=介護保険制度の現状と最近の改正について=

40歳以上のすべての方が被保険者となる介護保険、制度ができて20年余が経過しました。その間3年ごとに改正されています。気になる現状と今後の見通し、最近の改正について確認してみましょう。

◆介護保険のしくみ

介護保険は、保険料を支払い介護保険に加入している「被保険者」と保険料を集めて運営を行なう「保険者」(市区町村)、そして、都道府県・市区町村の指定を受け、各種介護サービスを提供する「サービス事業者」の三者が担うことで成り立っています。

http://www.mhlw.go.jp/content/000801559.pdf

介護保険の運営にかかる費用は、公費(国庫負担金、都道府県負担金、市町村負担金)と、40歳以上の方々が納める介護保険料で支えられています。40歳以上64歳までの方を第2号被保険者、65歳以上の方を第1号被保険者と呼んでいます。第1号被保険者の保険料は、本人または世帯の所得と年金額によって変わり、市区町村の定める基準額に保険料率を乗じて算出され、生涯払い続けます。第2号被保険者の保険料は国民健康保険と協会けんぽ等の健康保険のどちらに加入しているかで異なります。お勤めの方は、半分を事業主が負担し、残り半分を本人が支払います。

https://www.mhlw.go.jp/content/000801559.pdf

この20年間で、介護サービスは高齢者の生活の中に定着し、発展してきました。厚生労働省老健局集計によると、第一号被保険者数が2,165万人⇒3,558万人と1.6倍の増加に対して、介護保険サービス利用者数は149万人⇒494万人と、3.3倍に増加しています。

サービス利用者の増加等により、上の棒グラフのとおり、介護保険費用も年々増加しています。また、65歳以上が支払う全国平均の保険料(第1号保険料)の増加の様子が上の四角い図で示されていますが、平成12年度の2,911円⇒令和2年度には6,014円に増加しています。(この図にはありませんが第2号被保険者が支払う保険料の平均額も、平成12年度の2,075円⇒令和2年度には5,669円になり同様に増加が続いています。)

今後の見通し

今後、65歳以上の高齢者は、2042年頃には3,878万人でピークを迎えると予測されています。一方、介護保険料を負担する40歳以上の人口は、2000年に6,575万人⇒2020年に7,587万人と増加してきましたが、人口構造の推移に伴い、2021年をピークに減少する見込みです。高齢者の増加と現役世代の減少というダブルパンチで先行きは厳しい状況です。介護サービス利用料設定の基になっている介護報酬についても、介護職員の処遇やサービス事業者の経営状況等をふまえ、今後も3年に1度のペースで見直しが予定されています。一方、介護職員の負担軽減の為、ICTを活用したデータ管理や情報共有も認められました。介護ケアの質の向上や、利用者の満足に結びつく事が狙いです。更に介護ロボットの開発も進められています。

2021年の改正の1つ「高額介護サービス費の上限引き上げ」について

介護保険は一定の年齢になれば申請書類が届くといったものではなく、介護が必要となった時に、市町村窓口に申請し、要介護度の「認定」を受けてはじめて、利用できるサービスが決定します。サービス利用時には、利用料の1~3割を自己負担します(自己負担割合は、年金などを合わせた単身または夫婦世帯の所得に応じて決まります)。また、要介護度に応じて、1カ月の利用限度額が設定されており、上限を超えた部分は全額自己負担となります。

但し、この自己負担額(月額)にも上限が設定されており、上限を超えた場合に払い戻しをしてくれます。この仕組みが「高額介護サービス費」です。2021年8月、下の図のように、高所得者の区分を新設し、改正前に44,400円だった世帯の負担上限月額が、最大140,100円に改正されました。これは、健康保険の「高額療養費制度」をふまえて設定されており、その上限額と同額になっています。

https://www.mhlw.go.jp/content/000334526.pdf

◆自己負担上限額について気になるポイント

介護が必要な高齢者は、年金だけが収入源という方がほとんどですが、自己負担額は世帯の所得により区分されます。たとえば現役で働いている子ども世帯と同居している場合などは、世帯所得が高いため、自己負担額が多い区分に入る事になります。この自己負担を(条件により自己負担割合も)抑えるため、世帯分離をする方法がありますが、高額の介護施設に入所する場合などは、親世帯の介護費用が大きく軽減できる反面、国民健康保険加入の世帯の場合などは、各世帯主がそれぞれ保険料を支払う事になり、かえって負担増となるケースもあります。個々の状況により異なります。また、条件により世帯分離が認められていない自治体もありますので、ご検討される際は十分な確認が必要です。(世帯分離とは:同居のまま、住民票の世帯を分ける事)

◆おわりに

介護にかかる費用は、個々により様々で一概に言えませんが、生命保険文化センターの2021年度調査によると、平均月額8.3万円(自己負担費用を含む)、介護期間は平均5年1ヶ月とあります。その他に一時的な費用(住宅改造や介護ベッドの購入費等)が平均74万円です。合計でおよそ580万円余り…貯蓄・保険・資産運用等、自分に合った方法で準備したいですね。

また、高齢者の方の生活上、気になる様子がある時には、早い段階でお住まいの地域の「地域包括支援センター」に相談してみましょう。相談は介護以外にも幅広く対応してくれます。医療・福祉機関やボランティア等と連携を図った支援や、通いの場(体操・茶話会・趣味活動)等に参加する事で介護予防に繋がります。

2022年6月
CFP 依田いずみ