
◆最近の相続事情
近年の地価上昇や不動産価格の高騰・日経平均株価の上昇を背景に、個人が保有する財産の価値が高まっており、相続財産の中で不動産・有価証券が占める割合が増えています。このため相続財産額が基礎控除内で収まらず相 続税の負担増加が問題となっています。
国税庁が公表している「報道発表資料 令和5年分 相続税の申告実績の概要」によると、課税対 象になる被相続人は、死亡者数1,576,016人の内、9.9%にあたる155,740人、10人のうち1人 が相続税の対象になっています。
相続財産の金額の構成で一番多いのは「現金・預貯金」で、全体の35.1%を占め、次に土地31.5%、 有価証券17.1%、家屋5.0%と続きます。以下では、相続財産の土地の評価額を下げる特例を紹 介します。
◆『小規模宅地特例』ってなに?
『小規模宅地特例』という言葉を聞いたことがありますか?正確には、「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」という名称です。
被相続人の自宅や事業に使用していた宅地等の財産は、通常の取引価額を基準に計算した評価額をそのまま相続税の計算に適用すると相続税が高額になり、相続人は、納税資金を確保するために自宅や事業用の不動産を売却しなければ相続税を支払えなくなることも考えられます。
そこで一定の要件を満たした宅地等については、限度面積まで80%又は50%引きの評価額で相続税を計算することができる特例です。相続税の負担を軽減することで、配偶者や残された家族がその家に住み続け、また事業を継続できるように創設された制度です。
◆対象になる土地の種類
小規模宅地等の特例の対象となる宅地等は大きく分けて、被相続人が相続開始直前の利用区分に応じて以下の4つに分類されます。小規模宅地等の特例は、あくまでも相続税の納税のために事業用や居住用の土地を手放すような事態を防ぐための制度なので、大きな面積の土地までは税制面で援助する必要はないという考え方のもと、特例を適用できる面積の上限と減額割合が宅地の利用区分に応じて下記のように定められています。たとえば、居住用の土地なら 330 ㎡まで80%減額できます。
① 特定居住用宅地等:被相続人の自宅として使っていた宅地等に対する特例
② 特定事業用宅地等:被相続人の個人事業(貸付用を除く)として使っていた宅地等に対する特例
③ 特定同族会社事業用宅地等:被相続人の会社(同族会社)として使っていた宅地等に対する特例
④ 貸付事業用宅地等:被相続人が貸地又は貸家など貸付用としていた宅地等に対する特例

上記表記載の限度面積を超えた分については、小規模宅地等の特例による減額は適用されません。
相続する宅地が複数あり限度面積を超える場合は、なるべく1㎡単価の高い宅地から適用を受けるとよりお得な特例の恩恵が受けることができます。
特例の対象宅地が複数ある場合、居住用の宅地と事業用の宅地はそのまま併用が可能です。あわせて730㎡まで80%減額できるのです。一方で、賃貸不動産の敷地は他の宅地とそのまま併用できず限度面積の計算を行う必要があります。
◆特例を使うことができるのは?[特定居住用宅地等のケース]
今回は、被相続人が居住用として使用していた宅地を相続や遺贈で取得した場合についてご説明します。以下の適用対象者が、要件を全て満たすことで特例を使うことが出来ます。
①配偶者 ②同居親族 ③別居親族(いわゆる家なき子)です。
この特例を適用するための要件はとても重要で対象者によって要件も変わりますので、しっかりと確認しておくことがポイントになります。

特例を適用した場合の土地の評価額がどう変わる?
下記表で3つの例を示します。
① 土地の面積が330㎡以下場合
② 土地の面積が330㎡超の場合
③土地の面積が330㎡超の一つの土地を2人で相続する場合

➢この特例を適用した場合の相続税額の減額例

相続税額が、なんと約1/10になりました。土地の評価額が大幅に下がるので、相続税の負担も顕著に軽減されます。特に都市部の高価格宅地ほど、節税効果が大きくなります。これほど、相続税を減らすことのできる特例ですが利用する際に留意する点がいくつかあります。
➢特例を利用する際に気を付けておくポイント
① 相続発生時に被相続人が、老人ホームに入居していた場合は、以下の要件を満たしていれば、この特例を使うことが出来ます。
・亡くなる時点で要介護認定や要支援認定、障害支援区分の認定を受けていること(有効期限が切れていないことに注意)
・入居している老人ホームが「老人福祉法等に法令の規程に基づく施設」であること
・被相続人が上記の施設に入所後、その宅地等が事業用又は新たに被相続人等以外の人の居住用になっていないこと
② 親子で2世帯住宅に住んでいた場合、建物が共有登記であること。区分所有登記だと同居しているとはみなされず特例を使えません。
③ 生前に相続時課税精算制度を利用して、この土地を贈与されていた場合は使えません。
④ 小規模宅地等の特例は、宅地等の取得者が決まっていないと適用をすることができません。
遺言によって宅地等の取得者が決まっていれば、問題ありませんが、遺言がない場合には、遺産分割協議によって財産の取得者を決める必要があります。遺産分割がまとまらない場合、とりあえず申告期限内に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して申告し、3年以内に分割できたときにこの特例を適用することができます。
⑤ 分譲マンションでも所有する土地部分には特例を使用することができます。ただし、分譲マンションの場合は、マンション全体の土地を所有者全員で分けて所有しているので該当する土地の大きさもその分小さくなります。そのため、戸建てに比べれば、相続税評価額に適用される金額の恩恵は小さくなると考えられます。
いくつかのポイントを記載しました。この特例の要件は非常に細かく決められていて複雑な上に多くの提出書類が必要です。また、小規模宅地等の特例の要件は亡くなる前と亡くなった後の状況で判断します。更にその要件はたびたび税制改正されており特例が適用されないこともあるので、早めに将来の相続のことを考えて、現在の状況で小規模宅地等の特例を受けられるのか、または特例を受けられるようにするためにはどのような方法があるのか相続に詳しい税理士に早めに相談してみることをおすすめします。
➢まずは、相続財産を確認することから始めましょう!
まずは、相続財産に土地が含まれているならば、被相続人の居住している土地の評価額を含めた全体の財産額を確認しましょう。そもそも財産額が基礎控除額を下回る場合は、相続税がかからないので、特例を受ける必要はありません。基礎控除額を超えそうならば、このブログを参考にされてご準備ください。この相続税優遇特例=「小規模宅地等の特例」を使って相続税がゼロになった場合でも相続税を申告する必要があります。
2025年10月 CFP 石黒貴子

【参考サイト】
・相続税を計算するための土地の評価方法・・・No.4602 土地家屋の評価|国税庁
・相財産を相続した場合の税金の計算と相続税の速算表・・・財産を相続したとき|国税庁




























