「人生100年時代」と「資産0で死ぬ」という生き方

「人生100年時代」という言葉は既に広く社会に受け入れられ、TVや新聞の記事もそれを前提とした報道等が多くなってきている。その後、長生きリスクの中で話題となったのが“老後資金2,000万円問題”である。100歳まで生きることになると、それに備えた資金準備が必要であり年金等の収入やそれまでの金融資産等を含めても2,000万円が不足するため、それまでに老後資金2,000万円を貯めようと言う訳で、無理だ・貯められない等議論が騒がしい時期があった。しかし、この騒ぎのお陰?で老後資金準備の必要性が社会に認知されたことはある意味皮肉と言えるかもしれない。

 老後資金準備の為には、この超低金利時代にはただ貯蓄するだけでは間に合わず、どうしても投資・運用して資産寿命を永らえることが不可欠というある意味当然の結果となっていることは理解できるし、この数年は20~40歳代の比較的若い世代がNISA・つみたてNISAを利用して投資・運用に踏み出しているというニュースも好ましい傾向だといえる。

 このように我々一般社会人は常に、本来好ましいはずの長生きリスク・資金枯渇といった言葉で“不安”を煽られ、日々貯蓄・投資に励む結果となっている。

「Die with zero」の衝撃

 先日私は表記の本「Die with zero」(ビル・パーキンス著・ダイヤモンド社刊・2020年9月第1冊発行)を読んだ。この本は題名の通り“(資産0で死んでゆく”ことを提唱する本である。この本で著者は如何にして早くから子供や若い世代に資産を譲り始めてゆくか・各年代で積むべき経験に金を惜しむな・老後は皆が思っているほどお金を使わずそのまま死んでゆく等を自身の経験を踏まえて語ってゆく。

 この本の前書きに「アリとキリギリス」のたとえ話が載っている。勿論、気楽に遊んで寝ていたキリギリスは飢え死にした。しかし、短い人生を奴隷のように働いて過ごし、一見勝者として語られるアリは死ぬ時に一生を顧みて果たして幸せだったと感じるだろうか、と疑問を呈している。老後資金を貯めて長生きに備えようという時代にこの本に出合うのは何かの教唆ではないだろうか?

ライフプランとライフデザインの区別

 ここで上記のような混乱?を納める為に考え方を整理しておこう。今回の問題はそもそもライフプラン(生涯人生設計)の基にはライフデザイン(その人の価値観に基づく生き方)があるということを示している。そして、我々がライフプランニングを行う領域は①生きがい②健康③経済プランの3分野であり、ファイナンシャルプランナー(FP)に相談したりするのは主に③の経済プランであることが多いのも事実である。また、ライフプラン相談の折には常に相談者のライフデザインが何であるか、それを叶える為にはどうゆう方法があるのかということが前提であることを忘れてはいけない。

子供・若い世代への早期の資産承継の大切さ

 今回取り上げた本の中で私が特に共感しお勧めしたいのは「資金が必要な時に子供等に資金援助すること」である。逆に言えば、「相続で死んだときに資産を貰っても子供は(もう子供も50~60歳代になってからでは)お金の使い道が少ない」ということである。

 時々新聞の片隅に80歳代の女性が市役所に80百万円~1億円を寄付したとかの記事が載ることがある。人には様々な事情があろうがもう少し若いときにその折々に自分が援助したい事業等に資金を出していればこの女性はその事業の発展を見ることが出来ていたはずではなかろうか?

 また、私が常々思い起こすのはある相続セミナーで講師が言っていた言葉である。「人は死んでゆく時が資産最高額」。将に言い得て妙、日本人の人生の在り方を象徴する言葉ではないだろうか。

 今回私が推奨するのは「教育資金贈与」と「住宅資金贈与」の2つの制度である。超高齢化社会に於いて人は80~90歳までは生きる。そこで相続が発生すると子供は既に50~60歳代になっている。既に子供の子供(孫)は学校を卒業し社会人になっている。(教育資金はもう不要。)住宅も既にマイホームがあり、もう住宅資金も不要である。だから、多少苦しくても子供世代が資金を必要としている時期(教育期間・住宅建設購入期間)に贈与することが大切になってくる。自分の老後資金も不安であろうが、体の衰えと共に引退後の老後は意外にお金の使い道は少なくなってくる。(相続時ではなく)感謝される時期に援助したほうが喜ばれるのだ!

だが、意外かもしれないが私は制度の一部の金額しか贈与しなかった。例えば、孫が4人いたら公平に与える為には5百万円づつでも20百万円のお金が減る!時々しょんぼりしている老人を見かけるが彼らは“良い人”になり過ぎて、妻や子に与え過ぎたのではないか?はやり老人はお金を持っていてこそ頼られるのではないだろうか。

「思い出づくり」にお金を使うことが大切

 今回は何故か贈与することばかり書いてきたが、先の本で著者が一番強調していたのは自分の経験・思い出の為にお金を使い、そのために資産0円となって死んでいっても後悔しない生き方である。因みに著者は45歳の時にそれまでお世話になった方や友人を誕生日パーティーに招待して祝った。それもリゾートホテルを借り切って、泊りで祝った。その為その時は大変な散財となったが、後年になってもその時の思い出は消えることはなく後悔はしていないという。

                          CFP  重田 勉