日本銀行を見学に行ったことがあります。3年ほど前のことです。マスコミの写真でおなじみの本館は重要文化財に指定されています。これがなかなか写真のアングル的には撮りにくい。予約すれば見学可能であり、ビニール梱包された1億円分の札束を持ち上げて重さを体験することができます。ただし、これはお持ち帰りできないように金属の枠がはめられています。
ちなみに筆者は過去においてこれと全く同じ1億円の梱包された現物は何度も手にしています。 と言っても、残念ながら自分のものではありませんでした。かつては給料と言えば現金支給でしたから、給料日前には銀行の支店にジュラルミンのケースに入って何個も運ばれてきたものでした。
さて、最近この日本銀行のことが話題になっています。
とりわけ、物価目標(インフレターゲット)でマスコミ紙面を賑わせています。
インフレターゲットとは
「年間の消費者物価指数の上昇率を一定の範囲内に収まるようにする金融政策」であり、長期のデフレに悩む我が国は、安倍政権の強い要請を受ける形で日銀が2013年1月に目標値を2%と設定して導入に踏み切りました。
インフレとデフレは、どちらが悪か
終戦直後の日本は、物価上昇率が100倍というような時代を経験し、国民は物価上昇に苦しみ、長い間金融政策の要はいかにインフレを抑えるかでした。まさに「インフレは悪」でした。
その後、我が国で消費者物価指数の上昇率が5%を超えたのは、1980年頃の第2次オイルショックの頃で、90年代の半ばから指数は横ばいから下落に転じています。その後今日に至るまでデフレです。
日本におけるデフレの定義は「物価の持続的な下落」です。物価が下落し始めた頃は、誰しも懐に心地よいという感じを享受したものでした。しかしその後デフレ状態が続いた結果、事業規模の縮小等経済に様々な悪影響を与え「デフレは悪」と言われるようになりました。
インフレにしろ、デフレにしろ、それ自体が悪という訳ではなく、その程度が問題なのです。
◆インフレターゲットは成功するか
日銀の白川総裁は2%の目標達成は「容易でない」と指摘しています。
金融政策はよく「坂道の岩石」にたとえられます。いくら押しても動かないが、動き出したら止まらないというたとえです。
そう思うようにコントロールできるものではないことは、歴史が証明しています。
物価の数値目標達成のみに目が行き過ぎることなく、急激な金利上昇を回避する等の金融システムの安定性に配慮しながらの、柔軟な物価目標政策が期待されるところです。
(宮 村 昭)