2018年7月6日に公布された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(働き方改革関連法)においては、8本の法律について主要な改正が行われ、その多くが本年4月1日から施行となり、「働き方」が大きく変わりました。私が担当したブログにおいてその一部を紹介してきましたが、今回改めてまとめました。
1.はじめに
「働き方改革」は、《一億総活躍社会の実現に向けて》働く方々が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにするための改革です。
2.「働き方改革関連法」の全体像
(1)時間外労働の上限規制が導入 【大 企 業 2019年4月1日施行】
【中小企業 2020年4月1日施行】
労働基準法における労働時間の定め〈労働時間・休日に関する原則〉
・労働時間の限度:1日8時間及び1週40時間・・法定労働時間
・休日:毎週少なくとも1回・・法定休日
時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間となり、臨時的に特別な事情がなければ、これを超えることはできない。
臨時的な特別な事情があって労使が合意する場合(特別条項)でも、以下を守る
・時間外労働が年720時間以内
・時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
・時間外労働と休日労働の合計について、「2か月平均」「3か月平均」「4か月平 均」「5か月平均」「6か月平均」が全て1月当たり80時間以内
・時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月が限度
法定労働時間を超えて労働者に時間外労働や法定休日に労働させる場合には、
・労働基準法第36条に基づく労使協定〈36(サブロク)協定・・新様式〉の締結
・所轄労働基準監督署長への提出 が必要です。
ただし、上限規制の適用が猶予・除外となる事業・業務があります。
(2)年次有給休暇の確実な取得【2019年4月1日施行】
使用者は10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、年5日について毎
年時季を指定して与えなければならない。
(3)中小企業の月60時間超の残業の割増賃金率引上げ【中小企業2023年4月1日施行】
月60時間を超える残業に対する割増賃金率を25%⇒50%に引き上げ
(4)「フレックスタイム制」の拡充【2019年4月1日施行】
より働きやすくするため、制度を拡充。労働時間の調整が可能な期間(清算期間)を3か月まで延長できる。
(5)「高度プロフェッショナル制度」を創設【2019年4月1日施行】
職務の範囲が明確で一定の年収を有する労働者が高度の専門的知識等を必要とする業務に従事する場合に健康確保措置や本人同意、労使委員会決議等を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規程を適用除外できる。
(6)産業医・産業保健機構の強化【2019年4月1日施行】
産業医の活動環境を整備し、労働者の健康管理等に必要な情報を産業医へ提供する。
(7)「勤務インターバル制度」の導入促進【2019年4月1日施行】
1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間の確保に努める。
(8)正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差が禁止
【大 企 業 2020年4月1日施行】
【中小企業 2021年4月1日施行】
同一企業内において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で基本給や賞与など
の個々の待遇ごとに不合理な待遇差を禁止される。
今回は上記(1)から(8)のうち、働く者にとって非常に関心のある《年次有給休暇の確実な取得》について、解説します。
3.「年5日の年次有給休暇の確実な取得」が義務化
(1)年次有給休暇の付与や取得に関する基本的なルール
〇 年次有給休暇の発生要件と付与日数
労働基準法において、労働者は ・雇入れの日から6か月継続して雇われている
・全労働日の8割以上を出勤している
この2点を満たしていれば年次有給休暇を取得できる
①原則となる付与日数
継務勤務年数 | 6か 月 | 1年 6か月 | 2年 6か月 | 3年 6か月 | 4年 6か月 | 5年 6か月 | 6年6か月以上 |
付 与 日 数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
②パートタイム労働者など、所定労働日数が少ない労働者に対する付与日数
比例付与の対象となるのは、所定労働時間が週30時間未満で、かつ、週所定労働日数が4日以下または年間の所定労働日数が216日以下の労働者。
【 継 続 勤 務 年 数】
週 所 定 労働日数 | 1年間所定 労働日数 | 6か月 | 1年 6か月 | 2年 6か月 | 3年 6か月 | 4年 6か月 | 5年 6か月 | 6年6か月以上 | |
4日 | 169~216日 | 付 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
3日 | 121~168日 | 与 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
2日 | 73~120日 | 日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
1日 | 48~72日 | 数 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
(※)表中太字で表示された部分に該当する労働者は、2019年4月から義務付けられた「年5日有給休暇の確実な取得」の対象となります。
(2)年次有給休暇の付与に関するルール
〇 遵守すべき事項
①年次有給休暇を与えるタイミング
年次有給休暇は、労働者が請求する時季に与えることとされていますので、労働者が具体的な月日を指定した場合には、「時季変更権」による場合を除き、その日に与える必要があります。
②年次有給休暇の繰越し
年次有給休暇の請求権の時効は2年であり、前年度の取得されなかった年次有給休暇は翌年度に与える必要がある。
③不利益取扱いの禁止
使用者は、年次有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取り扱いをしないようにしなければならない。
(3)年5日の年次有給休暇の確実な取得
〇 対象者
年次有給休暇が10日以上付与される労働者が対象
〇 年5日の時季指定義務
使用者は10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、年5日について毎
年時季を指定して与えなければならない。
〇 時期指定の方法
使用者は、時季指定に当たっては、労働者の意見を聴取しなければならない。また、できる限り労働者の希望に沿った時季取得になるよう、聴取した意見を尊重するよう努めなければならない。
〇 時季指定を要しない場合
既に5日以上の年次有給休暇を請求・取得している労働者に対しては、使用者による時季指定をする必要はなく、また、することもできない。
つまり、「使用者による時季指定」、「労働者自ら請求・取得」、「計画年休」のいずれかの方法で労働者に年5日以上の年次有給休暇を取得させれば足りるということです。
〇 年次有給休暇管理簿
使用者は、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければならない。年5日の確実な取得のための方法として、基準日にその年の年次有給休暇取得計画表を作成し、労働者ごとの休暇取得予定を明らかにすることにより、取得時季の調整がしやすくなる。
〇 就業規則への規定
休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項であり、使用者による年次有給休暇の時季指定を実施する場合は、時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について、就業規則に記載しなければならない。
〇 罰則
違反した場合には、罰則が科せられることがあります。
〇 その他留意すべき事項(Q&A)
①半日単位や時間単位の年次有給休暇は?
時季指定を半日単位で行うことはできますが(年次有給休暇の日数は0.5日)
時間単位の年次有給休暇は、使用者による時季指定の対象とはなりません。
②法定の年次有給休暇に加えて、会社独自に設ける法定外の有給の特別休暇は?
法定の年次有給休暇とは別に設けられた特別休暇を取得した日数分については、5日の年次有給休暇から控除することはできない。
③法定の年次有給休暇の付与日数が10日に満たないパートタイム労働者は?
法を上回る10日以上の年次有給休暇を付与する場合でも、法定の付与日数が10日に満たない場合は、時季指定をすることはできない。また、前年度から繰り越した年次有給休暇の日数は対象とはならない。
4.まとめ
年次有給休暇の取得は労働者の心身の疲労回復、生産性の向上など労働者・会社双方にとってメリットがあります。年5日の年次有給休暇の取得はあくまで最低の基準です。我が国における有給休暇取得率は51.1%(平成29年実績)と低く、労働者がより多くの年次有給休暇を取得できるよう、環境整備に努めましょう。
(厚生労働省 働き方改革関連法解説より)
今回の法改正に係わる解説は以上となりますが、働き方改革に関連する「健康経営」について触れさせてもらいます。
「健康経営」とは?
健康経営とは:従業員等の健康保持・増進の取り組みが、将来的に企業の収益性等を高める投資であるとの考えのもと、従業員等の健康管理を経営的な視点から考え、戦略的に取り組むことです。健康経営の推進は、従業員の活力や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績や企業価値の向上につながると期待されます。
健康経営の認定・登録・表彰制度とインセンティブ
・「健康経営銘柄」:2015年より経済産業省は、東京証券取引所と共同で、東京証券取引所に上場している企業の中から「健康経営」に優れた企業を選定。
2019年選定企業 28業種37社
5年連続選定企業:花王(株)、TOTO(株)、テルモ(株)、東京急行電鉄 (株)、SCSK(株)、(株)大和証券グループ本社
・「健康経営優良法人」:日本健康会議による認定。健康経営に取り組む優良な法人を「見える化」することで、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として社会的に評価を受けることができる環境を整備することを目標としている。本認定制度は、「中小規模法人部門」と「大規模法人部門」の2つの部門に分け、それぞれの部門で認定。
2019年認定企業:大規模法人部門820法人、中小規模法人部門2502法人
・地域への広がり:健康経営の関心は、国の動向を踏まえて、各地域でも高まっています。地方自治体や経済団体等において、健康経営の認定・登録・表彰制度などを実施するところが増えています。
《例》 神奈川県:CHO(健康管理最高責任者)構想推進事業所登録事業
横 浜 市:「横浜健康経営認証」制度
・健康経営インセンティブ:全国各地で金融機関等から融資の金利優遇等があります。
“人生100年時代”と言われていますが、いかに《健康寿命》を延ばすのかは我々一人一人が取り組む課題でありますが、一方“職場での健康づくり”は、企業経営の根幹です。その実現に向け共にチャレンジ!!しましょう。
FPみらい ブログ 2019年7月
社会保険労務士・健康経営アドバイザー・行政書士・AFP 若林富雄