◆企業型DC導入企業数・DC加入者数が増加している
『企業型DC(企業型確定拠出年金)』とは、企業が従業員の退職金や年金を支援するために導入する福利厚生制度です。企業が掛金を毎月拠出し、その運用は、従業員自身が行います。拠出金は確定していますが、将来受け取る退職金や年金は運用成績次第で増やせる可能性があるため、「確定拠出年金Defined Contribution」と呼ばれています。
企業型DCは、会社が規約を定めれば従業員が一定の範囲で上乗せして拠出することも可能で、年々導入企業が増え、加入者数も増加しています。厚生労働省の確定拠出年金統計資料によれば令和5年3月現在、企業型の規約数は、7,049件。企業型DC加入者数は、805万人。正規従業員(3,615万人)の4.5人に1人が加入していることになります。
◆自動移換者数が増加
企業型DCに加入されていた方が、転職などで会社を退職すると加入資格を失います。資格喪失してから6ヶ月以内に手続きを行わないと、積み立てられた年金資産は、国民年金基金連合会に自動的に移換され(『自動移換』)その後は運用されない等デメリットがあります。
国民年金基金連合会の資料(右表)によると令和3年3末までは、自動移換者数が正規移換者数を上回っていました。令和5年3月末時点の自動移換者数は、118万人、その内66万人の口座には資産があるまま放置されている状況です。
◆自動移換されるとデメリットしかありません
①運用されない。(➢運用機会を逸する・運用益非課税メリットが享受できない)
運用していた年金資産は、いったん全て売却され現金化されます。その後に国民年金基金連合会に移換されるので
投資信託などの運用ができません。DCは、運用益が非課税になるメリットがあるのに享受できないだけでなくインフ
レが進むと資産価値が目減りしてしまいます。
②手数料が差し引かれる。
自動移換される際には国民年金基金連合会に事務手数料として1,048円、特定運営管理機関に対して3,300円の手数料が徴収されます。自動移換されてから4ヶ月後の月末までに移換などの手続きをしなければ、その後は月額52円の管理手数料が年金資産から徴収され続けます。(例:11月に自動移換→翌年3月分から徴収される)
自動移換された場合でもその資産を企業型や個人型(イデコ)へ移換することは可能ですが、手数料が発生します。
③受給開始の時期が遅くなる可能性ある。
確定拠出年金の老齢給付金を受け取るには、10年以上の通算加入者等期間が必要です。自動移換中は老齢給付金を受け取るための加入者期間に算入されません。そのため、通算加入者等期間が10年未満であれば、最大65歳まで受給できない可能性があります。
④「退職所得控除」の金額が減る可能性がある。
自動移換中は「退職所得控除」の計算に必要な勤続年数に算入されないため、一時金受取時の税制優遇効果が低下する可能性があります。
◆自動移換を回避する手続き期限の6ケ月以内とは?
自動移換手続きの期限は、前職の加入者資格を喪失した月の翌月から起算して6ヶ月以内(下表参照)です。
『自動移換』されると国民年金基金連合会から「自動移換通知」が送付され、その後年1回「定期通知」が送られてきます。通知には、資産の状況や手数料などが記載されています。
◆企業型DC加入者が退職した場合の移換先
・選択肢としては、下記の図のようになります。退職後の転職先や職種によって移換先や掛金上限額も異なります。
・積み立てた年金資産は、原則60歳まで引き出すことはできません。【E】の脱退一時金を受け取るという選択肢もありますが、法律に定める要件をすべて満たす必要があり、通常では、選択肢として考え難いです。
◆『自動移換』による年金資産の放置回避への取組・救済措置
・『自動移換』が増加している背景には、退職時の忙しさや手続きの煩雑さ以外で、制度の理解不足があると考えられます。厚生労働省では、「企業が掛け金を負担するため、自分の資産という認識に乏しく、自覚なく放置する人が多い。」として、事業主および運営管理機関に対し、退職者に対する移換手続きの説明・勧奨を行うよう指導しています。
国民年金基金連合会でも、自動移換者に対して、年1回送付する通知の中で、2017年1月から個人確定拠出年金(iDeCo)の加入範囲が拡大され、より多くの退職者が加入可能になっている旨等を周知しています。
・自動移換を減少させる取り組みとして、自動移換する前に別の確定拠出年金の口座が開設されていることが判明した場合、 もしくは既に自動移換された方が新たに確定拠出年金口座を開設した場合、自動的にその確定拠出年金口座へ移換されるようになりました。
◆アクションを起こすのは、ご自身です。
・退職後、その資産を期限内に移換する必要があることをお話してきました。企業型DCは、持ち運ぶこと(ポータビリティ)が出来るので、きちんと手続きをすることで、年金資産を継続して積立運用し資産形成をすることができます。
・移換手続きでは、運用している資産をいったん解約して預け替えることになります。それまで運用していた商品を売却して現金化し、移管先の制度の商品ラインアップの中から選択した商品を購入することになります。残念なことに売却のタイミングを指定することができないので、例えば投資信託を選んで運用をしている場合は、市場の状況によっては含み損の商品を売却してキャッシュにするため、損失を確定してしまうことになります。転職を予定している場合は、運用状況の良い状態の時にスイッチングして定期預金などの元本確保型の商品に資産を置いておくようすることで、残高が急激に減ることを防ぐことが出来ます。
・転職先に企業型DCがあれば、移管する箱はありますが、移管先としてiDeCo口座開設される方は、早速、行動開始です。iDeCo口座開設には、1~2ヶ月位かかります。iDeCo口座は1人一つの口座しか開設できません。年金資産運用口座として長いお付き合いになるので、商品のラインナップ・口座管理手数料・サポートサービス・その他の付加価値を比較して自分に合った金融機関を選ぶことが大切です。
・企業型DCに加入していた人は、退職した企業からの郵便物やメールなどは必ず確認してください。
退職した企業が積立ててくれた「大切な自分のお金」です。『自動移換』されて、残念なことにならないように、行動しましょう。
・ご自分が「自動移換」されているかもと思われた方は、下記サイトをご参照いただきくか、自動移換者専用コールセンター 03-5958-3736へ問い合わせしてみてください。
『自動移換』されてからでも移換して資産形成を継続することができます。