令和7年年頭所感

 皆様本年もどうぞ宜しくお願いします。
 さて、このごろ喧しい話題がいわゆる年収103万円の壁問題です。
年初こそ少し静かになりましたが、昨年末は次年度税制大綱の決定までいろいろな報道がされていました。
 そもそも年収103万円(月額約86千円)を超えないように働いている人(主に世帯主に扶養されている主婦やアルバイトの学生等)は約100万人以下と推測されています。それでも有権者としての勢力では侮れないようです。
 今後年度末に向けて政府・自民党・公明党と国民民主党との駆け引きが続くのでしょうが、年末に自民党が決めた税制大綱では123万円と20万円の増加案を中心に議論が進むと思われます。国民民主党の主張する173万円への引き上げは税収減が大きすぎ実現は難しいと推測されます。
 いずれにしても今回の年収103万円の壁問題は私たちに良い教訓を示してくれたと思います。いかに過去30年間デフレ等の問題があったとしても、約30年間所得税の基礎控除と給与所得控除が一定のままであったことは政府・政党・国民の怠慢であったと言わざるを得ないと思うのです。この間国民民主党の言うように最低賃金は
1.7 倍になったのですから。欧米諸国では毎年のように基礎控除や給与所得控除の額が検討・変更されているのです。ですから一気に1.7倍ということではなく数年かけて引き揚げてゆくというような妥当な出口に向かうことを期待しております。
 読書感想
 最近読んだ本で紹介したい本があります。スコット・ギャロウェイ著「THE ALGEBRA OF WEALTH」(邦訳名、一生お金を吸い寄せる富の方程式)ダイヤモンド社刊、2024年12月初版刊行。ALGEBRAとは一般的には代数学と訳されることが多いようですが本書では方程式と訳しているようです。著者のスコット・ギャロウェイ氏はニュウヨーク大学スターン経営大学院教授で過去には「THE FOUR GAGA](4騎士が創り変えた世界)が日本でも15万部のベストセラーとなったことでも知られている。
 本書の主な主張は以下の方程式に表されている。
 富=フオーカス+(ストイシズム×時間×分散投資)
これを分かりやすく言い換えると
「富=仕事に集中して収入を高める+無駄遣いしない節度ある生活×複利の力を生かした長期的な投資×分散投資でリスクを減らす」となる。
本書では富とは経済的自立という目的を実現する手段と規定し、経済的な不安がないことが富だとしている。
 この方程式は考えてみればごくごく当然のことを言っているように見える。FPの方やファイナンスについて関心がある人ならば後半の複利の力を生かした長期的な投資や分散投資でリスクを減らすという語句は腹に落ちやすいのではないか。
 その他、長期投資のベンチマーク(指標銘柄)としてはS&P500が良く、その水準は8%だともいう。それは過去20年間のS&P500の平均リターンが8%であるからだと主張する。だが、これはアメリカの話であって日本特に私にとっての目指すべき平均リターンは4~5%程度ではないかと感じる。
 また、この様な本ではあまり触れることが少ない利益が出ている場合の対処法も示している。これは一言で言うなら「積極的に利益を確定しよう」となる。利益が出たらその一定部分を換金して、他の資産に分散投資することを勧めている。
 よく聞く話が、今この銘柄がいくら儲かっている、いた、というももの。評価益のままではいつなくなってしまうかもしれない。実現益にしてこそ利益確定したことになる。この部分は私のかねてからの思いと合致するものがあると感じました。                            

以上
CFP 重田 勉


始まった「信用スコア」

信販会社に20年ほど勤めていたこともあり、先月11月28日に始まった 「信用スコア」に興味を持ちました。通常クレジットカードや住宅ローン を申込む時は、カード会社や金融機関は申込者の支払能力を必ず「審査」 します。審査には申込者の年齢、年収、勤務先、勤続年数などの属性に加
えて「信用情報機関」に蓄積されている信用情報が使われます。その信用情報をわかりやすく指数(スコ
ア)化して見られるサービスが、クレジットカード会社や貸金業者などが加盟する信用情報機関のシー・ アイ・シー(CIC) で始まった「クレジット・ガイダンス」です。
今までもCICに個人で開示は申し込めましたが、それはカードやローンの契約件数や支払状況など確認 できても、全体として自分の信用情報がどう評価されるかはわかりにくかったのが、今回CICが始めた 「クレジット・ガイダンス」は総合的に統計処理して200~800のスコアで示し、信用力がどの程度なの か客観的にわかるようになりました。

上記図のように、消費者がクレジットカードを申し込むと、カード会社 は信用情報機関に登録されている情報を照会します。そこで既に保有す るカードの枚数、ローンの借入件数、利用限度額、残債の額、毎月の支 払状況、過去6ヶ月間の新規申込み件数などを確認し、自社で収集する 情報も加味した上で、支払能力に問題がないと判断すればカードを発行 します。そして、その後の利用者の残債額や支払状況などの情報を信用 情報機関に随時登録します。


2025 年 4 月1日からは加盟企業へのスコア開示が始まりますので、審 査に要する時間は短縮されるでしょう。

でも一番大事なのは自分のスコ アを知り、自分で債務超過を防ぐことです。

次に中国や米国も見てみましょう。
中国では、信用スコアを活用したサービスがかなり普及しており、特に電子決済サービスのアリペイ(支 付宝)で有名なアリババグループの傘下「芝麻信用(セサミクレジット、ジーマ信用)」の信用スコアは 事実上、中国の信用スコアの標準として普及しています。
チェック項目は以下の5つです。太字の所は中国らしい特徴があります。

身分特質(社会的地位、年齢、学歴、職業など)
② 履行能力(過去の支払い状況、資産など)
③ 信用歴史(クレジット、取引履歴など)
人脈関係(交友関係、相手の身分など)
行為偏好(消費の特徴など)


芝麻信用は右表のように5段階評価です。

アメリカFICOスコアは、個人の信用力を300から850の間で評価し、5つの要素によってクレジット スコアが数値化されています。
返済履歴:35% 月々の支払が遅延なく行われているか
未払い残高:30% 利用限度額に余裕を持っているか。利用限度額の30%くらいまでが理想的
信用履歴の長さ:15% 返済履歴が長いほど信用が増していく
借入の種類や構成:10% クレジットカードだけでなく、車や家のローンなど様々な借入をして いるとクレジットスコアが下がる
新しい借り入れ:10% 頻繁に借入をしているとクレジットスコアが下がるため、クレジット カードを作成してから3ヶ月以上の期間を空けないと、次の新しいクレジッ
トカードは承認されにくい
全米平均は680ほどで、大多数の人のスコアは600から800の間に収まるが、720以上の人々は「スー パープライム」、660~719の人々は「プライム」、その下の580~619の人々が「サブプライム」と呼ばれ ています。このあたりから、明確にリスクありとみなされはじめ、借入条件も厳しいものとなります。
(2007 年に起きたサブプライムローンの崩壊)
米国では住宅ローン金利が高まっていますが、すべての人が同じ金利で借りられるわけではなく、 有利な条件で借りられるかどうかは様々な要因で決まり、特に影響が大きいのが信用力スコアとのこと です。なんだか怖い気がしてきました。

以上、3つの国を見てきましたが、日本も信用スコアにより借り入れ 利率も変わるという流れになっていくのか今後も注視していきたい と思います。

CFP 佐藤広子

イチオシ! エンディングノート

    ~法的に価値はないが自由度抜群で書きやすいし、さらに・・・~
「エンディングノート」は「終活」のひとつのアイテムと言われています。
昨今、世界中で政治、経済に波乱が起き、戦争も続いています。さらに、今夏はいつもと違う予測不能な台風も出現しました。また、突然に友人が大病を患ったなどの連絡がありませんでしたか? 日々、うっすらと不安を感じて過ごしている方がいらっしゃったら、始めましょう「終活」を。そうは言っても、何から始めればいいか分からない方が多いと思いますが、一般的に取り組みやすいと言われている「エンディングノート」(初心者向け)をお勧めします。当該ノートは公的機関で配布されている物もありますが、わたしは市販品を購入し、パソコン・スマホへのデータ入力ではなく、ひさしぶりに鉛筆と消しゴムを握っての手作業で作成しました。

「エンディングノート」には3つの大切な役割があるようです。
① 自分の情報を記入することで自分自身の今の状態を再確認します。
万一の場合の連絡先(親戚・友人・会費を納めている所属グループ)、主治医と服薬(おくすり手帳がある)、使用中のカード情報、通帳(分かる範囲で印鑑)、光熱費などの口座引き落し先、定期購入商品や月極め支払いの通信会社、保険、年金、有価証券、不動産、PCとスマホ(IDとパスワード)、クレジットカード、ポイントカード、ホームページ、SNSなど。箪笥やバッグからそれぞれを取り出してランダムに記入していきます。最初からノートに一覧表があるから何も考えずに記入が進みます。間違えても、消しゴムを使って、訂正や削除も簡単にできます。しかし、作業中、自分のことが意外にわかってない事に気づきます。「えっ、そうなんだ」状態です。私に万一の事が起こったら、家族はなおさらです。

② 万一の場合に引き継ぐべき事を家族にお願いする。
たとえば、自分の荷物、ペット、介護、告知、延命治療、臓器移植、葬儀、お墓、供養、遺言書、家系図などです。私に何かあったとき、残された家族がさまざまなつらい判断を迫られる可能性があると思います。自分の考えを書き留めて置くと家族の苦悩を大幅に減らすことができるのではないでしょうか。なかには難しく悲しい決断を記入する箇所もあり、不安と寂しい気持ちになりますが、そこは残された家族のことを考えて、きっぱりと記入しましょう。家族へのお役立ち相続ツールです。

③ 最後に、今後、私はどう生きていくかを考えます。
現在及び今後の収入・支出のシミュレーション、家族の生年月日他(これは間違いなくキチンと書きましょう。間違えられた本人が悲しみます)、自分の歴史(物語り風に大げさにドラマの主役になった気分で書く)、やってみたいこと(たくさんあればあるほど良い)、やってみること(今後の行動の決心と宣言)、皆さんへの個別メッセージ(素直な気持ちと多めの感謝を)など自由にわがままにざっくばらんに記入します。これからの人生に希望が湧いてきます。

 前半は少々寂しい気持ちになりますが、後半になると非常に楽しく、なぜか元気になってきます。そして、記入を完了すると今まで後回しにしていた他の「終活」である断捨離(アルバム、本や衣類,物の整理)が自然にできる、いやいや、せざるを得ない状態になると思います。だって、それらは今後生きていくのに邪魔な物だからです。
「エンディングノートは今を生きる糧になります」
これからももっと、楽しく、愉快に過ごしましょう。
以上が年齢的にもそろそろと思いながらも後回しにしているあなたに「エンディングノート」をお勧めする理由です。
残念ながら、なかには、③の「今後の収入・支出のシミュレーション」から老後に一抹の不安を感じる方がいらっしゃるかもしれません。
その際は是非、「FPみらい」へ迷わず、ご相談ください。
なお、「エンディングノート」はいつでも自由に書き換えができます。時々は見直すことも大事です。


分譲マンションの相続税評価額計算ルールの見直し~相続税の負担が増える可能性があります~

2023年度の税制改正で分譲マンションの相続税評価額の算定方法が見直され、2024年1月1日以降に発生する相続、贈与、遺贈について、新ルールが適用されています。
これは、分譲マンションの相続税評価額と市場価格との乖離を利用した相続税の過度の節税が問題となっていたためです。

従来の評価方法では、分譲マンション一室の相続税評価額は建物の固定資産税評価額と、路線価から算出した敷地利用権の価額を合計したものであったため、高層分譲マンションのように住居戸数が多く建物全体の敷地面積に対する各住居部分の面積の割合が小さくなる場合、相続税評価額が低くなりがちになります。また、市場価格は建物の階数や所在階数は反映されますが築年数の反映が不十分となり、高層の建物で高層階の物件は築年数によらず高くなりやすい状況となっていました。
新ルールによる相続税評価額は、市場価格との乖離が少なくなるよう従来の相続税評価額に、建物の築年数、総階数、所在階、敷地持分狭小度を反映し算出した区分所有補正率を掛けたものとなります。

1.分譲マンション一室の相続税評価額算定方法

1.1従来ルールによる相続税評価額

従来ルールによる相続税評価額

=区分所有建物の価額   +    敷地利用権の価額   

(固定資産税評価額)   (敷地全体の価額 x 敷地権の割合)

1.2 新ルールによる相続税評価額

 新ルールによる相続税評価額=従来ルールによる相続税評価額 x 区分所有補正率

 1)区分所有補正率

 区分所有補正率は、分譲マンションの多数の売買実例をもとに予測した市場価格と、従来ルールによる相続税評価額からの乖離の比率である評価乖離率を計算し、その逆数である評価水準(=1/評価乖離率)から求めます。

評価水準は、評価乖離率の逆数であるため市場価格が従来ルールによる相続税評価額よりも大きいと評価水準の値は小さくなります。

  評価水準     区分所有補正率

0.6未満      評価乖離率x0.6

0.6以上1以下      1 

1超        評価乖離率   

新ルールによる相続税評価額は、従来ルールで算出した相続税評価額が市場価格の60%未満の場合は市場価格の60%に引き上げられ、60%以上100%以下の場合は補正はなく、100%を超える場合は100%に引き下げられます。

2)評価乖離率の計算式

 区分所有補正率を求める際の基となる評価乖離率は以下の数式をもとに計算されます。

築年数にはマイナスの係数が掛けられていますので、築年数が大きいと評価乖離率が下がります。 建物の総階数と所在階にはプラスの係数が掛けられていますので、これらの数字が大きいほど評価乖離率は上がります。建物の敷地面積全体に対する各居住部分の敷地利用権の面積の比率である敷地持分狭小度については、マイナスの係数が掛けられていますが、高層マンションのように敷地持分狭小度の数値が小さい場合は、評価乖離率は下がりにくいことになります。

評価乖離率

=築年数x△0.033+総階数指数x0.239+所在階x0.018+敷地持分狭小度x△1.195

総階数指数:総階数/33

2.新ルールによる相続税評価額の計算

分譲マンションの相続税評価額が新ルールの適用によりどれだけ影響を受けるかを具体的な事例で見てゆきます。

事例は、国税庁の「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」で使用された数値を使用しています。

    所在地 総階数 所在階数 築年数 専有面積 市場価格  相続税評価額* 乖離率  事例1 東京都  43階  23階   9年  67.17㎡ 11,900万円 3,720万円   3.20倍

事例2 福岡県  9階  9階   22年  78.20㎡  3,500万円  1,483万円   2.36倍

事例3  広島県  10階  8階      6年   71.59㎡  2,240万円   954万円   2.34倍

*従来ルール適用

1)新ルールによる相続税評価額

     評価乖離率  相続税評価額  

事例1  3.41倍   7,611万円    

事例2  2.07倍   1,842万円

事例3  2.59倍   1,483万円

新ルールによる相続税評価額は、超高層分譲マンションである事例1では従来ルールによる相続税評価額の2.0倍となり、新ルール適用の影響が最も大きく表れていますが、事例2および3でも各々1.2倍、1.6倍となっており、新ルール適用により分譲マンションの相続税評価額が影響を受けるのは超高層分譲マンションだけではないことがわかります。

区分所有補正率は、国税庁のサイト「居住用の区分所有財産の評価に係る区分所有補正率の計算明細書」で簡単に計算することができます。また、従来ルールによる相続税評価額は、お住いの市役所から送付される「固定資産税・都市計画税(土地・家屋)納税通知書」や登記簿等から計算できます。

「居住用の区分所有財産の評価に係る区分所有補正率の計算明細書」サイト

新ルールではお住まいが分譲マンションの方は相続税評価額が高くなる可能性があるため、相続税評価額を具体的に計算することで相続税対策を早めに検討されてみてはいかがでしょうか?

CFP 岩船康則

新NISA始めてますか?早くスタートした方がこんなにお得に!

 ここに架空の高校での同級生二人(AさんとBさん)がいます。

 Aさんは高校卒業後18歳で、すぐに会社に勤め始め新NISAを開始
生活をきりつめ、毎年120万円積立を15年間行いました。
NISA累計投資限度額は1,800万円なので、そこまで15年間投資を行った後は、 投資は一切せずに、給料は全部使って自由な生活を続け定年を迎えました。

 一方Bさんは大学院まで進み、その後一流企業に勤め24歳から新NISAを開始しました。 BさんもAさん同様一年間の毎年120万円積立、 新NISA限度額1,800万円になるまで積立完了しました。 積立完了した38歳の時にAさんと会って、 その時の資産額を聞いてみると、Aさんは4,757万円で、 自分は、まだ3,170万円とだいぶ負けていたので、NISA枠を使い切ったあとも、 生活は質素のまま暮らし課税口座である特定口座で 毎年120万円 積立を継続していきました。
65歳定年を迎えた時の累計投資額は5,040万円となりました。

  そこで、お互い65歳になり定年退社した時、久しぶりにAさんと会って、資産の額を比べました。
BさんはAさんよりずっと多く投資し続けてきたので、当然自分が多いと思ったのですが、 結果は以下の通りでした。

Aさんの投資額 15年間1,800万円
Bさんの投資額 42年間5,040万円
65歳時点のAさんの評価額 2億9,558万円(無税で全額受け取れる)
65歳時点のBさんの評価額 2億9,171万円(課税口座で積立分の税金1,266万円控除後)

 たった、6年遅くNISAを開始しただけなのに、Aさんは1800万円投資してその後、
一切投資しないのにBさんはその後もずっと投資続けたにも関わらず、 65歳時点ではまだ追いつけませんでした。
 この例では、7%で運用するという前提でシミュレーションしました。
7%という数字は過去30年の全世界株式(オルカン)は8.7%(注1)なので、 そんなに非現実的な数字ではありません。
注1:円ベース配当込み 2024年1月時点 株式会社インベストメントブリッジ WEB「いろはにマネー」より 全世界株式30年平均

 これは、「複利の効果がどれだけ凄いか」がわかるお話だと思います。

この物語はリック・イーデルマン著の「家庭の金銭学」という本に出てくる、 複利の凄さを教える有名なジャックとジルの投資話をNISA版にアレンジしたものです。

 今回の例では、極端に投資にウェイトを置いていますが、 実際には若い時に色々な体験を積むのも人生を豊かにすることになるので、 バランスを取って適度に積立を行っていくことが大事です。
最近では、ポイントで投信積立も出来る証券会社もあるので、 まずは証券口座を開設して少額でもスタートすることが大事だと思います。.

CFP 磯野 正美

転職・中途退職された方!企業型DC(企業型確定拠出年金)を放置していませんか? ~自動移換はデメリットしかありません~

◆企業型DC導入企業数・DC加入者数が増加している
『企業型DC(企業型確定拠出年金)』とは、企業が従業員の退職金や年金を支援するために導入する福利厚生制度です。企業が掛金を毎月拠出し、その運用は、従業員自身が行います。拠出金は確定していますが、将来受け取る退職金や年金は運用成績次第で増やせる可能性があるため、「確定拠出年金Defined Contribution」と呼ばれています。
企業型DCは、会社が規約を定めれば従業員が一定の範囲で上乗せして拠出することも可能で、年々導入企業が増え、加入者数も増加しています。厚生労働省の確定拠出年金統計資料によれば令和5年3月現在、企業型の規約数は、7,049件。企業型DC加入者数は、805万人。正規従業員(3,615万人)の4.5人に1人が加入していることになります。

◆自動移換者数が増加

企業型DCに加入されていた方が、転職などで会社を退職すると加入資格を失います。資格喪失してから6ヶ月以内に手続きを行わないと、積み立てられた年金資産は、国民年金基金連合会に自動的に移換され(『自動移換』)その後は運用されない等デメリットがあります。
国民年金基金連合会の資料(右表)によると令和3年3末までは、自動移換者数が正規移換者数を上回っていました。令和5年3月末時点の自動移換者数は、118万人、その内66万人の口座には資産があるまま放置されている状況です。

◆自動移換されるとデメリットしかありません
①運用されない。(➢運用機会を逸する・運用益非課税メリットが享受できない)
運用していた年金資産は、いったん全て売却され現金化されます。その後に国民年金基金連合会に移換されるので
投資信託などの運用ができません。DCは、運用益が非課税になるメリットがあるのに享受できないだけでなくインフ
レが進むと資産価値が目減りしてしまいます。
②手数料が差し引かれる。
自動移換される際には国民年金基金連合会に事務手数料として1,048円、特定運営管理機関に対して3,300円の手数料が徴収されます。自動移換されてから4ヶ月後の月末までに移換などの手続きをしなければ、その後は月額52円の管理手数料が年金資産から徴収され続けます。(例:11月に自動移換→翌年3月分から徴収される)
自動移換された場合でもその資産を企業型や個人型(イデコ)へ移換することは可能ですが、手数料が発生します。

③受給開始の時期が遅くなる可能性ある。
確定拠出年金の老齢給付金を受け取るには、10年以上の通算加入者等期間が必要です。自動移換中は老齢給付金を受け取るための加入者期間に算入されません。そのため、通算加入者等期間が10年未満であれば、最大65歳まで受給できない可能性があります。
④「退職所得控除」の金額が減る可能性がある。
自動移換中は「退職所得控除」の計算に必要な勤続年数に算入されないため、一時金受取時の税制優遇効果が低下する可能性があります。
◆自動移換を回避する手続き期限の6ケ月以内とは?
自動移換手続きの期限は、前職の加入者資格を喪失した月の翌月から起算して6ヶ月以内(下表参照)です。

『自動移換』されると国民年金基金連合会から「自動移換通知」が送付され、その後年1回「定期通知」が送られてきます。通知には、資産の状況や手数料などが記載されています。

◆企業型DC加入者が退職した場合の移換先
・選択肢としては、下記の図のようになります。退職後の転職先や職種によって移換先や掛金上限額も異なります。

・積み立てた年金資産は、原則60歳まで引き出すことはできません。【E】の脱退一時金を受け取るという選択肢もありますが、法律に定める要件をすべて満たす必要があり、通常では、選択肢として考え難いです。

◆『自動移換』による年金資産の放置回避への取組・救済措置
・『自動移換』が増加している背景には、退職時の忙しさや手続きの煩雑さ以外で、制度の理解不足があると考えられます。厚生労働省では、「企業が掛け金を負担するため、自分の資産という認識に乏しく、自覚なく放置する人が多い。」として、事業主および運営管理機関に対し、退職者に対する移換手続きの説明・勧奨を行うよう指導しています。
国民年金基金連合会でも、自動移換者に対して、年1回送付する通知の中で、2017年1月から個人確定拠出年金(iDeCo)の加入範囲が拡大され、より多くの退職者が加入可能になっている旨等を周知しています。
・自動移換を減少させる取り組みとして、自動移換する前に別の確定拠出年金の口座が開設されていることが判明した場合、 もしくは既に自動移換された方が新たに確定拠出年金口座を開設した場合、自動的にその確定拠出年金口座へ移換されるようになりました。

◆アクションを起こすのは、ご自身です。
・退職後、その資産を期限内に移換する必要があることをお話してきました。企業型DCは、持ち運ぶこと(ポータビリティ)が出来るので、きちんと手続きをすることで、年金資産を継続して積立運用し資産形成をすることができます。
・移換手続きでは、運用している資産をいったん解約して預け替えることになります。それまで運用していた商品を売却して現金化し、移管先の制度の商品ラインアップの中から選択した商品を購入することになります。残念なことに売却のタイミングを指定することができないので、例えば投資信託を選んで運用をしている場合は、市場の状況によっては含み損の商品を売却してキャッシュにするため、損失を確定してしまうことになります。転職を予定している場合は、運用状況の良い状態の時にスイッチングして定期預金などの元本確保型の商品に資産を置いておくようすることで、残高が急激に減ることを防ぐことが出来ます。
・転職先に企業型DCがあれば、移管する箱はありますが、移管先としてiDeCo口座開設される方は、早速、行動開始です。iDeCo口座開設には、1~2ヶ月位かかります。iDeCo口座は1人一つの口座しか開設できません。年金資産運用口座として長いお付き合いになるので、商品のラインナップ・口座管理手数料・サポートサービス・その他の付加価値を比較して自分に合った金融機関を選ぶことが大切です。
・企業型DCに加入していた人は、退職した企業からの郵便物やメールなどは必ず確認してください。
退職した企業が積立ててくれた「大切な自分のお金」です。『自動移換』されて、残念なことにならないように、行動しましょう。
・ご自分が「自動移換」されているかもと思われた方は、下記サイトをご参照いただきくか、自動移換者専用コールセンター 03-5958-3736へ問い合わせしてみてください。
『自動移換』されてからでも移換して資産形成を継続することができます。

特定運営管理機関 (jis-t.co.jp)

180万円の壁をご存知ですか?

~59歳まで130万円の壁、60歳以上では180万円の壁になります!~

○○円の壁、と言われますが、いくつの壁があるのでしょうか。
大きく分けて、税法上の壁と社会保険上の2つの壁があります。その中でさらに複数の壁が存在しますが、今回は、60歳以上になると出てくる180万円の壁についてお話ししたいと思います。(図の青矢印部分です)

130万円の壁とは、社会保険の扶養に入れる年収の基準を表した言葉です。
社会保険上の扶養条件は次のように定められています。
≪社会保険上の扶養条件≫

表内の太字のとおり、60歳以上になると、扶養条件の年収が180万円未満に変わりますが、実はあまり知られていません。
扶養されている方が配偶者の場合、59歳までは、年金と健康保険料を自身で納入する事なく加入できましたが、60歳(厳密には60歳の誕生日の前日)になると厚生年金第3号被保険者の加入資格はなくなります。ですから60歳以降の扶養については、年収が180万円未満であれば、「配偶者の勤務先の健康保険に入ることができる」という意味になります。
扶養の条件について気をつけておきたい点がありますので、順に説明していきましょう。

【配偶者の年収の減少に注意!】
仮に、夫が扶養者、妻が被扶養者で同居している場合、年収180万円未満“かつ”収入が扶養者の1/2が条件ですので、夫に360万円以上の年収があれば、妻は年収180万円未満までが対象となります。しかし夫の収入が350万円であれば、妻の年収は175万円未満となる点に注意が必要です。雇用条件等に変化が起きることの多い60歳以降では、夫の年収の増減に伴って妻の収入条件が変わることに留意しましょう。
≪被扶養者自身の収入増加≫

60歳以降に給与以外に増える収入として、昭和41年4月1日以前生まれの方は、65歳以前に特別支給の老齢厚生年金があります。その他、個々の加入状況により、厚生年金基金や個人年金保険の受け取りがあれば、その合計が180万円未満かつ扶養者の年収の1/2であることが扶養の条件となります。65歳以降働く場合、本来の年金支給を加えると収入基準を超えてしまう可能性が高まります。その場合年金受給時期の引き下げを検討してもよいでしょう。

また、年収130万円(60歳以上では180万円)の壁を越えないよう就業調整をする方への対応として、年収の壁・支援強化パッケージと名付けられた施策が作られています。
【職場の状況等による一時的な給与収入増についての国の対応】
パート・アルバイトで働く方が繁忙期に労働時間を延ばすなどにより収入が一時的に上がったとしても、事業主がその旨を証明することで引き続き被扶養者認定されるものです。
(詳しくは厚生労働省HP:年収の壁・支援強化パッケージ

こうした施策がある一方で、10月からは更に加入対象者を増やす改正が行われます。
【2024年10月の改正に注目】
すでに2016年10月から従業員501人以上、2022年10月から従業員101人以上の勤め先で働くパート・アルバイトの方は社会保険の加入対象になっていますが、2024年10月から新たに、従業員51人~100人の企業で働くパート・アルバイトの方が社会保険の加入対象になります。なお、従業員数50人以下の企業においても、従業員と企業が合意することで51人以上の企業等と同じ加入要件にすることができるようになります。
≪対象となる従業員の要件≫

詳しくは社会保険適用拡大ガイド

社会保険加入対象者拡大の動きはこの10月の改正にとどまらず、今後は、従業員数など企業規模の要件をも撤廃する方針を固めています。また、7/3に発表された、5年ごとに行われる年金の定期健診、「財政検証」の結果では、パート労働者の加入要件である、企業規模要件・賃金要件・個人事業所の要件・週の所定労働時間要件などを撤廃した場合について、それぞれ試算と効果が示されています。支え手である加入者を増やして制度の安定を目指します。

60歳以上の方が180万円の壁を越えるなどで扶養条件から外れると、社会保険料負担(約15%)が発生し、手取り収入が減少します。では、メリットはないのでしょうか?
60歳になると第3号被保険者の資格はなくなると前述しましたが、厚生年金第1号被保険者としては70歳
になるまで加入することができますので、納付の月数に応じて年金受取額が増加します。また、自身で健康保険被保険者になることで傷病手当金の支給対象になります。

60歳以降も継続して働く人は年々増えています。ご自身の健康状態・給与以外の収入状況、ご家族の状況などもふまえ、配偶者や子どもの被扶養者になる、または被保険者として自分の年金を増やしながら働く、など今後のライフプランを考えてみてはいかがでしょう。

詳しくは厚生労働省HP 

および配偶者の勤務先の健康保険組合にご確認ください。

経過的加算って知ってますか? 

皆さんの中で、「経過的加算」と言う言葉を聞いたことのある方は どの位いらっしゃるだろうか?
経過的加算とは、年金(厚生年金)に関する用語だが、初めて聞く方も 多いと想像する。
FPでも、聞いたことはあるが詳しくは分からないというのが、実感では ないだろうか。普段、聞きなれない経過的加算だが、知らないうちに 厚生年金の額に影響を与えている。
経過的加算を深く理解するには計算式が必要だ。本ブログでは、経過的加算について計算式を用いずに、その意味する内容の概要とポイントおよび意外と得する経過的加算(注記1)について、筆者の経験を元に出来る限り分かり 易く説明する。
(注記1)ねんきん定期便では「経過的加算部分」、老齢年金ガイドでは 「経過的加算額」と記載されているが、本ブログでは経過的加算と記す。
少し長くなるが、日本年金機構のホームページから、経過的加算の説明を 引用する。

経過的加算
60歳以降に受ける特別支給の老齢厚生年金は、定額部分と報酬比例部分を合算して計算します。65歳以降の老齢厚生年金は、それまでの定額部分が老齢基礎年金に、報酬比例部分が老齢厚生年金に相当します。しかし、 当分の間は老齢基礎年金の額より定額部分の額のほうが多いため、65歳以降の老齢厚生年金には定額部分から老齢基礎年金を引いた額が加算されます。これを経過的加算といい、65歳以降も60歳からの年金額が保障されることになります。』
この説明を読んだだけで経過的加算を理解するのは困難だろう。
経過的加算には、昭和61年4月の年金制度改正が大きく関わっている。
この改正内容を知ることが、経過的加算を知る上で大切なので、 まず改正内容を調べてみよう。

1.昭和61年4月年金制度改正
この改正は大きな制度改正で、改正点はいくつかあるが、特に経過的加算
に関係する内容は:
① 老齢厚生年金の支給開始年齢の変更(60歳から65歳へ)
② 20歳以上の全国民への年金加入の義務化(学生は除く)
である。
老齢厚生年金の支給開始年齢の変更(60歳から65歳へ)
これは言うまでもなく、年金支給年齢が現在のような 満65歳以降になったことだが、いきなり60歳から65歳と すると影響が大きいので、移行措置を設けた。
生まれた年により段階的に年金支給を引き上げる 『特別支給の老齢厚生年金』である。
特別支給の老齢厚生年金については、昭和41年5月以降に生まれた方 は支給されないので、詳しい説明は省くが、興味のある方は 年金機構のホームページをご覧いただきたい。
(https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/jukyu-yoken/20140421-02.html)
この年金制度改正での大きなポイントは、旧制度では自営業者は 国民年金、サラリーマンは厚生年金という縦割りだったものを、 全国民共通の「基礎年金」を導入したことだ。
新制度では、厚生年金は基礎年金と報酬比例部分の二階建て となった訳である。

ここでは、昭和61年4月の年金制度改正で、厚生年金がそれまでの報酬比例部分と定額部だった構成が、報酬比例部分(老齢厚生年金)と基礎年金(老齢基礎年金)となったことを覚えておいていただきたい。
注記2:このブログでは、厚生年金の中の報酬比例部分を老齢厚生年金、基礎年金部分を老齢基礎年金と記載する。
②20歳以上の全国民への年金加入の義務化
日本国籍を持つ20歳以上60歳未満の人は、第1号被保険者と呼ばれ国民年金に加入することが義務化された。ただ新制度発足当時は20歳以上でも学生は除外されていた。
学生が義務化されるのは平成3年4月からとなる。この点も後ほどの議論で出てくるので、これも覚えておいていただきたい。

2.経過的加算の意味
経過的加算の内容のポイントは、大きく次の2つである。

A.旧制度と新制度での年金計算方法の違いによる老齢基礎年金の 差額補填
B.20歳未満と60歳以上で厚生年金に加入した際の厚生年金額の増加
以下に、それぞれ説明する。

A.旧制度と新制度での年金計算方法の違いによる差額補填
前掲の日本年金機構のホームページからの引用を見ると 「・・・・当分の間は老齢基礎年金の額より定額部分の額の ほうが多いため、65歳以降の老齢厚生年金には定額部分 から老齢基礎年金を引いた額が加算されます。」 と言う記載なのだが、もう少し詳しく説明しよう。
年金改正前の制度における、現在の老齢基礎年金に当たる『定額部分』と新制度の老齢基礎年金の計算方法が異なり、旧制度の方がわずかながら定額部分の方が老齢基礎年金より 金額が多くなる事態が発生した。
そこで昭和61年4月の年金制度改正前に年金加入していた人が不利にならない(年金額が少なくならない)ように調整を行うのが、経過的加算の一つの意味である。
差額の計算方法は、ここでは掲載は省略するが、多い人 (旧制度での年金加入年数が多い人)で年数万円、少ない人で 数百円である。
また、特別支給の老齢厚生年金の計算に、旧制度の定額部を用いるため、差額補填を経過的加算で行うのである。
B.20歳未満と60歳以上で厚生年金に加入した際の厚生年金額の増加
これが今回の内容の中心となる点である。
B-1. 老齢基礎年金と老齢厚生年金の相違点
老齢基礎年金は、20歳から60歳までの40年間加入し、 40年間加入する(国民年金保険料を納める)と、いわゆる満額(令和6年度では月額68,000円)が65歳から支給される。
ただ国民年金保険料が40年に満たないと、未納部分に比例して老齢年金受給額が減額される。
例えば、年金保険料を30年収めた人は、満額に対して30/40=0.75 すなわち25%減となる。
保険料納付に未納部がある方向けに救済処置ともいえる、60歳から 65歳までの間に未納分を納入できる「任意加入制度」がある。
一方、厚生年金は働き始めた年齢から70歳まで加入可能だ。
老齢基礎年金と老齢厚生年金の違いを下図に示す。

B-2. 老齢基礎年金未納分を経過的加算で補填
国民年金保険料に未納部分がある人のために「任意加入制度」があると言ったが、この制度が使えるのは自営業者などの『第1号被保険者』であり、サラリーマン等の第2号被保険者は使えない制度なのだ。
それでは、サラリーマンでは年金保険料に未納部のある人は、65歳から老齢基礎年金は満額貰う術はないのか?
ここで登場するのが、経過的加算だ。すなわち60歳を過ぎて厚生年金に加入すると、国民年金未納部を経過的加算として厚生年金が補填してくれる、ありがたい制度だ。
例えば、大学生時の20歳から22歳まで、国民年金保険料2年分未納で、22歳から会社勤めをしたサラリーマンの人が62歳まで厚生年金に加入(会社勤めを継続)したとき、60歳からの2年間で厚生年金が国民年金未納の2年分を経過的加算として、ほぼ同額を補填してくれるのだ。(注記3)     
(注記3)学生時代の2年間、国民年金保険料を支払った人で60歳以降も厚生年金に加入した場合も経過的加算は増える。経過的加算は厚生年金加入月が480か月まで加算されるからである。

ここで重要なのは、国民年金未納部分を納めた訳ではなく、あくまで 厚生年金の経過的加算で未納部を補填することに注意が必要だ。
例えば、未納年数が2年ある人が、65歳以降老齢基礎年金を繰り下げ 支給をする際の、繰り下げ計算の元となる基礎年金は38年分の年金額となることを留意する必要がある。
経過的加算は、50歳以上の方の「ねんきん定期便」に記載がある。
該当する方は、一度確認してはいかがであろうか。

前述のように、学生の国民年金加入が義務化される平成3年4月以前では、20歳から年金保険料を支払うという意識が薄かった。
60歳を過ぎても厚生年金に加入した場合、厚生年金の経過的加算で 年金保険料未納部を補填する救済措置が設けられている。
一般的に経過的加算については、定額部と老齢基礎年金の差額補填にの説明が主となっているが、20歳以後の学生時代に年金保険料未納があった筆者の実体験では、この救済措置の方が重要かつありがたい 制度だと感じている。
また、年金保険料未納が無い人でも、(注記3)で述べたように 厚生年金加入月が480か月になるまでは経過的加算は加算される。

3.まとめ
経過的加算には大きく:
A.旧制度と新制度での年金計算方法の違いによる老齢基礎年金の差額補填
B.20歳未満と60歳以上で厚生年金に加入した際の厚生年金額の増加
の二つの面がある。
特にB.では、国民年金保険料未納部を厚生年金加入年数により補填してくれる有難い部分である。
ここで注意点を2つ。
1)経過的加算は厚生年金加入年数に基づき、自動的に計算されるが、経過的加算が記載される機会が少ない。
2)経過的加算の金額は、本人が年金機構へ問い合わせる事で知ることができる(筆者も電話で確認した)。
本ブログでは、経過的加算の概要について述べた。より詳しい内容を知りたい場合は、年金事務所へ問い合わせすることをお勧めする。
このブログが皆さんの参考となれば、幸いである。

CFP 前川敏郎

投資について考えてみる

 先日、日本経済新聞の論説委員の方が講師を務めるセミナーを受講した。この中で読者に参考になるであろう事項と若干疑問を感じた事項を示し、皆様の判断を仰ぎたい。

資産4分割の運用は時代に合わない?

 いわゆる日本と海外の株式と債券に25%づつ分散投資するバランス型運用(日本ではGPIFの運用が代表例)はこれからの運用にふさわしくない、と講師は言う。それは、これからの日本の金利環境は下がることはなく、いつかは兎も角、いずれ上がってゆく環境にある。ということは債券の金利が上昇すると債券価格は下がるという法則からすると、価格が下がる債券を運用に含めるのはナンセンスであり、他の資産に入れ替えるべきだという。

 この指摘を受けて最初私もバランス運用の投信を見直さなくてはと正直思った。しかし、そもそも資産4分散の考え方は値動きの違う資産(株式と債券)を組み合わせて価格の変動リスクに備えるというものであり、慌てて修正すべきではないと考えるようになりました。ただ、資産分散の割合は今後株式の割合を増やし、債券の割合を減らすという手当は必要なのではないかと感じている。

“オルカン“だけで良いのか?

 今年1月からNISA制度が大幅改正され、新聞報道等によればネット証券が若年層の大半の証券口座を獲得し、1人1口座の口座獲得競争はほぼ決着したと言われている。もっとも野村証券等の大手対面型証券会社が本気でNISA口座獲得に動いていたという実感はない。そもそもネット証券が選好されているのは主に手数料が0円という点にある。手数料が0円ではいくら口座が増えても会社の利益には貢献しない。大手対面証券会社が冷ややかな?対応なのもわかる気がする。

 そして、本年2月の投資信託販売額最上位は1月に続き、三菱UFIモルガンスタンレー証券のEMAXIS-SLIMシリーズの「全世界株式(オール・カントリー)」、略称「オルカン」であり、購入額は1,892億円、第2位は同シリーズの「米国株式(S&P500)」で1,415億円であったという。(いずれも日経掲載記事より)

 この状況は全世界への資産分散、好成績のS&P500銘柄への投資であること、またEMAXISシリーズが同業投信の中で最低手数料(オール・カントリーで信託報酬は年0.05775%)であることから正しい選択といえるし、人気があるのもわかる。

 ただ、私が気になるのはNISAでオルカン等を積み立て投資を始めて(金額は人によって異なるだろうが)とりあえず時流に乗ったと思っている投資家・生活者に問いたい。確かに上記2つの投資信託は手数料も安いし、これまで成績も好調ではある。が、それは4資産分散の区分でいえば海外株式の1部に投資を始めたにすぎず、1本足打法的な危うさがありはしないか?

 勿論、投資資金にも限度があるという声があるのもわかる。たが、所得の中からだけでは投資資金に限度があるのもわかる。しかし、今回のNISAの改正は所得の中からだけではなく、既に保有している預貯金や課税扱いで行っている証券投資(株・投資信託)から非課税枠の広がったNISAに資金を移動させてこそ非課税のメリットを最大限享受出来るのではないだろうか?

                           CFP 重田 勉

「おひとりさまの不安」を少しでも解消するために

最近のFP相談は50~60代の女性のおひとりさまが多いように感じます。

一人っ子で未婚のまま両親が他界し、全く1人になった。兄妹はいるが、姪や甥に負担はかけたくない。姉妹はいるがお互い疎遠であるなど。

国立社会保障・人口問題研究所の「人口統計資料集(2023年)」によると、2020(令和2)年の「50歳時の未婚率」は男性が28.25%、女性が17.81%でした。前回調査と比べると、男性は約3.5ポイント、女性は約2.9ポイント上昇しています。

そしてこの折れ線グラフはさらに上昇していくと思われます。

結婚していない理由の国際比較は、日本は「適当な相手にまだ巡り会わないから」が一番多く、婚外子が多いフランスやドイツでは「結婚をする必要性を感じないから」、お隣韓国では図にはありませんが、「資金不足」が全年齢層で最も多く、若者世帯のうち親と同居する未婚世帯が59.7%とのことです(2019年のパラサイト半地下の家族が思い起こされます)。世界的にも未婚の上昇率は上がっています。

さて、話を日本に戻しましょう。このブログでは現実的におひとりさまの不安を少しでも取り除くよう注意点をお話します。

【働き方】

働き手が自分しかいないため、年金を受け取るまで働き続ける必要があります。

女性の場合年収400万円で22歳から65歳まで働いたとしても65歳からの年金は厚生年金と基礎年金で174万円程度。退職金が見込めない場合、できるだけコツコツ貯蓄に励みましょう。iDeCoやNISAもおすすめです。

親の介護のための介護離職は絶対に避けましょう。介護休業制度を利用し、親の居住地域の地域包括支援センター、社会福祉協議会に相談し、親の資産・年金から介護プランを立てましょう。

決して自分の預貯金を取り崩すのは避けましょう。

【住まい】

高齢になると借りにくいということもあり、余裕があるなら駅近のマンションを購入しておけばいざとなったときに売却しやすく資産となります。また親と同居している家なき子(家を持たない子)は親が亡くなったとき「小規模宅地の特例」が使え、特定居住用宅地等は要件を満たことで330㎡までの部分が8割減で評価できます。

高齢者施設を探すのも自分。持っている資産で施設にいつまでいられるのか、どういう生活を送りたいのか、送られるのかの視点で決めましょう。



【年金の受け取り方】

厚生年金は65歳から受取り、基礎年金を繰り下げし受給額を増やす方法もあります。ただ何歳まで生きるかは誰にもわかりません。FP相談でキャッシュフロー表を作成することもおすすめです。

【病気・介護への備えと終活】

入院手続きでは身元保証人を家族にすることが多いですが、おひとりさまはそれを信託銀行のおひとりさま信託や、司法書士や行政書士法人の見守りサポートや財産管理サポートなど民間の「身元保証サービス」を利用するのも選択肢です。

認知症になったとき、葬儀、納骨、死後事務、クレジットカードの解約やPC、スマホなどデジタル遺品の削除など誰に依頼するか準備しておきましょう。金融資産の多寡にかかわらず、親族とのトラブルを避けるために遺言書は公正証書で作成しておくことをおすすめします。

民間の財産管理サポートを使うほど資金がないという方は、居住地域の市町村の社会福祉協議会に相談しましょう。

CFP 佐藤広子