2023年度の税制改正で分譲マンションの相続税評価額の算定方法が見直され、2024年1月1日以降に発生する相続、贈与、遺贈について、新ルールが適用されています。
これは、分譲マンションの相続税評価額と市場価格との乖離を利用した相続税の過度の節税が問題となっていたためです。
従来の評価方法では、分譲マンション一室の相続税評価額は建物の固定資産税評価額と、路線価から算出した敷地利用権の価額を合計したものであったため、高層分譲マンションのように住居戸数が多く建物全体の敷地面積に対する各住居部分の面積の割合が小さくなる場合、相続税評価額が低くなりがちになります。また、市場価格は建物の階数や所在階数は反映されますが築年数の反映が不十分となり、高層の建物で高層階の物件は築年数によらず高くなりやすい状況となっていました。
新ルールによる相続税評価額は、市場価格との乖離が少なくなるよう従来の相続税評価額に、建物の築年数、総階数、所在階、敷地持分狭小度を反映し算出した区分所有補正率を掛けたものとなります。
1.分譲マンション一室の相続税評価額算定方法
1.1従来ルールによる相続税評価額
=区分所有建物の価額 + 敷地利用権の価額
(固定資産税評価額) (敷地全体の価額 x 敷地権の割合)
1.2 新ルールによる相続税評価額
新ルールによる相続税評価額=従来ルールによる相続税評価額 x 区分所有補正率
1)区分所有補正率
区分所有補正率は、分譲マンションの多数の売買実例をもとに予測した市場価格と、従来ルールによる相続税評価額からの乖離の比率である評価乖離率を計算し、その逆数である評価水準(=1/評価乖離率)から求めます。
評価水準は、評価乖離率の逆数であるため市場価格が従来ルールによる相続税評価額よりも大きいと評価水準の値は小さくなります。
評価水準 区分所有補正率
0.6未満 評価乖離率x0.6
0.6以上1以下 1
1超 評価乖離率
新ルールによる相続税評価額は、従来ルールで算出した相続税評価額が市場価格の60%未満の場合は市場価格の60%に引き上げられ、60%以上100%以下の場合は補正はなく、100%を超える場合は100%に引き下げられます。
2)評価乖離率の計算式
区分所有補正率を求める際の基となる評価乖離率は以下の数式をもとに計算されます。
築年数にはマイナスの係数が掛けられていますので、築年数が大きいと評価乖離率が下がります。 建物の総階数と所在階にはプラスの係数が掛けられていますので、これらの数字が大きいほど評価乖離率は上がります。建物の敷地面積全体に対する各居住部分の敷地利用権の面積の比率である敷地持分狭小度については、マイナスの係数が掛けられていますが、高層マンションのように敷地持分狭小度の数値が小さい場合は、評価乖離率は下がりにくいことになります。
評価乖離率
=築年数x△0.033+総階数指数x0.239+所在階x0.018+敷地持分狭小度x△1.195
総階数指数:総階数/33
2.新ルールによる相続税評価額の計算
分譲マンションの相続税評価額が新ルールの適用によりどれだけ影響を受けるかを具体的な事例で見てゆきます。
事例は、国税庁の「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」で使用された数値を使用しています。
所在地 総階数 所在階数 築年数 専有面積 市場価格 相続税評価額* 乖離率 事例1 東京都 43階 23階 9年 67.17㎡ 11,900万円 3,720万円 3.20倍
事例2 福岡県 9階 9階 22年 78.20㎡ 3,500万円 1,483万円 2.36倍
事例3 広島県 10階 8階 6年 71.59㎡ 2,240万円 954万円 2.34倍
*従来ルール適用
1)新ルールによる相続税評価額
評価乖離率 相続税評価額
事例1 3.41倍 7,611万円
事例2 2.07倍 1,842万円
事例3 2.59倍 1,483万円
新ルールによる相続税評価額は、超高層分譲マンションである事例1では従来ルールによる相続税評価額の2.0倍となり、新ルール適用の影響が最も大きく表れていますが、事例2および3でも各々1.2倍、1.6倍となっており、新ルール適用により分譲マンションの相続税評価額が影響を受けるのは超高層分譲マンションだけではないことがわかります。
区分所有補正率は、国税庁のサイト「居住用の区分所有財産の評価に係る区分所有補正率の計算明細書」で簡単に計算することができます。また、従来ルールによる相続税評価額は、お住いの市役所から送付される「固定資産税・都市計画税(土地・家屋)納税通知書」や登記簿等から計算できます。
「居住用の区分所有財産の評価に係る区分所有補正率の計算明細書」サイト
新ルールではお住まいが分譲マンションの方は相続税評価額が高くなる可能性があるため、相続税評価額を具体的に計算することで相続税対策を早めに検討されてみてはいかがでしょうか?
CFP 岩船康則