120年ぶりの民法大改正

お盆休みの後半に世界遺産 熊野古道へ行ってきました。ふるさとを大切にそして、神々しい歴史を真摯に守る地元の人たちとのふれあいは大変貴重な思い出となりました。
長い歴史を大事にする思いは素晴らしく、尊いものと感じました。反対に、時代の流れに変わらねばならぬものもあります。法もそのひとつです。
「民法」が大改正されます。民法とは 日常生活に関する様々な場面の基本的なルールを定めたものです。

民法は、5つの部分からなっています。

総則 全般に共通する一般的なルール
物権 物に対する権利のルール
債権 人に対する権利のルール
親族 夫婦や子供関係などのルール
相続 相続のルール

 

1896年(明治29年)に制定されたときと比べて、皆様もご存じのように社会経済環境は大きく変化しました。ゆえに、今に沿うよう、「債権」が変わります。中には、もうすでに、ご承知の箇所もあるかと思いますが、判例(裁判所において具体的事件における裁判所が示した法律的な判断)で処理されてきた部分が明文化されます。債権とは人に対する権利のルールを定めたものです。改正の項目は、小さなものまで含めると合計200程もあります。ちょっと中の一部をみてみましょう。

A 社会・経済の変化への対応をはかるための項目
① 債権者が一定期間権利を行使しないときは債権が消滅するという「消滅時効」の制度により債権が消滅するまでの期間について、職業別の例外規定を廃止し、原則 知った時から5年に統一しています。
② 市中の金利が低い状態が続いている現状を踏まえて、契約の当事者間に利率や遅延損害金の合意がない場合等に適用される「法定利率」について、年5%から年3%に引き下げた上で、将来的にも市中の金利動向にあわせて変動する仕組みを導入しています。
③ 第三者が安易に保証人になってしまうという被害を防ぐため、個人が事業用融資の保証人になろうとする場合について、公証人による保証意思確認の手続きを新設し、一定の例外を除き、この手続きを経ないでした保証契約を無効としています。
④ 保険や預貯金に関する取引など、不特定多数を相手方とする内容が画一的な取引(定型取引)に用いられる「定型約款」に関する規定を新設し、定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していた時は、相手方がその内容を認識していなくても、個別の条項について合意をしたとみなすが、信義則(社会共同生活においてお互いに相手の信頼や期待を裏切らないように誠実に行動する)に反して相手方の利益を一方てきに害する条項は無効とするなどとしています。

B 私たち国民にわかりやすいものとするための項目
① 重度の認知症などにより意思能力(判断能力)を有しないでした法律行為は無効であることを明記しています。
② 債権の譲渡について、譲渡時に現に存在する債権だけでなく、譲渡時には発生していない債権(将来債権)についても、譲渡や担保設定ができることを明記しています。
③ 賃貸借に関する基本的なルールとして、敷金は賃貸借が終了して賃貸物の返還をうけたときに賃料等の未払債務を差し引いた残額を返還しなければならないこと、賃借人は通常損耗(賃借物の通常の使用収益によって生じた損耗)や経年変化についてまで原状回復の義務を負わないことなどを明記しています。

C いつ施行(現実に効力を発し、実施される状態になる)されるの?
この「民法の一部を改正する法律」は公布の日である2017年6月2日から3年以内に施行することとされています。法務省としては、2020年の施行を目指して準備を進めています。
2009年に審議が始まり、結果 施行まで、11年もの歳月がかかったのです。たいへんな作業で、関わった人も大勢いたことでしょう。慎重に、幾度となく審議もなされ改正にたどり着いた「法」です。
法律用語は難しく、なかなか馴染めません。けれど民法は私たちの日常生活に密接にかかわるものです。少し、興味を持って調べると何か、お役に立つことがあるかもしれません。

                            CFP 楠本智子

参考:法務省ホームページ