約2.9ポイント上昇しています。

そしてこの折れ線グラフはさらに上昇していくと思われます。

結婚していない理由の国際比較は、日本は「適当な相手にまだ巡り会わないから」が一番多く、婚外子が多いフランスやドイツでは「結婚をする必要性を感じないから」、お隣韓国では図にはありませんが、「資金不足」が全年齢層で最も多く、若者世帯のうち親と同居する未婚世帯が59.7%とのことです(2019年のパラサイト半地下の家族が思い起こされます)。世界的にも未婚の上昇率は上がっています。

さて、話を日本に戻しましょう。このブログでは現実的におひとりさまの不安を少しでも取り除くよう注意点をお話します。

【働き方】

働き手が自分しかいないため、年金を受け取るまで働き続ける必要があります。

女性の場合年収400万円で22歳から65歳まで働いたとしても65歳からの年金は厚生年金と基礎年金で174万円程度。退職金が見込めない場合、できるだけコツコツ貯蓄に励みましょう。iDeCoやNISAもおすすめです。

親の介護のための介護離職は絶対に避けましょう。介護休業制度を利用し、親の居住地域の地域包括支援センター、社会福祉協議会に相談し、親の資産・年金から介護プランを立てましょう。

決して自分の預貯金を取り崩すのは避けましょう。

【住まい】

高齢になると借りにくいということもあり、余裕があるなら駅近のマンションを購入しておけばいざとなったときに売却しやすく資産となります。また親と同居している家なき子(家を持たない子)は親が亡くなったとき「小規模宅地の特例」が使え、特定居住用宅地等は要件を満たことで330㎡までの部分が8割減で評価できます。

高齢者施設を探すのも自分。持っている資産で施設にいつまでいられるのか、どういう生活を送りたいのか、送られるのかの視点で決めましょう。



【年金の受け取り方】

厚生年金は65歳から受取り、基礎年金を繰り下げし受給額を増やす方法もあります。ただ何歳まで生きるかは誰にもわかりません。FP相談でキャッシュフロー表を作成することもおすすめです。

【病気・介護への備えと終活】

入院手続きでは身元保証人を家族にすることが多いですが、おひとりさまはそれを信託銀行のおひとりさま信託や、司法書士や行政書士法人の見守りサポートや財産管理サポートなど民間の「身元保証サービス」を利用するのも選択肢です。

認知症になったとき、葬儀、納骨、死後事務、クレジットカードの解約やPC、スマホなどデジタル遺品の削除など誰に依頼するか準備しておきましょう。金融資産の多寡にかかわらず、親族とのトラブルを避けるために遺言書は公正証書で作成しておくことをおすすめします。

民間の財産管理サポートを使うほど資金がないという方は、居住地域の市町村の社会福祉協議会に相談しましょう。

CFP 佐藤広子

孫子の兵法で「人生100年」に勝つ!

「孫子」は紀元前に中国で生まれた兵法書で、孫武の作と言われています。世界中の人にいつの時代でも読まれ続けています。困難に立ち向かうときや大きな決断をしなくてはならないときに、どうすべきかのヒント(手法)が詰まっているからです。「人生100年時代」の私たちにとっても貴重な教えが入っているに違いありません。

遅かれ早かれ必ずや、やって来る老後。満足な幸せな日々を送りたいものです。

それでは「孫子」を開きましょう。全部で13篇(それ以上との説もある)ですが、テーマに関係した部分だけを抜粋します。

謀攻篇から

①「彼を知り己を知れば、百戦して殆(あやう)からず。彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。彼を知らずして己を知らざれば、戦う毎に必ず殆し」

~勝利を確実なものにするには、敵を知り、おのれを知ることである~

出典:総務省 家計調査報告(家計収支編 2022年)

もう皆様はお忘れでしょうか?国会で物議を醸した「老後に2,000万円が不足」。平和で安穏なくらしに浸っていた私達に驚きと衝撃の一石を投じました。これは2017年総務省の高齢夫婦無職世帯の家計収支(月)の資料が基になりました。不足分「月5.5万円の赤字」(年間66万円)を65歳の人が30年、95歳まで生きるには1,980万円・・・約2,000万円必要になると計算されたわけです。あれから、5年後の資料です。

新しい資料(2022年)の図-1からはひと月の不足分赤字(赤丸)は2.2万円です。95歳まで生きるとしたならば、792万円必要です。前回より共働き夫婦の増加で年金(収入)が増え、2020~2022年の新型コロナウイルス感染症の影響から我慢の日常いわゆる外への消費(支出)が激減したため、かなり収支がよくなっています。新型コロナウイルスから解放され始めた2023年の資料がほしいところです。2年間辛抱した反動できっと2,000万円近くになっていると思われます。あなたはあの日常をずーと、継続できますか? やはり、それなりに豊かに楽しく活動的に暮らすことを望まれるでしょう。なお、個人の保有資産額でも、老後に必要な金額は変わってきます。

形篇から

②「昔(いにしえ)の善(よ)く戦う者は、先ず勝つべからざるを為(な)して、以(もっ)て敵の勝つべきを待つ。勝つべからざるは己れに在るも、勝つべきは敵にあり。」

戦上手はすぐに相手を攻めるのではなく、負けないための準備をしっかり整えて、勝つチャンスをじっくり待っている~

先ず、やらなければならないのは相手の事より、自分の事です。守りを固めます。

さて、あなたの個人資産は現在どれほどでしょうか?

答えられない方は家庭内の「表-1貸借対照表」(バランスシート)を作成しましょう。

貸借対照表を作成すると今現在の資産状況が一目でわかります。「人生100年時代」を乗り越えられそうですか?純資産合計がマイナス、または思ったより少ないと不安を感じた方はどうぞ、「FPみらい」の「ご相談・お問合せ」を利用ください。家計の状況がわかったところで、次へ。

計篇から

③「算多きは勝ち、算少なきは勝たず。而(しか)るを況(いわ)んや算無きに於いてをや」
~計略(勝算)が多いほうが勝ち、少なければ勝てない。あらゆる知略を使い勝つことである~

資産を増やす方法は長くお勤めするほかには金融資産運用、保険の利用、公的年金の繰り下げ受給、不動産活用など考えられます。金融資産運用として、日本国内に住む20歳以上(NISAは18歳以上)の人なら概ね誰でも、利用可能なiDeCoとNISAをお勧めます。表-2はこの二つの制度の内容を比較して表示しています。

iDeCo(イデコ)は、掛金の拠出時、運用時,受取時に手厚い税制優遇が受けられます。基本的に60歳以降にならないと受取ができません。口座開設に2か月はかかり、加入時、運用時、受取時には手数料も必要で、拠出可能金額は職業により違います。また、年末調整または確定申告で控除の申請をしないと税制優遇が受けられません。普及・利用促進しているのは厚生労働省です。

NISAは金融機関、商品によっては、購入手数料がかかる場合もあります。一週間程度で口座開設もでき購入商品も豊富(金融機関による)で解約(受取)はいつでも可能です。ただし、NISA口座は一人、一金融機関口座です。普及・利用促進しているのは金融庁です。

NISAはお得な制度ですが、もしも、損が発生したときは、通常の口座での取引で可能な「損益通算」、「繰越控除」は対象外です。上手に活用しましょう。

新NISAの「生涯投資枠」1,800万円は前述の2,000万円に近いです。 嬉しいですね。

虚実篇から

④「先に戦地に処(お)りて敵を待つ者は佚(いっ)し、後れて戦地に処りて戦いに趨(おもむ)く者は労す。」
~大事の前は早めに行動、準備をすると、楽に勝利を得るし、遅ければ苦労が多い~

iDeCoとNISAの商品の中で、「積立投資信託」は初心者にやさしくて取り組みし易いと思います。何事も早めに(若くして)スタートすれば、それだけ時間と金額に余裕が生まれます。「積立投資信託」も同様です。

たとえば、20~30代で積み立て投資信託を始めれば、「長期」、「分散」、「積立」と投資の成功への3原則をクリアすることになります。さらにiDeCo、NISAには、税優遇制度がテンコ盛りです。慎重な金融機関と商品の選択は必須ですが、早めに行動を起こしましょう。

なお、商品の選択については2021年3月投稿のブログ3月 | 2021 | みらいを作る旅 (fpmirai.biz)をご覧ください。

図-2(筆者作成)は20歳から投資信託を積み立てたグラフです。収入が増えると余裕資金も出てきます。20代は毎月10,000円、30代は20,000円、40代は30,000円、50代は40,000円と積立額を増額しています。年3%の月複利の運用です。

経済等の変化に伴い投資信託の価格も上下に変動するので、実際はこんなみごとな積み上がりにはなりませんが、デコボコしながらも右上がりのグラフになると考えられます。

60歳になると2,000万円に届きそうな資産総額となり、テンションが上がります。この様な結果も見込めます。ご夫婦なら2倍です。なお、60歳時の簿価額(元本)は1,200万円なので、まだまだ600万円は投資が可能です。ただし、年間360万円が限度です。運用中は世界経済の大小の変動が起こりそれに伴なって資産総額も増減しますが、また自分自身にも大きな支出が必要となります。

勢篇から

⑤「善(よ)く戦う者は、其の勢(せい)は険(けん)にして、其の節(せつ)は短し。」
~ふだんからコツコツと努力を重ね、いざというときには惜しみなく使う~

人生のイベントには大金が要ります。結婚、出産、教育、旅行、住宅、入院手術など。

図-3(筆者作成)は前の条件(積立増額)で積み立てしているNISAの投資信託を40歳で100万円、50歳で200万円引き出したケースです。NISAはいつでも引き出しができます。

大きな支出があっても、60歳には手元に総額1,500万円が残ります。この様な結果も見込めます。ご夫婦なら2倍の金額です。新NISAは引き出した翌年には引き出した金額のうちの投資額分が復活し、あらたに投資が可能となります。ただし、年間360万円が限度です。

火攻篇から

⑥「主(しゅ)は怒りを以て師を興すべからず、将(しょう)は慍(いきどお)りを以て戦いを致すべからず」
~怒りに振り回されて、行動してはいけない。いつも、冷静に判断をすること~

経済等の変化に伴い投資信託の価格も上下に変動します。運用成績は積立預金のように着実に積み上がりません。デコボコに動きます。さらには、突発的な現象(例:新型コロナウイルスショック)が起きると、否応なしに下落します。市場の大暴落です。早く市場から逃げたい、積立を中止しようと考えるのは当たり前です。

「冷静沈着であるべきです。一節時の憤りに駆られて戦いをしてはならない」と孫子は言っています。そこで、ドル・コスト平均法の登場です。図-4をご覧ください。

「 一定額を」、「定期的に」購入する方法をドル・コスト平均法と言います。価格が高いとき少なく、価格が低いとき投資信託を多く購入できるので、購入単価が平準化されます。値下がり局面はだれでも嫌な事です。ところが、図―4のように、その時、投資信託を安く、たくさん購入できます。そのまま長期に積立投資を続けると結果的には平均購入単価が安くなり、値上がりしたときの収益もあがります。「安いときに買って、高いときに売る」は投資の基本です。値下がり局面をチャンスと考えて、あわてて積み立てを中止したり、さらには全部売ってしまう過激な行動はやめましょう。

同じく火攻篇から

⑦「夫(そ)れ戦勝攻取して、其の功を修めざるものは凶なり」
~争いに勝って手に入れた可能性をむだにしてはいけない~

一般的に65歳になると主な収入は年金だけで、投資信託への積立はできなくなります。いよいよ資産の取崩しの時に入ります。全額を現金化せず、貯まった投資信託はそのままに、市場に居続け、運用しましょう。新NISAは非課税期間が無期限です。運用しながら、生活費の不足分を一部引き出します。

さて、取崩方法ですが、「定額取崩し(毎年○○○○円引き出し」か「定率取崩し(毎年○○%引き出し)」か迷います。「定額取崩し」は資産の時価が下がったとしても、切り崩す金額は一定です。そのため、資産の減少を推し進めることになります。一方「定率取崩し」は資産が多いはじめの時や資産の時価が上がった時は、多くの金額を取崩しますが、資産の時価が下がった時や生活費が減少していると思われる晩年期は、取崩す金額が少なくなります。積立していた時のドル・コスト平均法の逆バージョンです。つまり時間分散効果によって、資産寿命を長く維持できるのです。「定額取崩し」と「定率取崩し」の併用も可能ですが、複雑になりそうです。

図-5(筆者作成)は残った1,500万円の資産の投資信託を年利2%で運用しながら、シンプルに定率5%を毎年取り崩したグラフです。将来のインフレを考慮し、取り崩す金額は多めに、運用利率はやや厳しく設定しました。結果、65歳時は年間75万円、100歳時は25万円を取崩すことができます。そして残った資産は500万円です。ただし、取り崩す金額と残額は図のような数値にはならず、経済状況の変化でデコボコと変化しながらも概ねゆっくりと右下がりに減少します。この様な結果も見込めます。「人生100年時代」を乗り切りました。「積立投資信託」ってすごいですね 。

最後に計篇から

⑧「将は聞かざることも莫(な)きも、これを知るものは勝ち、知らざる者は勝たず」
~いろいろな情報を見聞きし、理解してもそれだけで終わっては何もならない。実際に行動に移すべきである~

2025年には、団塊の世代(第一次ベビーブーム)約800万人以上が75歳以上を迎え、後期高齢者となります。そうなれば年金・医療・介護などの社会保障費が限界に達し、社会全体に負の影響をもたらす心配があり、社会保険料の値上げが懸念されます。これまで「支えてきた側」の団塊の世代が、2025年には「支えられる側」になるからです。「2025年問題」です。さらに、インフレになったら、、、、と。

ますます、資産運用の重要性が大きくなります。いまだ、iDeCo、NISA口座を開設していない、または実際に取引をされていない「あなた」。今日から一歩前に進みましょう。なお、投資信託は元本が保証されてません。よく吟味し、自分の責任で判断し、商品を選択されてください。

最強の武将、武田信玄も そして天才と言われた吉田松陰も読んでいた「孫子」「人生100年」に向かって、 いざ 出陣!!

楠本智子 CFP認定者
(ファイナンシャル・プランナー)
2024年3月15日

「おひとりさま」のライフプラン

ライフプランセミナーや年金セミナーでは「夫婦と子供2人」の標準世帯 を基に、収入や支出の状況、将来の計画を反映した金融資産残高の推移をシミュレーションし家計収支の改善策を検討してゆきますが、終了後の参加者からのアンケートでは「おひとりさま」を基にしたシミュレーションを望む声が特に女性の参加者から多く寄せられます。そこで今回、女性の「おひとりさま」のライフプランについて考えてみます。

図1は一般世帯総数に占める夫婦と子供の世帯と単身世帯の比率の推移です。1980年では4割強を占めていた夫婦と子供の世帯の比率は2005年過ぎに単身世帯と逆転し2020年には2割台半ばにまで低下する一方単身世帯の比率が3割台半ばまで増加しています。この傾向は今後も継続すると予測されています。

単身世帯は高齢化が進む中で配偶者の死亡や離婚で単身になる人の他、結婚を望まず「おひとりさま」の人生を選択する人も増加しています。図2は50歳までに一度も結婚しない人の割合を示す「50歳未婚率」の推移です。 1980年では男性2.6%、女性4.5%だった50歳未婚率は、2020年には 各々28.3%、17.8%にまで増加しています。男性の3人強にひとり、女性は5人強にひとりが「おひとりさま」の人生を歩んでいます。この傾向は今後も継続すると予測されています。

「おひとりさま」のライフプランでは、住み方(住宅を購入するか賃貸にするか)、病気になった場合の収入減少のリスク、セカンドライフでの収入・病気・介護への備えさらに人生の幕を閉じるときのことを含め、同居する家族がいないことによる特有の準備が必要になります。

現在50歳の会社員の独身女性を例に、老後に必要となる資金額及び資金確保に必要な方策について考えてみます。

1.おひとりさまの収入、支出、金融資産残高

1.1 収入

国税庁の「令和4年分 民間給与実態統計調査」によると女性勤労者の平均年収は3百万円台ですが、この平均年収で40年間厚生年金に加入した場合、国民年金と厚生年金を合わせた65歳からの受給額は年額で150万円程度となります。

1.2  支出

 総務省の「2022年家計調査報告 家計収支編」によると、女性単身勤労者の消費支出は年額で237万円(35歳~59歳の平均値)、これが65歳以上の単身無職世帯になると 男女平均で年額172万円となります。

1.3 金融資産残高

総務省の「2019年全国家計構造調査  所得に関する結果及び家計資産・負債に関する結果」によると、50歳代の女性単身者の金融資産残高(金融資産額から金融負債額を引いた額)は850万円となります。

2.「おひとりさま」の50歳から90歳迄の金融資産残高の推移

図3は前記の資料を基に勤務期間・年金受給開始年齢及び金融資産運用の有無別に6種のケースについて作成した現在50歳の女性のおひとりさまの90歳まで(65歳時点の女性の平均余命から算出した平均寿命)の金融資産残高の推移です。

金融資産の運用をする際の期待収益率(年率)は59歳までは3%、60歳以降はより安定的な運用を目指し1%としています。

      勤務期間 年金受給開始 資産運用                       

ケース1  59歳迄     65歳          なし      

ケース2   59歳迄    65歳       あり        

ケース3   64歳迄    65歳       な し        

ケース4   64歳迄    65歳       あり          

ケース5   69歳迄    70歳       なし                

ケース6  69歳迄     70歳      あり     

1)90歳時点の金融資産残高

・ケース―1及び2

会社を59歳で退職し公的年金を65歳から受給し資産運用をしない場合、金融資産残高は88歳でマイナスになってしまいますが、資産運用をすと90歳の時点で7百万円に回復します。

・ケース―3及び4

厚生年金に加入しながら64歳まで勤務を継続し公的年金を65歳から受給する場合、90歳時点での金融資産残高は資産運用をしない場合は16百万円、資産運用をする場合は28百万円に増加します。

・ケース―5及び6

就業率は男女ともに年々増加し女性の65歳~69歳の就業率は2022年は41.3%に達しています。厚生年金に加入しながら69歳まで勤務し公的年金を70歳から受給する場合、公的年金の受給額は65歳時の受給額の42%増の金額に65歳から69歳迄の勤務による厚生年金の増額分と合わせ年額233万円となり、 90歳時点での金融資産残高は資産運用をしない場合は32百万円及び資産運用をする場合は46百万円に増加します。

2)長く働くことによる収支改善効果

ケース1(59歳迄勤務し65歳から年金を受給)を基本とし、ケース3(64歳迄勤務し65歳から年金を受給)およびケース5(69歳迄勤務し70歳から年金を受給)の場合の90歳時点での収支改善額を比較すると、各々、17百万円、33百万円という大きな効果が得られることになります。健康が許す範囲でできるだけ長く働くことが収支改善に効果的であることがわかります。

3)資産運用による収支改善効果

資産運用による90歳時点の収支改善額を勤務期間別に比較すると、59歳迄勤務するケース1及びケース2、64歳迄勤務するケース3及びケース4、69歳迄勤務するケース5及びケース6で、各々8百万円、12百万円、14百万円ととなり、長く働くことと共に資産運用による収支改善効果は大きいことがわかります。

3.老後資金の必要額

1)介護費用

年代別人口に占める要支援・要介護認定者の割合は、厚生労働省の「介護給付等実態統計調査月報」(2023年1月審査分)及び総務省の「人口推計月報」(2023年1月確定値)を基に生命保険文化センターが取りまとめた結果によると、75歳~79歳、80歳~84歳、85歳以上の各年齢層で、 各々、12.1%、25.8%、59.8%となっています。85歳以上では2人に1人以上が要支援・要介護の認定者となります。

「おひとりさま」の場合、自身の介護が必要になった際同居する家族がいないため外部の介護サービスを利用することになります。

生命保険文化センターの「2021年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、介護が必要になった場合の住宅の改造や介護等の一時費用は平均で74万円、介護に必要な月々の費用は公的介護保険サービスの自己負担分を含み平均で月額8.3万円、介護を始めてからの介護期間は平均で61.1か月となっています。 これらの数値から計算した介護費用総額は581万円となります。

要介護度が進み、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護付き有料老人ホーム等介護付き高齢者施設に入居する必要が出てくる場合、その費用も準備しなければなりません。

2)賃貸の場合の住居費

図3の金融資産残高の推移は、消費支出額については「2022年家計調査報告 家計収支編」の数値を使用していますが、年齢層が高くなるにつれ持ち家の比率が高くなっており、特に65歳以上の単身世帯での持ち家の比率が約9割であることを反映し住居費は月額1万円程度とかなり低い額となっています。住居費は賃貸の場合は、特に大都市圏では住居費は大幅に増加します。

総務省の「平成30年住宅・土地統計調査」によると、家賃は全国平均で月額約5.6万円、筆者の住む神奈川県平均では6.8万円です。

50歳から90歳までの賃貸の場合の住居費は全国平均の家賃額を使用すると総額で2,740万円となり、「2022年家計調査報告 家計収支編」で使用されている住居費の総額825万円と比較し、約19百万円増加することとなります。

3)老後資金の必要額

90歳時点での金融資産残高は、介護が必要になる場合介護費用分としては約6百万円、住居が賃貸の場合はさらに約19百万円が追加で必要になります。 

従って、介護費用分のみを考慮すると図3のケース2(59歳迄勤務、65歳から年金受給開始、資産運用あり、金融資産残高7百万円)程度の金融資産残高が、これに住居が賃貸の場合に必要な金額を加えると、ケース4(64歳迄勤務、65歳から年金受給開始、資産運用あり、金融資産残高28百万円)程度の金融資産残高が必要になります。

必要な老後資金を確保するためには、「おひとりさま」世帯及びそれ以外の世帯の場合でもできるだけ長く働き、繰下げにより増額された公的年金を受給するまでの期間は私的年金等で乗り切り人生100年時代に備えるWPP(Work Longer  Private Pensions  Public Pensions)の考え方が必要になります。

加えて資産運用も老後資金の確保に重要です。2024年1月からの新NISA制度の開始に加え、金融経済教育を推進する「金融経済教育推進機構」の2024年の設立が決定されました。これにともないFP等中立的な立場から個人の資産形成を支援するための「認定アドバイザー」制度の準備が行われており、FPへの期待は高まっています。

「おひとりさま」の比率が今後も高まっていく中で、「おひとりさま」特有のリスクを踏まえたライフプラニングが必要となりますが、個々に異なる経済状況や目標を基にキャッシュフロー表を作成し、収支改善策を含め具体的な解決策を提案して行くことがFPに求められています。

CFP 岩船康則

いよいよ始まった新NISA 一番大事なのは続ける事

 いよいよ新NISAが始まりました。
日本の株式市況も直近では活況で34年ぶりの高値を抜いたなどと報じられています。
このような高値を更新したようなニュースを連日、耳にすると今まで投資は避けていたけど、新NISAも始まって、まわりでやっている人も多くなってきたので自分もやってみようとか思う人が増えてきます。でもそのような周りの雰囲気で始めると、今後暴落が起こったりすると止めてしまう人が続出します。
 株式というのは一本調子に値上がりするものではなく、上がったり下がったりしながら長期でみると上がっていくということなのです。
 よく、年利5%で成長すると20年後には何万円になって、こんなに儲かるんだよって見せられるグラフはたいてい右肩あがりの綺麗なグラフ。

金融庁のホームページでの積立シミュレーショングラフ毎月5万を20年間

でも実際の投資では、こんなにきれいなカーブを描きません。

 日経平均株価もリーマンショックの時は約5割程度下落、コロナショックの時は約3割下落しました。

 実は、つみたて投資 9割の人が4年でやめるというデータもあるようです。

ダイアモンドオンラインの記事より抜粋

 株で一番儲けている人は、実は「亡くなった人」と「買ったことを忘れている人」という話もあります。

 ウォーレンバフェットの有名な言葉に 「あなたの投資方法はシンプルなのにどうして他の人は同じように儲けられないのですか?」との問いに「ゆっくり金持ちになりたい人はいない」というものがあります。

金融庁のつみたてNISA早わかりガイドブックより抜粋

 新NISA投資にネット界隈で最適といわれている全世界株に投資するオルカン(三菱UFJアセットマネジメントが運用する「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー」には1月9日のたった一日で昨年12月の資金流入分を上回る1013億円もの資金が流入したと報じられました。(QUICK資産運用研究所調べ)

きっと新NISAでの投資なのかと推定されます。

 これらに投資した人が、今後起こることがある○○ショックなどに耐えて、ずっと持ち続けて利益が得られるようになることを祈りたいと思います。

CFP 磯野正美

働き方の違いで、公的保険も変わる!フリーランスVSサラリーマン

◆「年金」と聞くと老齢年金のことを思われる方が多いと思いますが、年金は公的保険のひとつで、3つの保険の役割があります。①老齢年金保険の他に②障害年金保険③遺族年金保険です。
日本の年金制度は、1階を国民年金、2階を厚生年金、3階を私的年金とする3階建てになっており、国民年金は、対象年齢の国民全員が加入する年金、厚生年金は会社員などが加入する年金です。私的年金には、確定給付企業年金や企業型確定拠出年金、個人型確定拠出年金(iDeCo)が該当します。
働き方の違いで、1階部分だけの保険給付が受けられる場合と1階部分と2階部分の両方の手厚い保険給付が受給できる場合と異なります。

◆働き方の違いで異なる遺族年金保険給付について例を挙げて説明致します。


【事例1】
・ご主人が第1号被保険者であった場合、子どもが18歳到達年度まで、遺族基礎年金と子の加算額合計で年額1,023,700円が支給されます。子どもが18歳到達年度末以降、給付額はゼロです。
・配偶者は、60歳~65歳まで寡婦年金402,468円が支給されます。65歳以降、自分基礎年金の年額795,000円が支給されます。
(※寡婦年金:第1保険者の加入期間が25年以上ある第1被保険者の夫が死亡し、死亡時に老齢基礎年金や障害基礎年金を受給していない場合、妻(婚姻期間が10年以上)に対して支給される遺族年金。支給額は、夫の老齢基礎年金の4分の3)

 【事例2】
・ご主人が第2号被保険者であった場合、子どもが18歳到達年度まで、遺族基礎年金と子の加算額に加えて遺族厚生年金546,000円が加算され合計で年額1,569,700円が支給されます。
・子どもが18歳到達年度末以降、配偶者は、65歳まで遺族厚生年金に中高齢寡婦加算596,300円が加算され合計で年額1,142,300円が支給されます。65歳以降、自分の基礎年金と遺族厚生年金の合計年額1,341,000円が支給されます。
(※中高齢寡婦加算:厚生年金に20年以上加入していた被保険者である夫を亡くした妻が、40歳以上65歳未満、子がいない、または末子の年齢が18歳到達年度末日を経過している場合に、遺族厚生年金に加算されるもの。受給できる金額は、遺族基礎年金の満額の4分の3相当。)

【事例1】【事例2】から、第2号被保険者の配偶者の受給額が手厚いことが分かります。

・次の【事例3】【事例4】は、転職して働き方が変わった場合です。

【事例3】
・ご主人が、第1号被保険者であった場合、子どもが18歳到達年度まで、遺族基礎年金と子の加算額合計で年額1,023,700円が支給されます。子どもが18歳到達年度末以降、給付額はゼロです。
・配偶者は、65歳以降、自分の基礎年金の年額795,000円が支給されます。


【事例4】
・ご主人が、第2号被保険者であった場合、子どもが18歳到達年度まで、遺族基礎年金と子の加算額に加えて遺族厚生年金505,600円が加算され合計で年額1,529,300円が支給されます。
・子どもが18歳到達年度末以降、配偶者は、65歳まで遺族厚生年金に中高齢寡婦加算596,300円が加算され合計で年額1,101,900円が支給されます。65歳以降、自分の基礎年金と遺族厚生年金の合計年額1,300,600円が支給されます。
➢亡くなった時に第1号被保険者の場合、以前、第2号被保険者であったとしても保険料納付済、保険料免除期間および合算対象期間を合わせて25年以上でないと遺族厚生年金を受給できません。事例3では、保険料未納期間の2年が残念な結果となりました。
➢亡くなった時に第2号被保険者の場合、遺族厚生年金の短期要件に該当し、受給額が手厚いことが分かります。

◆国の社会保険制度には、年金保険以外にも医療保険、雇用保険、労災保険、介護保険があり、働き方によって加入する保険が異なり、給付内容・保険料の計算方法・仕組み等に相違点があります。
転職して働き方が変わった場合、確認してみてください。

2023年12月 CFP 石黒貴子

【詳細は、下記をご参照ください】
・遺族年金ガイド令和5年版 
・日本年金機構HP 遺族厚生年金  遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)


インボイス制度って何?

業種にかかわらずすべての事業者に影響があるインボイス制度が2023年10月1日からスタートしました。特にフリーランスや個人事業者など消費税の免税事業者にとっては大きな選択を迫られることになります。どんな制度なのでしょう。

インボイス制度とは?

「事業者が納める消費税額の計算に関する新たなルール」です。消費税の納税額の計算は「売上時に預かった消費税―仕入や経費で支払った消費税」(原則課税)が原則(※注1)ですが、今後はインボイス発行事業者(=適格請求書発行事業者)が発行した請求書や領収書でないと仕入や経費で支払った分の消費税を差し引くこと(=仕入税額控除)が認められなくなりました。(※注1原則課税の他に、事業種ごとのみなし仕入率で算定して納税する「簡易課税」の計算方法もあります。)

インボイス(=適格請求書)とは?
インボイスとは英語では送り状や請求書などの書類を意味する言葉ですが、この制度の中の「インボイス」とは法令上「適格請求書」と規定されていて、売り手が買い手に対して“正確な適用税率や消費税額”などを伝えるものです。制度開始前の請求書・レシートなど(=区分記載請求書)の書類やデータに 

A発行した事業所の登録番号

B消費税率(8% or 10%)

C税率ごとの消費税額 

が追加で記載されたものです。
A の登録番号をもらうには、国税庁に「インボイス制度への登録申請」をして「適格請求書発行事業者」(インボイス発行事業者)になる必要があります。

消費税の仕入税額控除って何?

消費税の納税方法は、事業者の毎期の課税期間中、売り上げの際に取引先や消費者から受け取った消費税額(売上税額)から、その仕入れの際に支払った消費税額(仕入税額)を差し引いた差額を算出して納めます。
例えば、(分かり易くするため簡略化しますが)仕入先から220万円(10%税込み)で花を仕入れて、店舗で330万円(10%税込み)で販売した場合、店舗の事業者は、消費者から受け取った消費税額30万円から、仕入先に既に支払った消費税額20万円を差し引いた額の10万円を納税します。このように仕入れの際に支払った消費税額を差し引くことを「仕入税額控除」といいます。「仕入税額控除」は、生産や流通などの各段階で多重に消費税が課されることのないようにするための仕組みです。

これまで、課税売上高が1,000万円以下や、新規開業者の原則1年目など、一定の条件を満たす事業者は「免税事業者」として、消費税の納税が免除されてきましたので、売上時に預かった消費税分はいわゆる「益税」となっていました。今後、買い手側(図の課税事業者・花屋さん)にとって、仕入税額控除が認められないと、消費税支払いの負担が大きくなるため、取引のある免税事業者(図の仕入先)にもインボイスの発行を求めることが想定されます。免税事業者は、求めに応じてインボイス発行事業者(課税事業者)となるか否か、選択しなければなりません。

インボイス制度の登録
免税事業者のインボイス制度登録は任意です。制度開始後の今からでも2029年9月30日までは登録申請可能です。
①インボイス制度に登録した(課税事業者になった)場合の影響
・インボイス発行事業者の登録には有効期限はないため、更新の手続きは不要。インボイス発行事業者取消し手続きをしない限り登録は持続される
・取引先との取引が継続できる可能性が高い
・新たな顧客や企業との取引を進めやすい
・課税事業者となり、納税額の大幅な負担増となる
・日常の経理・確定申告等事務処理の負担増となる(※2)(※注2:みなし仕入率を使って計算をする「簡易課税」を申請すると「原則課税」と比べ事務処理が軽減する場合があります)
②インボイス制度に未登録(免税事業者のまま)の場合の影響
・消費税の納税義務なし
・消費税納税やインボイス管理等の事務作業は不要
・従来の取引先から値引き交渉される可能性がある(一方的な通告などは独占禁止法・下請法上の問題となる場合があります)
・新規取引先(課税事業者)獲得が難しくなる可能性がある
・業種によっては免税事業者であることがブランド力に影響する可能性も?

一般的に、免税事業者のインボイス制度登録判定の目安は、売上先に原則課税方式で納税をしている課税事業者がいるかどうかがポイントといわれています。
様々な経過措置・支援措置
インボイス制度は大きな改正なので、最長6年間の激変緩和措置が設けられています。
【1】2割特例「小規模事業者にかかる税額控除に関する負担軽減措置」
[対象者]:令和5年10月1日以降にインボイス登録事業者となった免税事業者
[実施期間]:令和5年10月1日~令和8年9月30日までの日の属する各課税期間
[効力]:仕入税額の実額計算不要、売上税額の2割を一律納付、事前の届出が不要
インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になった者のみ利用できる時限的な負担軽減措置です。売上税額の2割分を納税するという制度で、図の〈簡易課税のみなし仕入率〉を80%(=80%控除できる)として納税額を求めた場合と等しくなります。第3~6種事業の場合、多くはこの特例を利用することで負担軽減となります。

【2】少額特例「一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置」
[対象者]:基準期間における課税売上高が1億円以下、
または特定期間(個人事業主の場合、前年1月1日~6月30日)における課税売上高が5千万円以下の事業者
[実施期間]:令和5年10月1日~令和11年9月30日
[効力]:1回の取引で税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存が不要。
要件を満たす事業者であれば、税込み1万円未満の仕入れや経費の取引について、インボイスの保存が必要なく、帳簿の保存のみで仕入税額控除ができるものです。
【3】80%(50%)控除「免税事業者からの仕入れに係る経過措置」
[対象者]:すべての課税事業者
[実施期間]:令和5年10月1日~令和8年9月30日、令和8年10月1日~令和11年9月30日
[効力]:原則課税において、インボイスでない請求書等でも一定額を仕入税額とみなして控除可能。令和8年9月30日までは仕入税額相当額の80%、令和8年10月1日から50%。
すべての事業者に適用可能な6年間の経過措置です。特別控除としてインボイスでなくても、一定割合の仕入額控除を受けられます 。

(その他の軽減措置・支援措置についてはこちらから👉インボイス軽減措置 インボイス制度、支援措置があるって本当!? : 財務省 (mof.go.jp)

インボイス登録事業者になった後、免税事業者に戻る選択肢もあります(2年縛りに注意)
登録は希望の日に合わせて(登録日は登録申請書の提出日から15日を経過する日以後の日に設定する)手続きができますが、登録取り消しの手続きは、課税期間ごととなります(取り消したい課税期間の初日から起算して15日前までに届出書を提出)。また、登録事業者になった期間で条件が変わります。ここで注意したいのが「課税事業者=インボイス登録事業者でない」事です 。

【1】令和5年10月1日~12月31日の間に登録事業者となった個人事業主の場合
令和5年12月17日までに登録取消の届出を提出すると令和6年1月1日から免税事業者となります。
【2】令和6年1月1日~令和11年9月30日までの間に登録事業者となった個人事業主の場合
令和7年12月17日までに登録取消しの届出を提出すると令和8年1月1日から「インボイス発行事業者」でなくなりますが、納税義務は消えません。「課税事業者」でなくなるのは登録日から2年経過日の属する課税期間の翌課税期間からとなります。(2年縛りと言われます)
【3】令和11年10月1日以降に登録事業者となった個人事業主の場合(上の図には記載されていません)
インボイス登録には「課税事業者選択届書」が必要です。登録日から2年経過日の属する課税期間の末日までは課税事業者となります。例えば令和12年1月1日に登録した場合、令和14年から免税事業者となる事ができます。「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」と「課税事業者選択不適用届出書」の双方を提出しないと免税業者に戻れません。

最後に、「インボイス制度に関する相談窓口一覧」のURLを載せます。気になる方はアクセスなさってください。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0023002-076.pdf

=おわりに=
この10月から免税事業者が課税事業者に転換することで、益税が減少し、国の消費税収入の増加となります。2019年10月の政府による試算ではインボイス制度導入による消費税収増加額は年間2,480億円とされています。実質的な増税ともいえる制度です。最長6年間の激変緩和措置が設けられていますので、各事業者の方は、よく考えて選択しましょう。
ご存じのように消費税の使い道は、「年金」「医療費」「介護」「少子化対策」です。一般消費者の生活にもかかわりが深い事項ですから今後も注目していきたいですね。

2023年11月      CFP 依田いずみ

=参考資料=
・政府広報オンライン (gov-online.go.jp)
・国税庁「適格請求書等の保存方式の概要」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0020006-027.pdf?_fsi=ItftNPlN&_fsi=mqHEACL6&_fsi=zWCVPfA0#page=7
・No.6498 適格請求書等保存方式(インボイス制度)|国税庁https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6498.htm
・財務省資料:インボイス制度において事業者が注意すべき事例集」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0023007-071.pdf
・参考図書:①60分でわかる!インボイス&消費税超入門 
②「プロが教える!インボイス完全マニュアル」株式会社コスミック出版