先日、12月1日付日経新聞に投信関連の記事が出ていたので目にされた方も多いと思います。
記事のタイトルは「毎月型投信の分配金――過半は元本からが8割」というもの。
そこには興味深い表が載っていたのでここに紹介します。
残高上位の毎月分配型投信の分配状況
銘 柄 名 |
元本から払い出されている比率 |
新光US-REITオープン |
96.9% |
フディリティ・USリート・ファンド |
99.3% |
ラサール・グローバルREIT |
100.0% |
フィディリティ・USハイ・イールドF |
100.0% |
ピクテグローバルインカム株式F |
100.0% |
ダイワ米国リート・ファンド |
100.0% |
グローバル・ソブリン・オープン |
92.9% |
私も衝撃を受けたが読者の皆様も驚かれた?ことと思います。この表の意味は残高上位の、つまり最も人気があり販売されている毎月分配型の投資信託はその分配金の100%から93%は顧客・投資家の投資元本からの払い戻しであるということ!
これでは「分配金」ではなく、将に「元本払い戻し金」である。こんな投資信託を誰が買っているのか?「年金生活の足しになる」と中高年層の投資家に人気があるのだという。
販売サイドの銀行・証券の窓口・営業マンは「年率20~30%の高い分配金利回りがもらえます!」との売りで顧客を獲得してきている。
それではこの日本では人気のある(売れている)各投信の基準価格はどうなっているのか?
銘 柄 名 |
基 準 価 格(円) |
新光US-REITオープン |
3,344 |
フディリティ・USリート・ファンド |
4,511 |
ラサール・グローバルREIT |
2,840 |
フィディリティ・USハイ・イールドF |
4,032 |
ピクテグローバルインカム株式F |
3,889 |
ダイワ米国リート・ファンド |
4,293 |
グローバル・ソブリン・オープン |
5,079 |
モーニングスターHPより筆者作成 H28年12月1日現在
やはり惨憺たる状況である。そもそも投信は基準価格1万円であったはずである。表のうち半値を確保しているのは過去に分配金を引き下げ、それが残高減少に繋がったグロソブのみであとはひどいものはそれが2千円台にまで減少してしまっている。
本当に中高年層の投資家はこのことを知っていて20%~30%の高分配金を望んでいるのだろうか?不思議なことに上記の表を作るにあたってモーニングスターのランキング表を調べたが人気投信の残高・分配金ランキングはあってもそこに基準価格は載せていなかった!
止む無く個別に各投信を調べ基準価格の実態が分かった訳だが、一般の投資家がそこまで調べるだろうか?やはり販売窓口・営業マンのセールス・トークに乗っていないだろうか。
今回のテーマは「まだまだ金融知力は上がっていない」としたが、これは本来投資元本の着実な成長を中長期的に図るべき投資信託の売り方がまだまだ高コスト(購入者にとっては高い信託報酬・販売者には高収益)・高分配依存から脱却出来ていない現実を憂いてのことである。
更には、投資家たる購入者、特に投資額では中心を占める中高年層の“金融知力”を上げないといつまでも販売サイド側に有利な・手数料の高い投資信託ばかりが売れ、気が付いてみたら元本が半分以下になっていた(もうなっている)ということになってしまう。
このことが重要な問題なのはやがていつか投資家も高い分配金は自分の元金を払い戻して使っていただけだったのだと知った時、きっと投資嫌いになり投資から離れて行くと思われるからだ。
日本の投資信託をめぐる状況についてはこの数年当局の指導もあり徐々に改善しつつあると思われる。即ち、特別分配金の元本払戻金への呼称変更や投資家へのトータルリターンの通知等である。また、インターネットを使える投資家や自分が負担する手数料が長期投資に与える影響を理解している層は販売手数料ゼロ(ノーロード)の商品や信託報酬の安い投信を選んで買っている。やはり単なる金融の「知識」ではなく、情報を集め、例えば投信の仕組みを学び、自分の頭で考える「金融知力」を備えなければ、販売サイドの金融マンや証券マンのプロと戦う(相談する)のは難しいのではないだろうか。
願わくは日本の投資の経路も今までのように販売サイドの人間に相談して買う為に起こる、人が買っている、人気がある、残高が多いという選択肢で年金の足しになるという理由で前記の毎月分配型投信を保有しているであろう中高年投資家が中立的立場で投資・運用のアドバイスをするFP(ファイナンシャル・プランナー)のアドバイスを聞いて投資する環境に早く変わってゆくことを願うばかりである。
CFP 重田 勉 H28.12.8