今年4月から、昭和27年4月2日以降に生まれた方を対象に老齢年金の繰り下げ受給の上限年齢が70歳から75歳に引き上げられました。
年金の受給開始を75歳からとすると65歳から受給する場合に比べ、年金額は84%増額します。人生100年時代の中、健康寿命、平均寿命、各年齢での生存確率を確認してゆきながら、老齢年金はいつから受給するのが良いか考えてみます。
図表1は、老齢年金の受給開始年齢を70歳及び75歳に繰り下げた場合、65歳から受給を開始する場合と比較した 年金受給総額のグラフです。
社会保険料や税金が差し引かれる前の年金受給総額で比較すると、70歳受給開始の場合82歳以上、75歳受給開始の場合86歳以上生存すれば65歳受給開始の年金場合の年金受給総額を上回る結果となります。 社会保険料や税金を考慮すると分岐点の年齢は2~3歳上昇します。
2021年の簡易生命表を基に65歳時点の平均余命から算出した平均寿命は、男性が84.9歳、女性が89.7歳です。
図表2は、2021年の簡易生命表を基に65歳を起点とした90歳から100歳までの各年齢での生存確率をまとめたものです。
確率的には、男性の場合3人に1人が90歳迄10人に1人が95歳迄、女性の場合は3人に1人が95歳迄10人に1人が100歳迄生存すると予測されます。まさに人生100年時代が近づきつつあることを示す数値です。
図表3は、2001年から2021年まで65歳を起点とし90歳、95歳、100歳の各年齢での生存確率の推移を5年毎にまとめたものです。
男女とも着実な長寿化の傾向が見て取れます。
図表4は、65歳を起点に100歳迄の各年齢での生存確率を2001年~2021年まで5年ごとの簡易生命表を基にグラフ化したものです。
65歳受給開始の場合と比較し年金総額が上回る受給開始年齢は、税金や社会保険料を考慮した場合前述のように70歳からの受給開始では84歳~85歳、75歳からの受給開始では88歳~89歳です。
男性の場合65歳の平均余命から算出した平均寿命は84.9歳ですので75歳からの受給開始では65歳からの受給開始と比較し年金受給総額が下回ることになりますが、2021年現在男性の3人に1人が90歳迄生存し生存確率は今後も増加してゆくと予測される中、長生きのリスクに対応するため終身年金である老齢年金をできるだけ繰り下げて受給する重要性は高まっていると言えます。
女性の場合は65歳の平均余命から算出した平均寿命が89.7歳であることや2021年現在3人に1人が95歳迄存命であることを考慮すれば、繰り下げ受給は男性以上に重要です。
65歳迄の雇用確保を義務化する改正高年齢者雇用安定法が2021年4月に施行されましたが 、老齢年金を65歳以降に繰下げ受給するまでの間、生活費の不足には一般的には働くことで対応することになります。
年金の受給をいつまで繰り下げるかは、いつまで健康でいられるかにかかってきます。
図表5は、厚生労働省の健康日本21(第2次)推進専門委員会の資料から取りまとめた2001年から2019年までの健康寿命の推移です。資料で健康寿命とは「日常生活に制限のない期間の平均」と定義されています。
健康寿命は20年間で男女とも約3年伸び2019年では男性は72.7歳、女性75.4歳となっており、今後も健康寿命の伸びが予測されます。
男性の場合、健康面からは73歳まで働き74歳から年金を繰下げ受給すると前述の通り65歳受給開始の場合の年金受給総額を下回る結果となりますが、生活習慣病予防が健康寿命改善の一因であることから生活習慣の見直し等により健康寿命を伸ばすことで働く期間を伸ばすことも可能になります。
総務省の労働力調査によればシニア層の就業率は年々増加しており、2021年平均では65歳~69歳の年齢階層では男性で6割、女性で4割が、70歳~74歳でも 男性で4割、女性で2.5割が就業しています。
65歳以降できるだけ長く働き、終身年金である公的年金を繰り下げ増額した年金を受給することは、人生100年時代の中で長生きのリスクに備える有効な手段ですが、いつまで働く必要があるかは、ご自身が会社員か自営業か、共働きか否か、家族世帯か単身世帯か等世帯のタイプや働き方、老後の暮らし方、退職金や金融資産の額等により個人ごとに大きく異なります。
キャッシュフロー表とは、これら個人ごとに異なる年間の収入と支出、生活費等を基に将来にわたる金融資産残高の推移を見える化することで家計の問題点を把握し、条件を変えながら試算を繰り返すことで解決策を見出してゆくためのツールですが、ご自身で作成することが難しい場合はファイナンシャル・プランナー(FP)に相談しFPとともに人生100年時代に備えてご自身の解決策を考えてみてはいかがでしょうか。
CFP 岩船