一般庶民にとって投資の王道はあるか?を考える

 岸田総理大臣が2022年5月に、英国金融街シティの講演で、「資産所得倍増計画」を
発表してから、岸田内閣では『貯蓄から投資へ』が一種のスローガンになっている。
また先ごろ、2024年からNISAが新しく拡充されることが発表となり、国を挙げて国民に投資活動を奨励している感がある。

・日本人は投資が苦手?
 一方、日本人は総じて投資が不得手というか、慣れていないのが実態だ。
下図は日本と欧米で家計の金融資産構成を比較したものである。

 欧米、特に米国では資産の中で株式・投資信託の占める割合が5割以上あるのに 対して、日本では現金・貯蓄の占める割合が5割以上となっている。
こういった国民性を持つ日本人に対して、「これからは貯蓄から投資だ」と言われても、 第一、投資のやり方なんて学校で習ってないよ、という声が聞こえてきそうだ。
昔々の高金利時代では、貯蓄さえすれば、それ相応の利子が付き、仕事に精を出せば 給料も右肩上がりで増えていった。
 ところが、超低金利時代の昨今、銀行の定期預金金利は、ほぼゼロに近く、預金しても 利息は物価上昇に負けている。また給料も思うほど上がらない。
とは言え、下手に良く分からない投資に手を出すと、痛い目の合うのではと投資に 踏み切れないと思う人が多いのもうなずける。
 日本人気質の根っこには「お金は額に汗して稼ぐもの」という意識があることは 事実だろう。投資と言うと、人によってはギャンブルとイコールに考えることも ある。ただ日本以外の国(例えば欧米諸国)では、一般庶民がコツコツと投資をして 老後の資金を貯めているのも事実である。
ここでは、プロの投資家ではない、我々一般庶民が投資をする際に「王道」と呼べる 基本的な方法があるかを考察したい。王道とは、囲碁の世界で言うところの「定石」と同じと考えてよい。
また、これから述べることは、筆者の個人的意見であることを、お断りしておく。

・一般投資家に投資の王道はあるか?
 ここからは、投資家をプロの投資家とそれ以外の一般投資家の2つに分ける。
プロでない、一般庶民である我々一般投資家に投資の王道はあるかを考える。
そもそも投資を行う場合、例えば株式市場を例にとると、株を売買するのはプロの
投資家もいれば、我々のような一般投資家もいる。いわば同じ土俵で戦う訳だ。
その中で、一般投資家が投資をして利益を得るような「投資の王道」は あるのだろうか?
 結論を申し上げると、筆者の個人的な見解は「王道」はあると考えている。

・投資の王道は何から学ぶ?
 さて、投資の王道は有ると言ったが、どこを(何を)見ればそれが分かるのか?
投資のバイブルの存在は、あまり聞いたことが無い。
一方、投資について書かれた著書は、世の中に星の数ほどある。
ここで筆者が投資に関する出版物・記事・インターネットの情報などで頻繁に 引用されている本を4冊選んでみた。(最後に参考図書として示す)
どれもベストセラーかつロングセラーである。この著書から投資の王道を抽出すると以下のようになる。

A.インデックス・ファンドへの投資
 インデックスとは日本語で言うと「指数」の意味だ。
例えば、株式投資を行う場合、2つの方法に分けられる。
一つは個別の株を買う投資をする方法。例え個人で個別株を選ばなくとも、
プロが選んでセットした投資信託を買ってもよい。これをアクティブ投資と呼んで いる。もう一つは、個別銘柄を選ばずに株式のインデックスに投資する方法だ。
日本株の場合、東証株価指数(TOPIX)に投資する方法がある。TOPIXとは東京証券 取引所に上場するすべての銘柄を対象として算出・公表されている株価指数のことだ。
ニュースでTOPIXが今日いくら値上がり(値下がり)したと報じられる。
TOPIXに投資することは、いわば株式市場全体に投資することになる。
さて、では何故アクティブ投資ではなく、インデックス投資を勧めるのか?
参考図書1および2に曰く、『プロの投資家が全精力を傾けてアクティブ投資を 行っても、インデックス投資に勝てない』
驚くような内容だが、参考図書1・2には、データを挙げて、その理由が記されて いる。詳しくは、参考図書の1および2を参照願いたい。
またアクティブ・パッシブ投資について、2021年3月の当ブログにも記載が ありますので、ご参考まで。

B.分散投資を行う
 極端な話、全財産を一つの銘柄の株式に投資する人はいないだろう。リスクを避ける ため、色々な分散を行うのも王道の一つだ。
分散とは、投資先の分散、投資する国の分散、投資する時間の分散等がある。
ちなみに、参考図書3に曰く「一に分散、二に分散、三に分散」。

C.定期定額長期投資を行う
 いわゆる積立投資を指す。毎月一定金額を長期にわたって投資する方法だ。
ドルコスト平均法が有名だ。
投資先の価格は日々変動するのが常である。安いときに買いたいのは山々だが、 そうは上手くはいかないもの。そこで相場変動に構わず、一定金額を長期にわたり 投資する。本当にそれで良いのかと思う方は、2018年8月の当ブログを参照下さい。
D.コストの安い投資方法を利用する

D.コストの安い投資方法を利用する
 投資する場合に手数料や信託報酬などに掛かる費用(コスト)は馬鹿にならない。
特に長期投資ではなおさらだ。幸い、最近では手数料無料や信託報酬が低い投資信託
が多く出ている。また利益が出た際に課税される税金もNISAなどを利用することで、
ゼロに出来る。

 以上が筆者の個人的な意見として述べた「一般庶民の投資の王道」である。
投資を職業としない一般投資家は、コツコツ積立投資を行い、リタイアするときに
老後の資産が確保されているのが、ベストなストーリーではないだろうか。
そのような道を探している方には、上記の方法は道先案内にはなると考えている。
投資や相場は人間が行う行為であるので、物理の法則と異なり、絶対に当てはまる
ものでは無いことに留意願いたい。
最後に、今まで述べていたこととは少し外れるが、ひふみ投信を展開するレオス・
キャピタルワークス 藤野英人社長が新聞記事に書いていた言葉を紹介する。
「最も成功する確率の高い投資は、自己投資である」

【参考図書】
1.「敗者のゲーム」  チャールズ・エリス著   日本経済新聞出版社
  – 題名の由来は、投資はアマチュアのテニスゲームのように、いかに自分がミスを
  せずにボールを相手に返すかで勝つことが出来ることに例えたもの。
  1985年初版発行。インデックス投資を推奨。
2.「ウォール街のランダム・ウォーカー」バートン・マルキール著   日本経済新聞出版社
  – 初版発行が1973年の50年におよぶロングセラー書。インデックス投資の優位性
  をデータを元に解説している。
3.「投資の大原則」 チャールズ・エリス、バートン・マルキール共著  日本経済新聞出版社
  – 上記1,2の著者の共著の本。読み易くコンパクトにまとまっているので、
  筆者一番のお勧め。
4.「賢明なる投資家」 ベンジャミン・グレアム著 パンローリング社
  – 著者は投資の神様ウォーレン・バフェットが師匠と仰ぐと言われている。
  1949年初版発行。古典的名著の誉れは高いが、中身のデータが古いのと、
   ページ数が多く(価格も高い)、読むのに苦労する。

CFP 前川敏郎