知識<行動

このブログはFPみらいメンバーが交代で執筆し毎月更新しているものです。前回の私の担当 は「Die with zero」(ゼロで死ぬ・ビル・ハーキンス著)の主張を基に、日頃あまり目にしない「お金の貯め方ではなく、使い切り方」を学び人生を豊かにする知恵を紹介しました。
 今回はお金についての普遍的な真実や知恵が分かりやすく説かれている本として2020年に発行され全世界で約1年に70万部のベストセラーとなった「The Psychology of Money:timeless lessons on wealth,greed,and happiness」(富、欲望、幸福についての普遍的な教訓・著者モーガン・ハウセル)を基に賢くお金と付き合う考え方を学んでみたいと思います。
 著者の根源的な主張は「お金とうまく付き合うには頭の良さより、行動が大切だ」というものですが、以下その主張を見てゆきたいと思います。
なぜ地味な男性清掃員が800万ドル(円貨、120円として960百万円)の資産を残せたか?
 本書の冒頭に紹介されているのがアメリカのバーモント州の田舎で生まれたロナルド・ジェームズ・リードという人物である。彼は高校を卒業後ガソリンスタンドで接客と自動車整備の仕事を25年勤め、その後は百貨店JCペニーの清掃員として17年間パートタイムで働いた。彼の友人たちは彼について「特筆すべきものはなにもない、彼の一番の趣味は薪割りだった。」と語った。
 しかし、彼が2014年92歳で亡くなった時、彼の死は国際的なニュースとなった。彼は遺書に「義理の子供たちに200万ドルを与え、地元の病院と図書館に600万ドル以上を寄付する」と書いていたのだ。彼は宝くじに当たったわけでもないし、親からの遺産をもらったわけでもなかった。彼は若いときから節約してお金を貯め、それを優良株に投資していただけだった。数十年が経過し、小さな投資額は複利効果で800万ドル以上に膨れ上がっていただけだった。そして、パートタイムの清掃員リードは莫大な遺産を寄付する慈善家となった。


再び 知識<行動
なぜファイナンス・投資の世界では清掃員のリードがトップエリートに負けない成果を出し得るのか?理由の1つは経済的な成果は知性や努力とは無関係の「運」に左右される部分が大きいからだ、と著者は言う。2つ目の理由は経済的な成功はハードサイエンス(物理・数学等)では得られないというもの。経済的な成功は「何を知っているかよりも。どう振舞うかが重要なソフトスキルの問題だ」という。そして彼はこのソフトスキルを「サイコロジー・オブ・マネー」(お金の心理学)と呼んで本のタイトルにしている。


複利の魔法
 「ウオーレン・バフェット氏の純資産の95%以上は彼が65歳以降に得られたもの」という驚き。彼のバークシャー・ハザウエイ社を率いる「投資の神様」と言われるウオーレン・バフェット氏の純資産は2021年時点で845億ドルと言われているが、その内842億ドルは彼が50歳の誕生日を迎えた以降に増えたもの、だという。類まれな投資家と言われる彼だが、彼の経済的な成功の秘密は若いころに経済的基盤を築き、長期間にわたって投資し続けたことにある。その成功の最大の要因は“時間”だったという。将に複利の力が彼を投資の神様に押し上げた。


自由
 “お金から得られる最高の配当とは、「時間」をコントロールできるようになること” 
確かに私も思う。「蓄えが増えるごとに、人は周りの都合に左右されることなく、自律的に生きられるようになってゆく。」そして、現代人は豊かさと引き換えに何かを失ってきた。それが時間だと思う。著書の中でハウセルは老年学者カール・ピレマーの著書「1,000人のお年寄りに聞いた30の知恵」を紹介している。その中で「長い人生経験から学んだ最も重要な教訓は何か」というアンケート結果を紹介している。その結果は、「1,000人の内誰1人としてもっとお金を稼げば良かったという人はいなかった。誰1人として周りの人と同じくらい裕福になりたいと言った人はいなかった。彼らが大切にしていたのは、温かな友情、高貴で大きな目的のための活動への参加、子供たちとゆったり過ごす充実した時間等だった。」と紹介している。
 モノではなく、時間こそが人生を幸せに導く!人生の先輩の言葉は重く響きました。


「目的のない貯蓄」が最大の価値を生む
 私たちは人生で必要な各イベントの為に目的をもって貯蓄に励んでいる。それは住宅や車そして老後等のためにである。しかし、著者は目的が無くても貯蓄すべきだという。それは予期せぬ出来事・リスクに対する備えになるからという。目的のない貯蓄がをすれば選択肢と柔軟性が手に入る。貯蓄があれば待つときはじっと待てる。考える時間も作れる。自分の意志で人生を軌道修正できるという。この辺になるとそうは言ってもそんな余裕はないよという反論も聞こえてきそうな気がする。しかし著者は 貯金=収入−エゴ(見栄) という考え方をしているようなので、
我々も再度生活を見直しして、見栄の為に車を変えたり、家具を揃えたりしていないか等見直しの必要はあると思います。
 以上、「お金の心理学」の1部を紹介しましたが、この他にも著者は面白い事を言っています。例えば、本当に富を蓄えている人の姿は見えにくく、リッチそうに振る舞う人の姿は目立つ。
そして、死後に莫大な資産を残したリードも生前は誰にも注目されることは無かった。このように富のように目にするのが難しいもののロールモデル(お手本となる人物)を見つけることは至難の業であるとも言えます。
 最後に本書の中でキーワードになっていたのが、投資における「複利効果」です。かのウオーレン・バフェット氏の莫大な資産のほとんどがこの効果のお陰であったという事実は衝撃的でありました。我々も投資の配当を生活やお小遣いに使ってしまわずに、再投資してこの効果の恩恵を受けられるように頑張りましょう!
                          CFP  重田 勉