「障害年金」と聞いて、どんなことを思い浮かべますか?
「重度の障害になった時にもらえる年金…?」「障害者手帳を持っている人の年金…?」
ご存じの通り、公的年金には、老齢年金・遺族年金・障害年金があります。しかし、老齢年金に比べて、障害年金の内容については、あまり知られていません。
今日は、がんと障害年金について、お伝えしたいと思います。
生涯のうちに、日本人の2人に1人がんにかかるといわれます。 国立がん研究センターの「最新がん統計」によると、2017年に新たにがんと診断された方は977,393人となっています。下のグラフは年齢別に表したものです。65歳からの増加が顕著ですが、現役世代の含まれる20歳から64歳の合計は約24.5万人です。
また、2009年から2011年にがんと診断された人の5年相対生存率は男女計64.1%(男性62.0%、女性66.9%)との統計もあり、がんと診断された後、治療をしながら、がんと共に生きていく現状がわかります。
■傷病手当金
お勤めの方が、がんなど業務外の病気やけがで、4日以上働くことができなくなり、給与が支給されなかった時のサポートとして、健康保険の傷病手当金があります。要件に該当すれば、全国健康保険協会の場合、休職中の生活保障の為、直前の給与(標準報酬月額)の約3分の2が最長1年6ヶ月支給されます。この期間中、一時的に職場復帰、その後休職を繰り返した場合も支給されます。
■障害年金
健康保険の傷病手当金は最長1年6ヶ月受給できます。このため障害年金の等級に該当する場合、傷病手当金受給後に障害年金を受給することが考えられます。
障害年金は病気やけがによって日常生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代の方を含めて受け取ることができる年金です。
障害年金には、「障害基礎年金」「障害厚生年金」があり、病気やけがで初めて医師等(医師または歯科医師(以下「医師等」と表記))の診療を受けた時に国民年金に加入していた場合は「障害基礎年金」、厚生年金に加入していた場合は、「障害厚生年金」が請求できます。
障害年金を受け取るには、年金の保険料納付状況などの条件が設けられています。(詳しくはこちらをご確認ください。日本年金機構 障害年金制度についてhttps://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/04.pdf)
原則として、初診日※1が国民年金あるいは厚生年金の被保険者期間中であり、障害認定日※2に身体の状態が障害と認められる場合、対象となります。
◇※1初診日:障害の原因となった病気やけがについて、初めて医師等の診療を受けた日のこと。同一の病気やけがで転医があった場合は、一番初めに医師等の診療を受けた日が初診日となります。
◇※2障害認定日:障害の状態を定める日のことで、その障害の原因となった病気やけがについての初診日から1年6ヶ月を過ぎた日、または1年6ヶ月以内にその病気やけがが治った場合(症状が固定した場合)はその日をいいます。
■障害年金の対象となる病気やけが
手足の障害などの外部障害の他、精神障害やがん、糖尿病などの内部障害も対象になります。
1.外部障害:眼、聴覚、肢体(手足など)の障害など
2.精神障害:統合失調症 うつ病、認知障害、てんかん、知的障害、発達障害など
3.内部障害:呼吸器疾患、心疾患、腎疾患、肝疾患、血液・造血器疾患、糖尿病、がんなど
■がん(悪性新生物)による障害認定基準
国民年金では障害等級は1級2級、厚生年金では1級2級に加えて3級があります。具体的な障害の状態は、国民年金・厚生年金保険障害認定基準により審査されます。日本年金機構HPで全文が公開されています。(厚生労働省:国民年金法施行令別表 厚生年金保険法施行令別表第1及び第2 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12501000-Nenkinkyoku-Soumuka/0000096303.pdf )
◇注:障害年金の等級は身体障害者手帳の等級とは異なります。
身体障害者手帳は、身体障害者福祉法が定める身体上に障碍がある人を対象に、都道府県や、政令指定都市等が交付する手帳です。この等級は7等級に分かれています。(詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。 厚生労働省HP:身体障害者手帳/等級
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000172197.pdf )
さて、障害年金に話を戻しましょう。
がん(悪性新生物)による障害認定基準は次のように定められています。
■一般状態区分表
がんの場合、人工臓器(人工肛門・新膀胱など)の造設など、目に見える身体の機能の変化だけでなく、 抗がん剤などの薬物治療の副作用による倦怠感(だるさ)や末梢神経障害(しびれ、痛み)、貧血、嘔吐、など、見た目では分かりにくい内部障害の場合でも、その原因ががんの治療によるものであり、現在の仕事に支障をきたすことが認められれば、支給対象になる可能性があります。
■ここがポイント
・がんによる障害は生活や仕事への支障が分かりにくいため、書類の書き方によって受給の可否が分かれることも少なくありません。また、がんという病気の特性上、個々のケースが様々で、初診日の確定など手続きが難しい場合もあります。ご自身やご家族が対象になるかも?と思ったら、主治医、担当看護師、病院の相談室、ソーシャルワーカーに相談し、連携することが大切です。
・傷病手当金と障害年金の支給が重複した場合には、傷病手当金の返納が発生しますので、ご注意ください。
・令和2年10月1日から、同一傷病かつ同一初診日で障害年金を再請求する場合の簡素化が図られています。初回請求で不支給となった場合でも、その後症状が悪化したことによる再請求の再審査に、初回に提出した初診日証明書類を用いる事ができるようになりました(個々の事情によります)。
■障害年金についてのよくある質問
Q.受給することで生活に制限を受けますか?
A.生活保護のように生活に制限を受けることはありません。ご自身が自由に使うことができるものです。受給していると働いてはいけないという事もありません。
Q.障害年金を受け取ると、老後の年金が少なくなりますか?
A.老齢年金から差し引かれるという事はありません。
Q.障害者手帳を持っていませんが…
A.障害者手帳の所持が受給要件ではありません。また、障害者手帳の等級と障害年金の等級は別の法律に基づいて定められており、必ずしも一致しません。
■結び
障害年金は、けがによる障害だけでなく、がんなどあらゆる病気が対象となります。また、目に見えて身体の機能が変わった場合だけが申請対象となるものでもありません。思ったよりもずっと身近に、そして心強く感じませんか?
年金というと、老齢年金が注目されがちですが、障害年金は、幅広い年代にとって万が一に支えとなる制度です。保険料の未納で後悔することのないよう、仕組みを理解して納付するよう、若い方たちにも伝えたいですね。
2020年11月 AFP 依田いずみ