《雇用形態を見直してみよう!!》

 

1.はじめに

今、経済の好調等を背景にした人手不足からAI化が叫ばれ、多くのところでロボットが人に代わってその仕事を担い行う時代を迎えています。
しかし、根幹部分は人間が行うわけで、いま政府が進める「働き方改革」の中の重要3課題のうち、①高齢者の就労促進 ②長時間労働の是正 の2テーマについては、私が担当したブログ(平成28年12月・平成29年7月)でご説明しました。そこで今回は、残る≪同一労働・同一賃金≫について解説します。同一労働・同一賃金とは、職務内容が同一であれば、同一の賃金を支払うべきという考え方です。しかし、実態は雇用形態により賃金等に大きな開きがあり(非正規の賃金は、所定内給与の比較だけで正社員の6割程度にとどまる)、その解決策は非常に難しく政府は平成28年12月ガイドライン【指針】を示しましたが、課題解決に向けた議論はあまり進展してなく、法案改正は当初計画より遅れています。それでは、その背景を過去の長い歴史から振り返ってみましょう。

 

2.同一労働・同一賃金

まず日本型雇用の特徴として終身雇用があげられます。しかし、現在その区分を、正規社員と非正規社員(パート・アルバイト・派遣・嘱託等)に分けて見ると、その割合はバブル崩壊前までは8:2でした。しかし、景気後退・低迷した期間が長く続き、非正規社員が大幅に増加し、最近(平成27年度以降)は若干改善しているとはいえ、おおよそ6:4となっています。それでは、最近の数字を細かく見てみましょう。

〇 労働力調査(総務省統計局:平成29年7~9月期平均)
・雇用形態
正規の社員3.435万人、非正規の社員2.050万人(男性:658万人、女性:1.393万人)となっていて、雇用者に占める非正規社員の割合は37.4%です。

非正規の内訳:パート・アルバイト・・・1.419万人(69.2%)
派遣社員・・・・・・・・ 139万人( 6.8%)
契約社員・・・・・・・・ 294万人(14.3%)
嘱託・・・・・・・・・・ 120万人( 5.9%)
その他・・・・・・・・・   77万人( 3.8%)

企業だけではなく、最近は地方公務員も非正規職員が増えていて、都道府県と市区町村を合わせて平成28年は約64万人と、全職員に占める比率は2割近くに達しているようです。

・ 非正規社員が現職の雇用形態についた理由

非正規の雇用形態についた主な理由では、「自分の都合のよい時間に働きたいから」とした者が男女とも一番で、男性157万人(26.2%)女性392万人(29.7%)となっています。一方「正規の職員・従業員の仕事がないから」と不本意ではあるが非正規で働いている者は、男性140万人(23.3%)女性136万人(10.3%)となっており、男性の4人に1人は不本意非正規の状態で、とりわけ家庭を持ち働き盛りである年代(25歳~34歳)の割合が一番高い。

〇 賃金構造基本統計調査(厚生労働省:平成28年)

・雇用形態別の賃金
男女計:正 社 員  321.7千円(年齢41.4歳、勤続12.7年)
非正規社員  211.8千円(年齢46.5歳、勤続 7.7年)
男 性:正 社 員  349.0千円
非正規社員  235.4千円
女 性:正 社 員  262.0千円
非正規社員  188.6千円

雇用形態間賃金格差(正社員=100)は、男女計で65.8、男性で67.4、女性で72.0となっており、男女計及び女性で統計を取り始めた平成17年の調査以来過去最小となっているとのことです。
年齢階級別にみると、正社員以外は、男女いずれも年齢階級が高くなっても賃金の上昇があまり見られなく、それが格差の大きな理由といえます。
3.無期転換ルール・・・いよいよ始まる

それでは、正規社員へという願望は叶えられないのでしょうか?
それに関連する法律は既に成立していますが、多くの労働者にいまだ知られていないのが、労働契約法第18条(平成25年4月1日施行)の「無期転換ルール」です。有期労働契約が反復更新されて5年を越えるときは、労働者の申し込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるというルールです。すなわち、平成25年4月開始で契約期間が1年の場合には、平成30年4月通算5年を迎え更新されるときに、無期転換申込権が発生し申込みをすると平成31年4月からは、無期労働契約での雇用になることができます。今回対象となる人数はおおよそ450万人と見込まれています。ちなみに、厚生労働省の調査では「有期契約で働く人のうち、約38%が無期への転換を希望」という結果になっています。
各企業にあっても法改正に向けて就業規則の見直しや規定の整備を進めています。
また、国においても企業に対して「キャリアアップ助成金」制度を設けて、非正規雇用労働者のキャリアアップを奨励しています。
そのような状況の変化を先取りする形で、非正規社員全員を正社員(勤務地を限定した社員等の形)にする企業も出てきていて、新聞にも時々トピックスとして企業の具体的事例が紹介されます。企業にあっては、正社員にすることで人件費は膨らんでも、社員の士気が高まり利益の成長率がそれを上回れば成長投資と言えることになります。また、現在は人材派遣会社から派遣社員として企業に出向いている場合、代金(報酬)の流れは、顧客企業(派遣されている会社)はその派遣料金を派遣会社へ支払い、派遣社員は雇用契約のある派遣会社が一定の金額を差し引き給与が支払われています。人材派遣会社もまた改正労働契約法に基づき、現状の一般事務派遣が有期雇用となっていることが多く、無期雇用へ転換する必要性から、派遣料金の引き上げを派遣先企業と交渉に入っているようです。

時代変化の流れをくみ取り、短時間労働者に対し社会保険適用(厚生年金・健康保険)の拡大をする企業も増えています。国の制度改正により平成29年4月から従業員数500人以下でも労使が合意すれば、社会保険を任意で適用できるようになりました。

 

4.派遣労働者の雇用安定に向けた新ルールも始まる

本年9月30日には、有期契約の派遣社員が同じ職場で働ける期間を3年に統一した改正労働者派遣法の施行から3年が経過することで、同じ部署への派遣期間が3年を越える派遣社員は原則、派遣先企業における直接雇用への切り替えなどが必要になります。仕事ぶりが評価され派遣終了に合わせそのまま職場を知り尽くし自分の力が十分発揮される先で正社員になれるのであれば、非常にありがたい話だと思います。
頑張ってください!!

 

5.まとめ

以上のような法改正と共に人手不足を背景として、各企業において幅広く待遇改善が進められています。政府も経済界に対し本年4月に3%の賃上げを強く申し入れしています。労働環境の改善では、無期転換ルールにより有期契約から無期契約へ転換されることで、安心して働ける体制は確立するといえるでしょう。
今後は具体化していく≪同一労働・同一賃金≫の推移を見守り期待しましょう!!

FPみらい ブログ 平成30年1月

社会保険労務士・健康経営アドバイザー・行政書士・AFP  若林富雄