相続対策の基本は、被相続人ご自身がお元気であることです。その大前提が崩れてしまうと十分な対策は取れません。財産名義がご本人である限り、勝手に名義を移転することはもとより、権利の設定も難しくなります。
今、ご相談頂いている相続案件も、ご本人が高齢で入院中です。コミュニケーションは殆ど取れません、字も書けません。半年前は、お元気で土地の売買契約にサインし、物件の引渡しも完了させた人です。しかし、昨年暮れに急に倒れました。そのまま入院生活で、家族はこの急変にどのように対処してよいか、あまりの変化に戸惑っています。
この状態では、相続対策の基本である財産の移転は難しくなります。ご本人の病状如何ですが、子供や孫に、早急にご本人の口座から多額の金銭を与えてしまうことは、もし相続発生が3年以内であれば贈与扱いされず、ご本人の財産とみなされ相続税が課されてしまいます。
また、その贈与の仕方で不公平があると、ご本人の意思確認なく贈与をしたとして他の相続人から文句が出るでしょう。
法定後見人を立てることもありますが、それこそ相続対策はそこからなかなか進みません。法定後見は、家庭裁判所が関与することになり、基本的にご本人の財産を減らすこと(土地の売却や贈与など)は、逐一裁判所の厳しい許可が必要になり、しかも許可を得るのに時間がかかります。時間との勝負にもなります。相続対策、特に相続税に関しては財産の評価額を減らすことが主眼ですから、法定後見人を立てるとなかなか自由に進められなくなります。
家族信託も考えましたが、内容が複雑で、 今の状態ではご本人が理解出来るかどうか問題です。信託契約すること自体に難しさがあります。
ご家族にとっては、まだまだお元気でおられるというお気持ちがあったでしょう。しかし、この様な状態が突然起きてしまったことで、すべてが後手後手になり、このままの状態で進行させるに任せるしかないというのが現状です。
ご家族内では、「相続のはなし」はどうしても後回しになりがちです。親子で話合うのはなかなか話にくいものです。
専門家に相談し仲立ちに入ってもらうのもよいかもしれません。タイミングを見て話し合い、方向を決めておかないと困るのはご遺族です。
ご本人のせいにしても遅いのです。
(萩原 和雄)