中小企業の退職金事情

昨年末都内で会合があった帰り、ほろ酔い気分で新宿駅から小田急線に乗車したところ、車内で中小企業の経営者らしき方お二人が次のようなやりとりをしていました。

A:ところで、Bさんの会社は退職金制度あるの?

B:うちは、国の退職金制度「中退共」をやってるよ。国や、自治体によっては助成制度があったり、なおかつ今時この低金利時代に1%(平均)の運用利回りを約束してるんだよ。

A:それは賢いね。だけど運用利回り1%というのは高いのかな。銀行の普通預金と比べれば全然いいと思うけど、国内外の株式や債券、投資信託等で運用すればもっと利回りがいいんじゃないかな。ほら今流行ってるんでしょ。何て言ったっけニーサとか何とか。

B:NISA(少額投資非課税制度)のことだろ。アベノミクスでいう「貯蓄から投資へ」もいいけど、大事な従業員の退職金を運用が下がって払えないなんてことは避けたいからね。数年前にもあっただろ、厚生年金基金の解散問題が。

A:実はうちの会社が加入している厚生年金基金も解散が決まってね。数年前まで代行割れしてたんだけど、ここ1・2年のアベノミクス効果で運用結果が良いうちに代行返上しちゃおうという事になってね。そこで残余財産を含めての代替制度をどうしようかと悩んでるんだよ。

B:良いタイミングで解散が決まって良かったね。だけど代替制度については慎重に選ばないとね。残余財産があるのなら、確定給付企業年金(DB)・確定拠出年金(DC)・中退共に移行ができるけど、確定給付企業年金(DB)はお薦めしないな。運用結果次第で企業が退職給付債務を負うことになるからね。

A:だとすると、やっぱり確定拠出年金(DC)がいいのかな。

どうやら、自社の退職金・企業年金制度について話していたみたいですね。

Bさんの会社は、中小企業退職金共済制度(略称:中退共)に加入していて、Aさんの会社は厚生年金基金に入っていたけど解散が決まったので、その代替制度として確定拠出年金(DC)を検討しているみたいです。

ところで、皆さんはこの確定拠出年金ご存知でしたか?

確定拠出年金とは、拠出した掛金が個人ごとに明確に区分され、掛金とその運用収益との合計額をもとに年金給付額が決定される年金制度です。従来の企業年金は適格退職年金や厚生年金基金等が主流でしたが、終身雇用の減少による受給権の不明確さや積立不足といった問題が生じ、廃止や解散となっていった為、平成13年10月より新たな公的年金上乗せ制度として導入されました。

確定拠出年金には企業型と個人型があり、加入できるのはサラリーマンだけでなく、自営業者やフリーター等国民年金の第一号被保険者も個人型で加入できます。通常企業型確定拠出年金は厚生年金加入事業所が厚生年金の上乗せとして加入するので、新たに会社が掛金を全額負担し、規約に定めがない場合は原則60歳未満の厚生年金被保険者は全員加入となります。また、運営管理をする金融機関も手数料収入が大きい中堅以上の企業は引受けるが、小規模企業では引受ないところもあり、中小企業には少し敷居が高いイメージもあったようです。

ところが数年前より、頭に「選択制」が付いた確定拠出年金の普及が広がっているとのこと。「選択制」とは従業員が老後資金となる将来の退職金を①前払い給与として受け取るか、②確定拠出年金で積立拠出するか選択出来る制度のことで、労使間で給与規定の改定等同意が得られれば、新たに会社が拠出金を負担することなく導入することが出来ます。

さらに付随的な利点があります。確定拠出年金で積立拠出することを選択した従業員にとっては、結果として拠出分は給与の後払いになるというマイナス的に受け取られる方もいるかと思いますが、実は逆に有利になることもあるのです。拠出した掛金分、所得税・住民税が減税となり、社会保険料も軽減される事もあります。またそれは社会保険料を折半負担している会社にとっても大きなメリットになります。  

確定拠出年金については、過去のブログ(2015.11.09)でもDCプランナーの佐藤広子氏が記してますので、ご参照ください。

さて今回は冒頭Aさんが検討している確定拠出年金をメインにお話しましたが、Bさんの会社が加入している中退共もそれに負けず劣らず良い制度なので、機会があればまた紹介したいと思います。現在退職金・企業年金制度について検討されてる中小企業の皆様、どうぞ「FPみらい」へご相談を!

FPみらい 理事 小野 宏治