共働き・共育てを推進、支援する 『出生時育児休業(産後パパ育休)』と『出生後休業支援給付金』

約5年前、2020年4月に「『パパ休暇』と『育児休業社会保険料免除制度』を利用しよう!」というテーマでブログを書きました。厚生労働省が、毎年実施している「雇用均等基本調査」によると、当時、2018年の男性の育児休業取得率は、6.16%で2020年に13%にするという政府目標を掲げていました。結果的に初めて10%を超えたものの12.7%と目標未達でした。3年後の2023年には、女性の取得率84.1%にはまだまだ及びませんが、30.1%と急増で、前年対比13%上昇しました。取得期間を見ると、最多が、1ヶ月~3ヶ月未満で28%、2週間~1ヶ月未満と合わせると約半分が、2週間以上取得していることになります。5年前の取得期間は、2週間未満が71.4%を占めていたのですが、数日や2週間未満が半数以下に減少し、2週間以上の育児休業を取得する人が増えていることがわかります。状況は改善されていますが、世界各国と比較しても、まだ日本の男性の家事・育児参加率は低いのが実態です。少子高齢化が進む中、働く世代が育児や介護と両立してキャリアアップ出来るような環境の整備が急務であり、こうした社会的な背景を踏まえ、『育児・介護休業法』が継続的に改正されています。加えて、2025年4月から『雇用保険法』改正により2つの新たな育児休業給付金が創設されました。
■育児休業法関連の主な法改正
・『育児休業法』は、1991年に制定、1992年4月1日に施行されました。施行当時、法律の適用対象は常時雇用する従業員数が常時30人以上の事業所でしたが、1995年4月1日に改正され、新たに介護休業制度が創設され法律の名称が、『育児・介護休業法』に変更され、従業員数に関わらずすべての事業所が法律の適用対象となりました。
・『育児・介護休業法』には、出産や育児、介護などの理由による労働者の離職を防ぎ、男女ともに家庭と仕事を両立できる雇用環境を整備する規定が定められており、より柔軟で現代のニーズに応じた様々な制度が創設されるなどの改正が継続的に行われています。
・2023年、夫婦共同での子育て支援を推進し男性の育児休業取得率を大幅に上昇させた改正内容に、「出生時育児休業(通称「産後パパ育休」)の創設、(2022年10月1日施行)、「育児休業の分割取得」、が挙げられます。2023年4月1日には、常時雇用する労働者が1,000人を超える事業主は、男性労働者の育児休業等の取得の状況を年1回公表することが義務付けられています。
■出生時育児休業(産後パパ育休)
・出生時育児休業は、原則、男性労働者(特別養子縁組里親の場合は女性も可)が、子の出生後8週間以内(配偶者等の産後休業期間に相当)に最大4週間まで休業することができる制度で『男性版の産休』とも呼ばれています。
男性の育児休業取得促進のため、男性の取得ニーズの高い子の出生直後の時期について、従来の育児休業よりも柔軟で取得しやすい枠組みの休業として追加して制定された別の制度です。
・出生時育児休業は、原則、休業の2週間前までに申し出ることで休暇を取得できます。初めにまとめて申し出れば、分割して2回取得することも可能です。通常の「育児休業」も2回に分割して取得することができます。このため子の出生後8週間以内に「出生時育児休業」を2回に分割して取得、その後、子が1歳となるまでに「育児休業」を2回に分割して取得すれば、合計4回に分割して休業することが可能(下記例2)になります。長期の育児休業取得の不安がある場合は、まず出生時育児休業で短期間の育児休業を試すという活用もできます。

*出生時育児休業と従来の育児休業の違いについては下記表ご参照ください。

・出生時育児休業期間中の就業は、認められていますが、労使協定を締結している場合に限り、労働者と事業主の合意した範囲内で、事前に調整した上で休業中に就業することを可能とするものです。この就業に関しては、労働者又は使用者の都合で自由に行えるものではなく、事前の手続きを経る必要があるなどかなり細かいルールがあります。
【出生時育児休業期間中に就業するための手順】
①労働者が就業してもよい場合は、事業主にその条件を申出
②事業主は、労働者が申し出た条件の範囲内で候補日・時間を提示
(候補日等がない(就業させることを希望しない)場合はその旨)
③労働者が同意
④事業主が通知
【出生時育児休業期間中に就業するための要件】
・就業日数(時間数)の合計は、休業期間中の総所定労働日数(時間数)の半分以下とすること
・休業開始日と終了日については、所定労働時間に対しフルタイム就業不可(一部就業は可)
・所定労働時間を超えて労働しないこと(所定外残業は一切禁止)

■育児休業等給付
・『育児・介護休業法』により労働者(日々雇用される人期間を定めて雇用される人(有期契約労働者)で、一定の条件を満たせない人・労使協定により、育児休業の対象から外された人を除く)は、その養育する1歳に満たない子について、事業主に申し出ることにより、育児休業をすることができますが、その期間中は、「ノーワーク・ノーペイの原則」によって無給であることが一般的なので経済的不安があります。育児期間中の収入減を補う目的で支給されるのが育児休業等給付です。
・育児休業等給付は、『雇用保険法』に基づき支給されるもので、雇用保険に一定期間加入している加入者が受給対象者です。育児休業期間に、子の年齢や養育の状況に応じて、要件を満たす場合に「育児休業給付金」「出生時育児休業金」が支給されます。支給額は、休業開始から通算180日までは休業開始時賃金日額の67%、180日経過後は50%です。[※休業開始時賃金日額は、原則として、育児休業開始前6か月間の総支給額(賞与は除く)を180で除した額]
さらに『雇用保険法』の改正により、2025年4月1日から「出生後休業支援給付金」、「育児時短就業給付金」が創設されました。育児休業中の給付金が充実することで、特に男性の育児休業取得の促進が期待されています。
■出生後休業支援給付金
・同一の子の出生直後の対象期間(※1)に、両親とも出生時育児休業および育児休業を通算して14日以上取得した場合、28日間を上限に出生後休業支援給付金として(出生時)育児休業給付金にプラスして13%の上乗せ支給を申請できます。なお、子の出生日の翌日時点で、「配偶者(妻)が産後休業期間中」である場合や「配偶者が就業していない(妻が専業主婦である場合など)」「配偶者が自営業やフリーランスで働いて雇用される労働者でない」もしくは「ひとり親の場合」などの事由に該当している場合は、両親ともに(出生時)育児休業を取得していなくても、申請することができます。
・支給額は、休業開始時賃金日額(※2)×14日以上休業した期間の日数(上限28日)×13%
・一般的に、給与の総支給額から社会保険料(健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険料)と所得税を控除した後の手取り額は支給総額の約80%と言われているので、支給される給付金は非課税であり、育児休業中は一定の要件の下に申請により社会保険料が免除されるため、「出生後休業支援給付金」(給付率13%)と(出生時)育児休業給付金(給付率67%)を活用して給付率80%となれば、実質的な手取り額は、変わらないということになります。

※1「対象期間」
・被保険者が産後休業をしていない場合(被保険者が父親または子が養子の場合)は、「子の出生日または出産予定日のうち早い日」から「子の出生日または出産予定日のうち遅い日から起算して8週間を経過する日の翌日」までの期間。                     (下記表の例1、例2参照)
・ 被保険者が産後休業をした場合(被保険者が母親、かつ、子が養子でない場合)は、「子の出生日または出産予定日のうち早い日」から「子の出生日または出産予定日のうち遅い日から起算して16週間を経過する日の翌日」までの期間。(下記表の例3、例4参照)
・施行日の2025年4月1日より前から引き続いて育児休業をしている場合は、下線部分を「2025年4月1日」として要件を確認します。対象期間が施行日をまたぐかどうかが重要なポイントになります。具体的には、産後休業をしていない場合(主に男性の場合)は、2025年2月17日以降、産後休業している女性の場合は、2024年12月23日以降に出生日または出産予定日の遅い日がある場合に支給対象になる可能性があります。(ハローワークでご確認ください。)


※2「休業開始時賃金日額」には上限額が設定されているので、必ずしも実際の休業前賃金額に対して手取り額が変わらないとは限りません。(2024年4月1日時点:15,690円(毎年8月1日に改定))目安として月収47万円以上の方ですと、実質的な手取り額は、減少します。

◆2022年10月施行された育児休業「出生時育児休業」と2025年4月1日に施行された「出生後休業支援給付金」をご紹介しました。2024年の『育児・介護休業法』改正には、男女とも仕事と育児・介護を両立できるように、育児期の柔軟な働き方を実現するための措置の拡充や介護離職防止のための雇用環境整備、個別周知・意向確認の義務化などの内容が多く盛り込まれ、段階的に2025年4月1日から施行されています。
また、同時に『雇用保険法』も改正され育児休業取得や短時間労働の取得時の収入減の補填として「出生後休業支援給付金」・「育児時短就業給付金」の2つの給付金が創設されました。
男性の育児参加を促し、女性に偏りがちな家事・育児を見直し、女性の就業機会の拡大、出産意欲向上、男女の雇用格差の改善につながることが期待されます。男性労働者の育児休業取得率等の取得状況を年1回公表することが、常時雇用する労働者が300人超1,000人以下の企業に義務付けられたことも男性育休取得率上昇の支援となりそうです。
仕事をしながら「育児・介護」に関わっている方、今後関わられる方、利用できる制度があるかもしれません。
是非、下記の資料をご参照ください。育児休業等給付についても細かいルールがあるので、わからないことは、ハローワークでご確認ください。

2025年4月 CFP 石黒貴子

厚労省『育児・介護休業法 改正ポイントのご案内 令和7年4月1日から段階的に施行』
001259367.pdf

厚生労働省「育児休業等給付の内容と支給申請手続 令和7年1月1日改訂版」
001461102.pdf