友人から保証人になって欲しいと頼まれたことはありませんか?
それは、単なる保証人でしたか、又は連帯保証人でしたか、そして、その時あなたはどうされましたか。普段身近なところにある保証人について考えてみましょう。
1.はじめに
(1)保証人と連帯保証人の違いは?
その違いは民法に以下のようになっています。
・民法第452条(催告の抗弁権)
債権者が保証人に債務の履行を請求したときは、保証人はまず主たる債務者に催告すべき旨を請求することができる。ただし、債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、又は行方が知らないときは、この限りではない。
・民法第453条(検索の抗弁権)
債権者が前条の規定に従い主たる債務者に催告した後であっても、保証人が主たる債務者に弁済する資力があり、かつ、執行が容易であることを証明したときは、債権者は、まず主たる債務者の財産について執行しなければならない。
・民法第454条(連帯保証の場合の特則)
保証人は、主たる債務者と連帯して債務を負担するときは、前二条の権利を有しない。
一番身近な法律である民法には、以上の通り明文化されております。すなわち連帯保証人は、本人とイコールであるということです。従って依頼された方がどういう関係の方かは別として、単なる保証人なのか連帯保証人なのかを確認することが最初に求められます。
(2)中小企業・小規模事業者の経営者の皆様
金融機関から融資を受ける際の保証は、「連帯保証人」です。債務者が債務を履行しない場合、連帯保証人は、銀行は債務者に請求したか否か、債務者に弁済のための資力があるか否かにかかわらず、保証が及ぶ融資金の全額について弁済する義務を負っています。
2.個人保証制度の見直しに向けての流れ
(1)包括根保証の禁止
①保証金額や保証期限に定めのない包括根保証は、保証人が契約時に想定してなかった過大な債務を負う可能性があることや契約したこと自体を忘れかけた頃に行われた融資についてまで履行請求されること等の問題が指摘されていた。
②このため、2004年3月から法務省法制審議会保証制度部会において、保証制度の適正化に関する審議を開始。その審議の結果、包括根保証を禁止する内容の民法改正法が2004年11月に成立し、2005年4月1日から施行された。
〈改正内容のポイント〉
・保証契約は書面で行わなければ無効(民法第446条)
・極度額の定めがない根保証契約は無効(民法第465条の2)
・保証期間の上限を5年とする〈期限の定めがない場合は3年〉(民法第465条の3)
(2)第三者保証人の原則非徴求
①政府系金融機関では、例外的な対応※を除いて第三者からの保証人徴求は行っていない。
※中小企業庁通達「信用保証協会における第三者保証人徴求の原則禁止について」(2006年3月31日)
・実質的な経営権を有している者、営業許可名義人又は経営者本人の配偶者(当該経営者本人と共に当該事業に従事する配偶者に限る。)が連帯保証人となる場合
・経営者本人の健康上の理由のため、事業継承予定者が連帯保証人となる場合
・財務内容その他の経営の状況を総合的に判断して、通常考えられる保証のリスク許容額を超える保証依頼がある場合であって、当該事業の協力者や支援者から積極的に連帯保証の申し出があった場合(ただし、協力者等が自発的に連帯保証の申し出を行ったことが客観的に認められる場合に限る。)
②2011年7月14日、金融庁は、金融機関が企業へ融資する際に、経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする旨の監督指針を改正
(3)「経営者保証に関するガイドライン」の策定
中小企業の経営者による個人保証(以下「経営者保証」という。)は、経営への規律付けや信用補完として資金調達の円滑化に寄与する面がある一方、経営者による思い切った事業展開や、経営不振に陥った場合における早期の事業再生を難しくするなど、企業の活力を阻害している面も見受けられる。
このため、2013年1月「中小企業における個人保証等の在り方研究会」が設けられたのに続き、2013年8月には金融庁と中小企業庁の関与の下、日本商工会議所と一般社団法人全国銀行協会が共同で、有識者を交えた意見交換の場として「経営者保証に関するガイドライン研究会」が設置され、同研究会における中小企業団体及び金融機関団体の関係者、学識経験者、専門家等の議論を経て、同年12月「経営者保証に関するガイドライン」が中小企業団体及び金融機関団体共通の自主的自律的な準則として、策定・公表され、2014年2月より適用が開始されました。
①ガイドラインの目的
このガイドラインは、経営者保証の諸課題を解消し、中小企業や経営者と金融機関等が継続的かつ良好な信頼関係を築きながら、中小企業の各ライフステージにおける取組意欲の増進を図り、中小企業金融の実務の円滑化を通じて中小企業の活力を一層引き出し、日本経済の活性化に資することを目的とする。
②ガイドラインの適用対象となり得る保証契約
このガイドラインは、以下の全ての要件を満たす保証契約に関して適用される。
・保証契約の主たる債務者が中小企業であること
・保証人が個人であり、主たる債務者である中小企業の経営者であること
・主たる債務者及び保証人の双方が弁済について誠実であり、対象債権者の求めに応じて、それぞれの財産状況等(負債の状況を含む)について適時適切に開示していること
・主たる債務者及び保証人が反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと
※主たる債務者:金融機関等から融資を受ける借主(中小企業・小規模事業者等)
中小企業基本法2条に定められた要件(資本金・従業員)・他
経営者:中小企業・小規模事業者の代表者「実質的な経営権を有している者」等
対象債権者:中小企業に対する金融債権を有する金融機関等
4.経営者保証に依存しない融資を促進するには
経営者保証に依存しない融資の一層の推進のために、それぞれどのような対応に努めるべきか。
(1)主たる債務者及び保証人における対応
経営者保証を提供することなしに融資を希望する場合には、まずは、以下のような経営状況にあることが求められる。
①法人と経営者との関係の明確な区分・分離(資産、経営・家計)
主たる債務者は、法人の業務、経理、資産所有等に関し、法人と経営者の関係を明確に区分・分離し、法人と経営者の間の資金のやりとり(役員報酬・賞与、配当、オーナーへの貸付等をいう。以下同じ。)を、社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制を整備するなど、適切な運用を図ることを通じて、法人個人の一体性の解消に努める。
②財務基盤の強化
主たる債務者は、財務状況及び経営成績の改善を通じた返済能力の向上等により信用力を強化する。
〈具体例〉・業績が堅調で十分な利益(キャッシュフロー)を確保しており、内部留保も十分である。
・業績はやや不安定だが、業況の下振れリスクを勘案しても、内部留保が潤沢で借入金全額の返済が可能である。
・内部留保は潤沢とは言えないが、好業績が続いていて、今後も借入を順調に返済できるだけの利益(キャッシュフロー)を確保する可能性が高い。
【ご参考】金融機関が企業の財務状況を評価する場合に主に用いる指標の例
①自己資本比率:純資産の額÷(純資産の額+負債の額)×100
②使用総資本事業利益率:(営業利益+受取利息・配当金)÷資産の額×
100
③インタレスト・カバレッジ・レシオ:(営業利益+受取利息・配当金)÷(支払利息+割引料)
これらの指標を高めていく経営努力が、財務基盤の強化につながる。
③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
主たる債務者は、資産負債の状況(経営者のものを含む。)、事業計画や業績見通し及びその進捗状況等に関する対象債権者からの情報開示の要請に対して、正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明することにより、経営の透明性を確保する。
〈具体例〉・貸借対照表、損益計算書の提出のみではなく、これら決算書上の各勘定科目明細(資産・負債明細、売上原価・販売費明細等)の提出
・期中の財務状況を確認するため、年に1回の本決算の報告のみでなく、試算表・資金繰り表等を定期的に報告する
なお、開示情報の信頼性向上の観点から、外部専門家による情報の検証を行い、その検証結果と合わせた開示が望ましい。
(2)対象債権者における対応
対象債権者は、下記のような経営者保証の機能を代替する融資手法のメニューの充実を図ることとする。
〈経営者保証の機能を代替する融資手法の具体例〉
①条件付き保証契約
・停止条件付保証契約
主たる債務者が借入時に対象債権者と結んだ特約条項(例:自己資本比率が○○%を下回った場合・○年連続して経常損失を計上した場合など)に抵触しない限り保証債務の効力が発生しない保証契約
・解除条件付保証契約
主たる債務者が借入時に対象債権者と結んだ特約条項を充足する場合は、保証契約が効力を失う保証契約
②ABL(Asse t Based Lending)
企業の持つ土地・工場建屋などの不動産ではなく、流動資産(在庫や売掛金など)を担保とする融資手法。
③金利の一定の上乗せ
また法人個人の一体性の解消等が図られている、あるいは、解消等を図ろうとしている主たる債務者が資金調達を要請した場合において、主たる債務者において以下のような要件が将来に亘って充足すると見込まれるときは、主たる債務者の経営状況、資金使途、回収可能性等を総合的に判断する中で、経営者保証を求めない可能性、上記のような代替的な融資手法を活用する可能性について、主たる債務者の意向を踏まえた上で、検討する。
・法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されている
・法人と経営者の間の資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を越えない
・法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断し得る
・法人から適時適切に財務情報等が提供されている
・経営者等から十分な物的担保の提供がある
5.経営者保証の契約時の対象債権者の対応
対象債権者は、主たる債務者ないし保証人の求めに即して検討を行った結果、経営者保証を求めることが止むを得ないと判断された場合等で、経営者と保証契約を締結する場合、以下の対応に努めるものとする。
(1)保証契約の必要性等に関する丁寧かつ具体的な説明
対象債権者は、保証契約を締結する際に、以下の事項について、主たる債務者と保証人に対して、丁重かつ具体的に説明する。
・保証契約の必要性
・原則として、保証履行時の履行請求は、一律に保証金額全額に対して行うものではなく、保証履行時の保証人の資産状況等を勘案した上で、履行の範囲が定められること
・経営者保証の必要性が解消した場合には、保証契約の変更・解除等の見直しの可能性があること
(2)適切な保証金額の設定
対象債権者は、経営者保証に関する負担が中小企業の各ライフステージにおける取組意欲を阻害しないよう、形式的に保証金額を融資額と同額とはせず、保証人の資産及び収入の状況、融資額、主たる債務者の信用状況、物的担保等の設定状況、主たる債務者及び保証人の適時適切な情報開示姿勢等を総合的に勘案して設定する。
このような観点から、主たる債務者の意向を踏まえた上で、保証債務の整理に当たっては、このガイドラインの趣旨を尊重し、以下のような対応を含む適切な対応を誠実に実施する旨を保証契約に規定する。
・保証債務の履行請求額は、期限の利益を喪失した日等の一定の基準日における
保証人の資産の範囲内とし、基準日以降に発生する保証人の収入を含めない。
・保証人が保証履行時の資産の状況を表明保証し、その適正性について、対象債権者からの求めに応じ、保証人の債務整理を支援する専門家(弁護士、公認会計士、税理士等の専門家であって、全ての対象債権者がその適正を認めるものをいう。以下「支援専門家」という。)の確認を受けた場合において、その状況に相違があったときには、融資慣行等に基づく保証債務の額が復活することを条件として、主たる債務者と対象債権者の双方の合意に基づき、保証の履行請求額を履行請求時の保証人の資産の範囲内とする。
※表明保証:契約の一方当事者が他方当事者に対して、ある特定時点における事実関係が真実であることを宣言すること
6.既存の保証契約の適切な見直し
(1)保証契約の見直し申入れ時の対応
①主たる債務者及び保証人における対応
主たる債務者及び保証人は、既存の保証契約の解除等の申し入れを対象債権者に行うに先立ち、第4項(1)「主たる債務者及び保証人における対応」に掲げる経営状況を将来に亘って維持するよう努めることが求められる。
②対象債権者における対応
対象債権者は、主たる債務者において経営の改善が図られたこと等により、主たる債務者及び保証人から既存の保証契約の解除等の申し入れがあつた場合は、第4項(2)に即して、また、保証契約の変更等の申し入れがあった場合は、第4項(2)又は第5項に即して、改めて、経営者保証の必要性や適切な保証金額等について、真摯かつ柔軟に検討を行うとともに、その検討結果について主たる債務者及び保証人に対して丁寧かつ具体的に説明する。
(2)事業継承時の対応
①主たる債務者及び後継者における対応
・対象債権者への情報開示
主たる債務者及び後継者は、対象債権者からの情報開示の要請に対し適時適切に対応することが求められる。特に、経営者の交代により経営方針や事業計画等に変更が生じる場合には、その点についてより誠実かつ丁寧に、対象債権者に対して説明することが必要。
・個人保証を提供することなしに新規融資を希望する場合
主たる債務者が、後継者による個人保証を提供することなしに、対象債権者から新たに資金調達を希望する場合には、主たる債務者及び後継者は第4項(1)に掲げる経営状況にあることが求められる。
②対象債権者における対応
・後継者との保証契約の締結について
対象債権者は、前経営者が負担する保証債務について、後継者に当然に引き継がせるのではなく、主たる債務者から必要な情報開示を得た上で、第4項(2)に即して、保証契約の必要性等について改めて検討する。その結果、保証契約を締結する場合には第5項に即して、適切な保証金額の設定に努めるとともに、保証契約の必要性等について主たる債務者及び後継者に対して丁寧にかつ具体的に説明する。
・前経営者との保証契約の解除について
対象債権者は、前経営者から保証契約の解除を求められた場合には、前経営者が引き続き実質的な経営権・支配権を有しているか否か、当該保証契約以外の手段による既存債権の保全の状況、法人の資産・収益力による借入返済能力等を勘案しつつ、保証契約の解除について適切に判断する。
7.ガイドラインを活用したいときは?
(1)相談窓口
・中小企業基盤整備機構地域本部等(関東:TEL03-5470-1620)
・各地商工会議所・商工会
・中小企業団体中央会
(2)相談の概要
・相談内容について、支援専門家を紹介して、経営改善のアドバイス・支援を行う。
・派遣に係わる費用は無料。必要に応じ、最大3回利用可能です。
以上が、「経営者保証に関するガイドライン」の保証契約を締結する際のポイントです。まず自社の現状をご確認いただき、一定の要件を満たすよう経営改善に努め、経営者が個人保証を提供しなくても資金調達ができる企業へ成長されることを期待します。
参考文献およびホームページ
・「経営者保証に関するガイドライン」セミナーテキスト
平成27年9月25日 独立行政法人中小企業基盤整備機構
・「個人保証制度見直しの背景」
平成26年 2月 中小企業庁 金融課
・「経営者保証に関するガイドライン」
平成25年12月 経営者保証に関するガイドライン研究会
社会保険労務士・AFP 若林富雄