果たして新NISA非課税枠(360万円)を使いきれるのか?

注目すべき2つの改正点

 生活者にとって税制を知り、活用することは生活を守り、また運用・投資を考える上で 欠くべからざることである。この意味で令和5年度税制改正は注目するべき改正点が多かった。

 中でも岸田首相の唱える「資産所得倍増プラン」の目玉である少額投資非課税制度「NISA」の改正は将に“少額”であったがために運用・投資の中心ではなく1部の資金の運用という位置づけであった「NISA」が今後はその中核を担う規模になるという点で画期的改正ということが出来る。

だからこそその内容を確認し、今後の運用等を考えてみたい。

 また今回は相続・贈与税制面でも注目すべき改正が行われているので、この点も確認する。

 今回の改正は何が画期的といって、まず時限立法の制度が恒久化した点にある。これによって非課税期間(一般型23年、つみたて型42年)の制限がなくなり、いつ廃止になるか分からない点からも解放された。これからは安心して非課税枠を使って投資・運用が出来ることになる。

 もう1点画期的な点は制度の拡大である。非課税枠が年間360万円に拡大したことで多くの生活者・投資家にとって主要な投資手段になってゆくと思われる。更に便利になると思われるのは生涯投資枠(1,800万円)が売却分を再投資出来るようになった点である。これによって 人生のライフイベントに沿って資金を使っても再び非課税枠を使うことが出来るようになった。

 ここまでは良い点ばかり述べてきたが、ここで私は1つ疑問が芽生えてきた。果たして国民・生活者の何割が360万円の非課税枠を活用できるのだろうか、と。勿論非課税枠が360万円あるからといって全員が枠を使い切る必要はないかも知れない。自分の拠出可能額だけ投資・購入してゆけば良い。例えば、120万円に増額された「つみたて型」なら毎月10万円の投信積み立てが出来る。しかし、毎月10万円の積み立て投資が出来る余裕のある生活者はどれくらいいるのだろうか?更に一般型を含めた年間360万円の枠を使い切れる生活者はどれほどいるのだろうか?

 勿論所得収入ベースで考えると少し多い金額だが、政府の狙いはストックにあるのではないか。日本の金融資産約2,000兆円の半分を占めるといわれる預貯金の1部でも投信購入や株式購入によって産業界に回し、日本経済の発展に役立てようと考えているのだろう。預貯金に眠る資金を非課税枠を使って投資信託・株の購入に回しましょうという訳だ。確かに今回の改正は頭のいい政策だと思う。税制を変更することで日本経済の回復を図ることが出来るし、このために新たな財政出動でお金を作るため国債を増発しなくてもよいからだ。

果たして目論見どおりゆくか?

 ここからは制度の改正点ではなく、実際の投資信託の運用先を見てみたい。私の疑問は制度が改正されても、その資金は欧米に流れ日本には向かっていかないのではないかという点にある。即ち、現在の投資信託の投資先を見ると以下の表のようになる。

 表を見て明らかなように既に日本の生活者・投資家は人口減少社会・低成長経済と化した日本への投資から離れ、国際分散投資特に欧米・突き詰めればS&P500等への投資にその資金を向けている。この方向は間違っているわけではなく、その成長性・収益率を勘案すれば理にかなった投資を実行していると言える。それだからこそ今回の改正によって解き放たれた資金が政府の思惑とは別に欧米特にアメリカ等へ流れていっては元も子もないことになるのではないかと危惧している。

やはり行われた遡り期間の延長(資産課税・相続税)

 税制改正案によると、今回の改正は“資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築”が狙いだという。それは1つには「相続時精算課税」に暦年課税と同水準の基礎控除を創設し、使いやすくすると同時に暦年課税の相続財産に加算する期間が3年から7年に延長された。

 私が注目するのはやはり暦年課税の相続時の遡り期間が3年から7年に延長される点だ。これでいよいよ駆け込み生前贈与は益々難しくなる。これからは長い目で計画的に、早くから贈与を心がけていかないと対策が全て無効になる恐れが出てきた。やはり自分の子供・孫がお金を必要とする時期に助けることがお金を生かしてゆくことに繋がると思う。そして、その時期は自分が

 相続を気にするずっと以前、子供の結婚・自宅購入時等であって、それは自分が50歳、60歳代でも当事者であることを示している。また、この時期を逃した生活者にとっては孫等への「教育資金一括贈与」特例は2026年3月まで延長されたので活用を検討するに値する。

CFP 重田 勉

所得税・住民税を計算してふるさと納税を利用してみませんか?

そもそも何のためにつくられた制度なの?          (出所:総務省)

多くの人が地方のふるさとで生まれ、その自治体から医療や教育等様々な住民サービスを受けて育ち、やがて進学や就職を機に生活の場を都会に移し、そこで納税を行っています。
その結果、都会の自治体は税収を得ますが、自分が生まれ育った故郷の自治体には税収が入りません。

そこで、「今は都会に住んでいても、自分を育んでくれた「ふるさと」に、自分の意思で、いくらかでも納税できる制度があっても良いのではないか」そんな問題提起から始まり、数多くの議論や検討を経て生まれたのがふるさと納税制度です。

ふるさと納税とは?

ふるさと納税とは、自分の選んだ自治体に寄附(ふるさと納税)を行った場合に、寄附額のうち2,000円を越える部分について、所得税と住民税から原則として全額が控除される制度です(一定の上限あり)。自分の生まれ故郷だけでなく、お世話になった自治体や応援したい自治体等、どの自治体でもふるさと納税の対象になります。

~所得税計算式は参考資料参照~
367 万円×20%-427,500 円=306,500 円(所得税額)
367 万円×10%=367,000 円(住民税※)
※厳密には住民税と所得税の課税所得は異なるため概算金額

【2】上記条件でふるさと納税を102,000 円すると・・

所得控除は153 万円+10 万円(ふるさと納税-2,000 円)=163 万円となり、
357 万円×20%-427,500 円=286,500 円(所得税額)
確定申告することによって所得税△20,000 円が還付され、次年度の住民税で80,000 円が控除されます。そして返礼品を受け取れます。
実質2,000 円で返礼品が受け取れるというわけです。

尚、下記図のように控除に限度額がありますのでふるさと納税サイトのシミュレーションを利用するのがよいでしょう。

11/29 よりふるさと納税でPayPay 商品券の利用ができる自治体が北海道、山形、栃木、愛知、三重、兵庫、奈良、山口、香川、福岡、熊本などの一部市で始まりました。
この機会にお世話になった自治体、応援したい自治体に出かけてみてはいかがでしょうか?
タクシーや食事、お土産などに使えて利便性は良さそうですし、今後参加する自治体は増え そうです。
日本の中でも行ったことのないところ、たくさんありませんか?

CFP 佐藤広子

介護について

 今回は、介護についてブログを書きたいと思います。

いつかは迎える介護、親の介護や自分自身の介護と高齢化社会には、避けて
通れない世の中になってきています。

現在、苦労されている方もいらっしゃるかもしれませんが、これからという
方も事前に介護の事情を知っていただき今後の参考にしていただけると
幸いです。

まず下の図は、介護保険の要介護(要支援)の認定者数の推移です。

 出典:厚生労働省ホームページ介護保険事業状況報告

年々、右肩上がりで、認定者数が増えています。

団塊の世代の多くが、75歳を迎える2025年以降には、更に介護保険の認定者は
増えていくと考えられます。

公的介護保険制度で、要介護認定を受けた方の約9割が75歳以上です。

高齢のご夫婦だけでなく高齢の子が親を介護する「老老介護」も懸念されています。

出典:厚生労働省ホームページ介護保険事業状況報告

出典:厚生労働省「令和元年国民生活基礎調査」

生命保険文化センターによると介護期間は、平均5年1カ月(61.1カ月)という
統計結果が出ています。

出典:生命保険文化センター

また誰に介護してもらうか?ですが、イメージされている方も多いと思いますが
同居の家族に介護してもらうという結果が出ています。家族への身体的・精神的負担、経済的な負担を考慮する必要があります。

出典:厚生労働省「令和元年国民生活基礎調査」

実際に身近な人が介護になった場合の費用はどのくらいかかるのでしょうか?

出典:生命保険文化センター2021(令和3)年度「生命保険に関する全国実態調査」

一時的な費用が平均74万円、月々の費用が平均8.3万円とデータがあります。
結構費用がかかる事がわかります。

では先々のリスクとしてとらえた場合、どの様に備えたらいいでしょうか?

いくつか方法があると思いますが代表的な方法を解説致します。

<一般的な例>
① NISAやiDeco等を活用し、資産運用を行う。
② 雇用延長や再就職等長く働く。
③ 民間の介護保険を利用する。

その他にも方法はあると思いますが、先のリスクへの備えを行っていけば
介護リスクに備える事ができます。皆さまも介護対策早めにやっていきましょう。

 CFP 児美川 崇弘

寡婦年金って、なに?

寡婦とは死別や離婚で夫を失った女性のことを言います。表題の寡婦年金は自営業・フリーランスで働いていた夫が亡くなった時に妻が受給できる年金のことです。
公的年金は大きく3種類あるのは皆さまはご存じのこととおもいます。65歳からの「老齢年金」、身体が不自由になったときの「障害年金」、ご家族の大黒柱が亡くなった時の「遺族年金」。
「寡婦年金」を話す前に、三番目の「遺族年金」についてザックリとふれます。
家族の中の生計の担い手が亡くなった場合、亡くなった方の年金の納め具合や残された家族の年齢等で、受給できる遺族年金(遺族厚生年金、遺族基礎年金または両方)が決まります。そのうちの遺族基礎年金は18歳未満の子がいる時だけ支給されます。
つまり、子がいない、または18歳以上の子しかいない妻には遺族基礎年金の受給資格はありません。そこで、登場するのが、寡婦年金です。
自営業やフリーランスで働いた夫が今まで払ってきた国民年金を掛け捨てにしないための年金です。
子のいない女性のみが60歳から65歳の間に支給されます。
さて、気になるのはその支給要件です。

①亡くなった夫の要件
・国民年金の第1号被保険者としての保険料納付済期間が10年以上(免除期間も含む) ある。(注:2017年7月までに死亡の場合は25年)
・老齢基礎年金をもらったことがない、または障害基礎年金をもらえるようになったことがない。

②残された妻の要件
・夫の死亡時65歳未満であった。
・夫によって生計を維持されていた
・結婚の期間が10年以上つづいていた(内縁・事実婚でも可)。
・老齢基礎年金の繰り上げ支給を受けていない。
・遺族基礎年金の資格がない。
・特別支給の老齢厚生年金をもらわない。
・遺族厚生年金をもらわない。

③支給額
夫が65歳からもらえるはずであった老齢基礎年金の4分の3です。
例えば、亡くなった夫が国民年金の第1号被保険者で25年保険料を納付したときは、妻が貰える寡婦年金の金額は
780,900円(2021年の満額)×25年(納付期間)÷40年×3/4=366,047円
(注)円未満は四捨五入。付加年金は計算には含みません。国民年金基金は別途一時金の対象。

④支給期間
妻が60歳になってから65歳になるまでの間です。下の図を参考にしてください。
(例1) 夫が亡くなった時、妻が60歳未満の場合は、60歳になるまで寡婦年金は支給されません。

(例2) 夫が亡くなった時、妻が60歳以上の場合は、その時点から65歳まで支給されます。

寡婦年金と、別の選択肢 同じように国民年金の第1号被保険者が亡くなった時の給付に「死亡一時金」があります。名前の通り、一度だけですが、すぐに支給されますし、支給要件の範囲が「寡婦年金」に比べてやや広くなっています。寡婦年金が諸事情でもらえない時などにはご利用できるケースもあります。支給額は最大でも32万円と多くの場合は寡婦年金の合計よりは少ないです。どちらか一方の選択です。もちろん、両方の選択時のときは、じっくりと検討すべきです。一度決定すると原則変更はできません。

⑤「死亡一時金」の要件など
死亡した人
国民年金保険料納付期間が36月以上
老齢基礎年金や障害基礎年金を受けていない
支給を受ける人
死亡した人と生計が同じだが、生計を維持されていなくてもいい
優先順位 配偶者→子→父母→孫→祖父母→兄弟姉妹
遺族基礎年金の支給を受けていない
支給額
死亡した人の保険料納付期間に応じて12~32万円
付加保険料を36月以上納めていた場合は、一律8,500円加算
権利の時効
死亡日の翌日から2年
寡婦年金にしても、死亡一時金にしても、金額はそれほど多くは望めません。転ばぬ先の杖、将来の資産設計については、いまからご準備されることをご提案します。私達FPみらいは皆さまのご相談をお待ちしています。

楠本智子 CFPⓇ認定者(ファイナンシャル・プランナー)
2022年10月15日

老齢年金はいつから受け取るのが良いか ~人生100年時代 寿命との関係で考えてみる~

今年4月から、昭和27年4月2日以降に生まれた方を対象に老齢年金の繰り下げ受給の上限年齢が70歳から75歳に引き上げられました。

年金の受給開始を75歳からとすると65歳から受給する場合に比べ、年金額は84%増額します。人生100年時代の中、健康寿命、平均寿命、各年齢での生存確率を確認してゆきながら、老齢年金はいつから受給するのが良いか考えてみます。

図表1は、老齢年金の受給開始年齢を70歳及び75歳に繰り下げた場合、65歳から受給を開始する場合と比較した 年金受給総額のグラフです。

社会保険料や税金が差し引かれる前の年金受給総額で比較すると、70歳受給開始の場合82歳以上、75歳受給開始の場合86歳以上生存すれば65歳受給開始の年金場合の年金受給総額を上回る結果となります。 社会保険料や税金を考慮すると分岐点の年齢は2~3歳上昇します。

2021年の簡易生命表を基に65歳時点の平均余命から算出した平均寿命は、男性が84.9歳、女性が89.7歳です。

図表2は、2021年の簡易生命表を基に65歳を起点とした90歳から100歳までの各年齢での生存確率をまとめたものです。

確率的には、男性の場合3人に1人が90歳迄10人に1人が95歳迄、女性の場合は3人に1人が95歳迄10人に1人が100歳迄生存すると予測されます。まさに人生100年時代が近づきつつあることを示す数値です。

図表3は、2001年から2021年まで65歳を起点とし90歳、95歳、100歳の各年齢での生存確率の推移を5年毎にまとめたものです。
男女とも着実な長寿化の傾向が見て取れます。

図表4は、65歳を起点に100歳迄の各年齢での生存確率を2001年~2021年まで5年ごとの簡易生命表を基にグラフ化したものです。

65歳受給開始の場合と比較し年金総額が上回る受給開始年齢は、税金や社会保険料を考慮した場合前述のように70歳からの受給開始では84歳~85歳、75歳からの受給開始では88歳~89歳です。

男性の場合65歳の平均余命から算出した平均寿命は84.9歳ですので75歳からの受給開始では65歳からの受給開始と比較し年金受給総額が下回ることになりますが、2021年現在男性の3人に1人が90歳迄生存し生存確率は今後も増加してゆくと予測される中、長生きのリスクに対応するため終身年金である老齢年金をできるだけ繰り下げて受給する重要性は高まっていると言えます。

女性の場合は65歳の平均余命から算出した平均寿命が89.7歳であることや2021年現在3人に1人が95歳迄存命であることを考慮すれば、繰り下げ受給は男性以上に重要です。

65歳迄の雇用確保を義務化する改正高年齢者雇用安定法が2021年4月に施行されましたが 、老齢年金を65歳以降に繰下げ受給するまでの間、生活費の不足には一般的には働くことで対応することになります。

年金の受給をいつまで繰り下げるかは、いつまで健康でいられるかにかかってきます。

図表5は、厚生労働省の健康日本21(第2次)推進専門委員会の資料から取りまとめた2001年から2019年までの健康寿命の推移です。資料で健康寿命とは「日常生活に制限のない期間の平均」と定義されています。

健康寿命は20年間で男女とも約3年伸び2019年では男性は72.7歳、女性75.4歳となっており、今後も健康寿命の伸びが予測されます。

男性の場合、健康面からは73歳まで働き74歳から年金を繰下げ受給すると前述の通り65歳受給開始の場合の年金受給総額を下回る結果となりますが、生活習慣病予防が健康寿命改善の一因であることから生活習慣の見直し等により健康寿命を伸ばすことで働く期間を伸ばすことも可能になります。

総務省の労働力調査によればシニア層の就業率は年々増加しており、2021年平均では65歳~69歳の年齢階層では男性で6割、女性で4割が、70歳~74歳でも 男性で4割、女性で2.5割が就業しています。

65歳以降できるだけ長く働き、終身年金である公的年金を繰り下げ増額した年金を受給することは、人生100年時代の中で長生きのリスクに備える有効な手段ですが、いつまで働く必要があるかは、ご自身が会社員か自営業か、共働きか否か、家族世帯か単身世帯か等世帯のタイプや働き方、老後の暮らし方、退職金や金融資産の額等により個人ごとに大きく異なります。

キャッシュフロー表とは、これら個人ごとに異なる年間の収入と支出、生活費等を基に将来にわたる金融資産残高の推移を見える化することで家計の問題点を把握し、条件を変えながら試算を繰り返すことで解決策を見出してゆくためのツールですが、ご自身で作成することが難しい場合はファイナンシャル・プランナー(FP)に相談しFPとともに人生100年時代に備えてご自身の解決策を考えてみてはいかがでしょうか。

CFP 岩船

株主優待投資始めてみませんか?

 元将棋の騎士であった桐谷さん、「月曜から夜更かし」などで優待投資家として紹介され、生活はすべてが株主優待で成り立っていると話されています。
 株主優待とは、会社の株主になることによって、お中元やお歳暮みたいなものを会社の決算に合わせて、年に1回か2回、配当金とは別に頂けるというもので、上場している企業の1490社(2021年10月末現在)が実施しています。
 優待品は、配当金とは異なり、持ち株数に比例して豪華な品になるということはなく、100株以上の株主全て同一、または100株は○○、200株は△△、500株以上は□□というように株数に応じて差を付けている会社もありますが、一般的には最小投資単位である100株でも、何万株の株主でも同じ商品ということが多いです。
ということは、優待品が貰える最小単位での投資(通常は100株)が一番投資効率の良い投資ということになります。
 つまり数百円の株価の会社だと数万円の投資で優待品を貰える権利を手にすることが出来るということになります。
ただ、優待の権利を獲得するには会社の決算に合わせた日に株主になっていることが必要で、8月末権利の会社を9月に購入しても来年の8月まで待たないと権利は発生しません。
また、権利を獲得したからといって、すぐに優待品が届くのはまれで、 通常は権利確定日から2ヶ月から3ヶ月後に配当金などと同じ時期に送られてくるのが一般的です。
 優待品は食品や食事券、生活用品、クオカードなどの金券などが多く、その会社の地域特産品を選べるカタログギフトなどの会社、さらには、○○会社プレミアム優待倶楽部などと云って、株数に応じてポイントを付与してグルメ、スイーツ、ドリンク、酒、電化製品、生活雑貨、ビューティ・ヘルス、ファッション、ベキー・キッズ、ペット、ゴルフ関連、アウトドア、花・グリーン・園芸、防災グッズ、旅行、など3500種類以上といわれている、膨大な商品の中から、自分の好きなものを選んで送ってもらえるなどというものもあります。
 冒頭に紹介した桐谷さんは、1000社以上の会社の株主になっているとのことで、生活に必要なものはほとんど優待品で揃ってしまうということです。マスコミに紹介されるときは、身につけている洋服、メガネ、時計、リュックなど全て優待品で揃えて登場することが多いです。飲食店などの会社は自社店舗で使える優待券を発行してくれるので、映画(年間100本程度観ているとのこと)を観に行くときも食事は飲食店の優待券で、映画は映画会社の優待券で鑑賞するなど、現金を使わない生活を満喫されているようです。
 桐谷さんがよく講演などで勧めているのが「10万円あったら数万円で買える会社を2-3社選んで買いましょう。」というもの。また投資する会社を選ぶ際には、「投資額に対して、配当金と優待品の価値を足したものが4%以上あるのを投資基準としたらどうでしょうか」ということでした。
 桐谷さん曰く、株主優待投資は商品を貰えるという直接的なメリット以外に
①自転車で期限切れになる優待を使いに行くので健康が保たれる
➁余った優待を人にあげることで健康になる(長生きに影響を与える要因を調べたところ、肥満解消、運動、禁煙よりも「人とのつながり」が長生きへの影響力が高い)
というメリットもあるとのこと。
みなさんも株主優待投資初めてみませんか?
 ただ、株価は業績に応じて上下します。桐谷さんは優待が廃止されない限り、損切(買った値段より安い値段で売却すること)しないとおっしゃっていますが、業績悪化に応じて優待改悪や廃止もあります。昔、私が保有していたアプレシオというマンガ喫茶を運営している会社は業績悪化して株価が下がっても優待廃止とならず、優待利回りが数十%となってもそのまま保有していたら、優待廃止の発表前に会社倒産となって大きな損失を被った経験もあります。このため、保有している銘柄については業績動向もウオッチしておくのが賢明です。

今月我が家に届いた優待商品例

CFP 磯野 正美

65歳以上の方!『雇用保険マルチジョブホルダー制度』を活用しましょう!

『雇用保険制度』について
まずは、雇用保険について少しお話します。
雇用保険とは労働者の生活や雇用の安定を図るための公的保険のひとつです。保険料は、労働者と事業主で負担し、その比率は、約1:2の割合です。例えば、月額給与20万円の方ですと、労働者の保険料は、月額600円です。(2022年10月から料率が上がり、1,000円になります。)他の社会保険料ほど高くない割に、失業給付、育児介護給付、教育訓練給付・・・等有難い給付があり、労働者を支援してくれる公的保険です。
雇用保険の適用事業に雇用される労働者は、原則として、その意志にかかわらず被保険者となります。
但し、一つの事業所で、所定労働時間が週20時間以上である方でかつ同一の事業主に継続して31日以上雇用が見込まれる方が加入対象です。
つまりこのルールですと、複数の会社で働く時間を合計することで所定労働時間が、週20時間以上の勤務となる人は雇用保険の対象外です。そうなると失業給付等、様々な給付を受給することができません。

『雇用保険マルチジョブホルダー制度』
上記の雇用保険の適用要件を緩和したのが、『雇用保険マルチジョブホルダー制度』です。
複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者が、2つの事業所(各事業所における1週間の所定労働時間が、5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用見込みを満たす場合に適用されます。

【厚労省HP「雇用保険マルチジョブホルダー制度の申請パンフレット」より】

『高年齢被保険者』と『マルチ高年齢被保険者』の比較
従来の雇用保険制度の要件にあてはまる労働者が65歳以上になると『高年齢被保険者』と呼ばれます。『マルチ高年齢被保険者』との相違を表にまとめてみました。

加入要件①の例示(★1補足)
いずれも1週間の所定労働時間が20時間です。労働者Aさんは、通常の雇用保険の高年齢被保険者となり、労働者Bさんは、マルチ高年齢被保険者の要件を満たします。労働者Cさんは、Y企業で週所定労働時間5時間以上の要件に合いません。労働者Dさんは、X・Y・Zの内、いずれの2つの事業所の労働時間の合計が20時間未満ですので、要件に合致しません。

手続きをするのは、労働者本人です。(★2補足)
・要件に合致しても雇用保険加入については、任意ですが、加入後の任意脱退は不可です。
・資格取得・喪失する時、労働者本人が、手続きに必要な書類を事業所に発行してもらい、書類を揃えて自分の住所管轄のハローワークへ直接赴いて手続きを行う必要があります。現段階では、電子申請は行っていません。
・本人の申出日が、資格取得日になります。遡及不可なので、要件を満たしたら迅速に手続きを済ませないと被保険者期間に応じた給付金にも影響が出ることもあります。

【厚労省HP「雇用保険マルチジョブホルダー制度の申請パンフレット」より】

◆高年齢求職者給付金の具体例(★3補足)

・手続きは、手間がかかりますが、上記の例では、雇用保険料差し引いても、1ヶ月分超の給付金が
受給できます。
・また、要件もありますが、育児・介護給付金や教育訓練給付金も受給可能です。

◆今後の『マルチジョブホルダー制度』の拡大

・この制度は、現段階では65歳以上の方が対象で試行的運用ですが、5年を目処に効果が検証されることになっていて対象者が拡大する可能性もあります。

・コロナ禍で在宅勤務やリモートワークが増え、副業・兼業への意識も高まり、『働き方改革』の一環で働き方の多様性に対応した制度です。

・厚労省でも『副業・兼業の促進に関するガイドライン』(2018年に策定、2020年9月に改定)の中で副業・兼業の場合における労働時間管理及び健康管理についてルールが明確化し、企業も労働者も健康を確保しながら安心して副業・兼業を行うことができるよう、本ガイドラインの周知を図っていくと記しています。

・厚労省HPに詳しいQ&Aがあります。積極的活用をお勧めします。

・FPとして今後のルール改正等の情報提供・手続きの助言をしていけたらと思います。

2022年7月  CFP 石黒貴子 


=介護保険制度の現状と最近の改正について=

40歳以上のすべての方が被保険者となる介護保険、制度ができて20年余が経過しました。その間3年ごとに改正されています。気になる現状と今後の見通し、最近の改正について確認してみましょう。

◆介護保険のしくみ

介護保険は、保険料を支払い介護保険に加入している「被保険者」と保険料を集めて運営を行なう「保険者」(市区町村)、そして、都道府県・市区町村の指定を受け、各種介護サービスを提供する「サービス事業者」の三者が担うことで成り立っています。

http://www.mhlw.go.jp/content/000801559.pdf

介護保険の運営にかかる費用は、公費(国庫負担金、都道府県負担金、市町村負担金)と、40歳以上の方々が納める介護保険料で支えられています。40歳以上64歳までの方を第2号被保険者、65歳以上の方を第1号被保険者と呼んでいます。第1号被保険者の保険料は、本人または世帯の所得と年金額によって変わり、市区町村の定める基準額に保険料率を乗じて算出され、生涯払い続けます。第2号被保険者の保険料は国民健康保険と協会けんぽ等の健康保険のどちらに加入しているかで異なります。お勤めの方は、半分を事業主が負担し、残り半分を本人が支払います。

https://www.mhlw.go.jp/content/000801559.pdf

この20年間で、介護サービスは高齢者の生活の中に定着し、発展してきました。厚生労働省老健局集計によると、第一号被保険者数が2,165万人⇒3,558万人と1.6倍の増加に対して、介護保険サービス利用者数は149万人⇒494万人と、3.3倍に増加しています。

サービス利用者の増加等により、上の棒グラフのとおり、介護保険費用も年々増加しています。また、65歳以上が支払う全国平均の保険料(第1号保険料)の増加の様子が上の四角い図で示されていますが、平成12年度の2,911円⇒令和2年度には6,014円に増加しています。(この図にはありませんが第2号被保険者が支払う保険料の平均額も、平成12年度の2,075円⇒令和2年度には5,669円になり同様に増加が続いています。)

今後の見通し

今後、65歳以上の高齢者は、2042年頃には3,878万人でピークを迎えると予測されています。一方、介護保険料を負担する40歳以上の人口は、2000年に6,575万人⇒2020年に7,587万人と増加してきましたが、人口構造の推移に伴い、2021年をピークに減少する見込みです。高齢者の増加と現役世代の減少というダブルパンチで先行きは厳しい状況です。介護サービス利用料設定の基になっている介護報酬についても、介護職員の処遇やサービス事業者の経営状況等をふまえ、今後も3年に1度のペースで見直しが予定されています。一方、介護職員の負担軽減の為、ICTを活用したデータ管理や情報共有も認められました。介護ケアの質の向上や、利用者の満足に結びつく事が狙いです。更に介護ロボットの開発も進められています。

2021年の改正の1つ「高額介護サービス費の上限引き上げ」について

介護保険は一定の年齢になれば申請書類が届くといったものではなく、介護が必要となった時に、市町村窓口に申請し、要介護度の「認定」を受けてはじめて、利用できるサービスが決定します。サービス利用時には、利用料の1~3割を自己負担します(自己負担割合は、年金などを合わせた単身または夫婦世帯の所得に応じて決まります)。また、要介護度に応じて、1カ月の利用限度額が設定されており、上限を超えた部分は全額自己負担となります。

但し、この自己負担額(月額)にも上限が設定されており、上限を超えた場合に払い戻しをしてくれます。この仕組みが「高額介護サービス費」です。2021年8月、下の図のように、高所得者の区分を新設し、改正前に44,400円だった世帯の負担上限月額が、最大140,100円に改正されました。これは、健康保険の「高額療養費制度」をふまえて設定されており、その上限額と同額になっています。

https://www.mhlw.go.jp/content/000334526.pdf

◆自己負担上限額について気になるポイント

介護が必要な高齢者は、年金だけが収入源という方がほとんどですが、自己負担額は世帯の所得により区分されます。たとえば現役で働いている子ども世帯と同居している場合などは、世帯所得が高いため、自己負担額が多い区分に入る事になります。この自己負担を(条件により自己負担割合も)抑えるため、世帯分離をする方法がありますが、高額の介護施設に入所する場合などは、親世帯の介護費用が大きく軽減できる反面、国民健康保険加入の世帯の場合などは、各世帯主がそれぞれ保険料を支払う事になり、かえって負担増となるケースもあります。個々の状況により異なります。また、条件により世帯分離が認められていない自治体もありますので、ご検討される際は十分な確認が必要です。(世帯分離とは:同居のまま、住民票の世帯を分ける事)

◆おわりに

介護にかかる費用は、個々により様々で一概に言えませんが、生命保険文化センターの2021年度調査によると、平均月額8.3万円(自己負担費用を含む)、介護期間は平均5年1ヶ月とあります。その他に一時的な費用(住宅改造や介護ベッドの購入費等)が平均74万円です。合計でおよそ580万円余り…貯蓄・保険・資産運用等、自分に合った方法で準備したいですね。

また、高齢者の方の生活上、気になる様子がある時には、早い段階でお住まいの地域の「地域包括支援センター」に相談してみましょう。相談は介護以外にも幅広く対応してくれます。医療・福祉機関やボランティア等と連携を図った支援や、通いの場(体操・茶話会・趣味活動)等に参加する事で介護予防に繋がります。

2022年6月
CFP 依田いずみ

退職金の受け取り方 

 退職金は、退職手当・退職慰労金とも呼ばれることがあるが、会社を退職する時に支給 される、まとまった金額のお金である。
 近年、下図に示すように定年退職時の退職金給付額は減少傾向にあるが、サラリーマンにとっては、 老後の生活資金やローン返済など、定年後のライフプランについての重要なものに変わりは無い。
定年退職時期が近づくと、貰える金額が気に掛かるものだ。

出典 日本FP協会 FP実務の基本データ集より

会社の人事課等の関係部署へ聞くと教えてもらえるので、事前に金額を把握して置くことをお勧めする。
退職金制度は、会社によって異なる部分もある。
最近では、現金のみの給付だけではなく企業型確定拠出年金と組合せでの給付も増えてきた。

ここでは、退縮金の種類(中身)を議論するのではなく、退職金の受け取り方について 考えてみたい。退職金の受け取り方は、概ね次の3つに分かれる。
(ここでは現金として給付される退職金を議論する。)
1)一括で受け取る方法(以下、『一時金払い』と呼ぶ)
2)分割で受け取る方法(以下、『年金払い』と呼ぶ)
3)一時金払いと年金払いの併用
「受け取り方が違うだけで、退職金総額は変わらないんじゃない?」と思われる方も いらっしゃるかも分からない。何が違うのか?第一の違いは退職金に掛かる税金が変わる のである。
 次に、それぞれの受け取り方に対して退職金に掛かる税金の仕組みを見てみよう。
1)一時金払いの場合
 退職金は、サラリーマンの老後の生活資金であることや給料の後払い的性格であることを国も理解しており、通常の税金計算とは異なった方法を適用する。
 その特徴を以下に説明する。
a.分離課税であること
 まず退職金は、その年の給料等の他の収入とは切り離して税金を計算する「分離課税」 となる。つまり一時金で受け取った退職金は、その金額に対してのみ税金を計算し、 他の所得とは合算しない。
b. 退職所得控除が特別
 『永年のお勤め、ご苦労様でした』と言わんばかりに、退職一時金は退職所得控除という優遇処置がとられている。
 退職所得控除額は、何年勤めたか(勤続年数)で計算が異なり;

  • 勤続20年以下の場合:40万円×勤続年数
  • 勤続20年超えの場合:800万円+70万円×(勤続年数-20年)
      
    数式だけではピンと来ないので、具体的な勤続年数で計算してみる。 
      大学を22歳で卒業し、一つの会社に定年退職(60歳)まで勤務した(勤続年数38年)
     と仮定すると:
      退職所得控除額= 800万円+70万円×(38年-20年)
             = 800万円+1,260万円
             = 2,060万円                                   

となり、退職金が2,060万円までは税金がゼロとなる!これは、普通2,000万円に
対する贈与税が数百万になるのと比較して、破格の扱いと言えるだろう。
また税金を計算する際は、退職所得控除後の金額に1/2を掛けた金額を用いる。
税金はさらに低くなる。すなわち;
 課税金額=(退職金-退職所得控除額)× 1/2
一時金払いの場合、二重の意味で課税軽減処置が取られている。

2)年金払いの場合
 年金払いの場合は、金額に応じて公的年金等控除はあるが、目立った課税軽減処置は無い。
 控除額を超えた分は、他の公的年金と同様に雑所得として毎年所得税・住民税の課税対象となる。
また、国民健康保険や介護保険等の保険料は所得に応じて算出されるため、退職金と言えども、 年金払いで所得が増えることで、一時金で受け取った場合よりも保険料の負担が重くなる場合がある。
とここまで書くと、一時金払いの方が断然得じゃないかと思われる方も多いだろう。
世間一般に退職金の受け取り方に関する記事には、一時金受取りを勧める内容が多く見られるのも事実である。
 退職金に掛かる税金については前に述べた通り、確かに一時金払いの方が優遇処置が勝っている。
 では次に、それぞれのメリット・デメリット(考慮すべき点)を考えてみよう。
A.一時金払いのメリット・デメリット
 メリットは、前に述べた税金面である。一方、デメリットと言っては言い過ぎかも分からないが、 考慮すべき点として、一時にまとまった現金が入るので、気が大きくなり 高額なものを購入したり、豪華な海外旅行に夫婦揃って行ったりすることがある。
 これも、長年働いた自分へのご褒美と考えれば、あながち方向違いとは言えまい。
 また、退職金を老後の資金として考える際には、まとまったお金の運用を自分で考える必要がある。
超低金利の今日、銀行に貯金して置くだけでは利息は物価上昇に追い付かず、
目減りしてしまう。とは言え、今まで投資とは無縁の生活をしてきた方が、急に焦って投資に走ると、金融機関の担当者の言うがままにお金を投資・・・、とは良く聞く話である。
上記の考慮すべき点は、制度上こうであると言うのではなく、全て本人の気持ち(考え方)であると言えよう。
B.年金払いのメリット・デメリット
考慮すべき点は、税金面である。一方、際立ったメリットとは言い難いが、年金生活で毎月 決まったお金が入ってくるのは、安心な気分となるのは事実だろう。また会社に退職金を 運用してもらえるのはメリットと言えないことは無い。
(最近、生命保険会社の年金運用利率の引き下げ報道が目立つが)
前述の国民健康保険や介護保険等の保険料を軽減する手段として、年金払いの退職金を 受け取りながら社会保険(健康保険・厚生年金)に加入して働く方法がある。 健康保険料は給料収入だけに掛かり、しかも半分は会社が負担してくれる。
国民健康保険料を自分で納めるより、負担が軽減されるという訳だ。
 退職金を一時金で受け取るか、年金払いで受け取るかの正解は無い。
ただ言えることは、自分自身で受取方法を決めなければならないので、 選択する際のルールまたは仕組みは少なくとも知った上で、決めたい。長年働いた結果の退職金なので、 後悔しないようにしたいものである。

CFP 前川敏郎

知識<行動

このブログはFPみらいメンバーが交代で執筆し毎月更新しているものです。前回の私の担当 は「Die with zero」(ゼロで死ぬ・ビル・ハーキンス著)の主張を基に、日頃あまり目にしない「お金の貯め方ではなく、使い切り方」を学び人生を豊かにする知恵を紹介しました。
 今回はお金についての普遍的な真実や知恵が分かりやすく説かれている本として2020年に発行され全世界で約1年に70万部のベストセラーとなった「The Psychology of Money:timeless lessons on wealth,greed,and happiness」(富、欲望、幸福についての普遍的な教訓・著者モーガン・ハウセル)を基に賢くお金と付き合う考え方を学んでみたいと思います。
 著者の根源的な主張は「お金とうまく付き合うには頭の良さより、行動が大切だ」というものですが、以下その主張を見てゆきたいと思います。
なぜ地味な男性清掃員が800万ドル(円貨、120円として960百万円)の資産を残せたか?
 本書の冒頭に紹介されているのがアメリカのバーモント州の田舎で生まれたロナルド・ジェームズ・リードという人物である。彼は高校を卒業後ガソリンスタンドで接客と自動車整備の仕事を25年勤め、その後は百貨店JCペニーの清掃員として17年間パートタイムで働いた。彼の友人たちは彼について「特筆すべきものはなにもない、彼の一番の趣味は薪割りだった。」と語った。
 しかし、彼が2014年92歳で亡くなった時、彼の死は国際的なニュースとなった。彼は遺書に「義理の子供たちに200万ドルを与え、地元の病院と図書館に600万ドル以上を寄付する」と書いていたのだ。彼は宝くじに当たったわけでもないし、親からの遺産をもらったわけでもなかった。彼は若いときから節約してお金を貯め、それを優良株に投資していただけだった。数十年が経過し、小さな投資額は複利効果で800万ドル以上に膨れ上がっていただけだった。そして、パートタイムの清掃員リードは莫大な遺産を寄付する慈善家となった。


再び 知識<行動
なぜファイナンス・投資の世界では清掃員のリードがトップエリートに負けない成果を出し得るのか?理由の1つは経済的な成果は知性や努力とは無関係の「運」に左右される部分が大きいからだ、と著者は言う。2つ目の理由は経済的な成功はハードサイエンス(物理・数学等)では得られないというもの。経済的な成功は「何を知っているかよりも。どう振舞うかが重要なソフトスキルの問題だ」という。そして彼はこのソフトスキルを「サイコロジー・オブ・マネー」(お金の心理学)と呼んで本のタイトルにしている。


複利の魔法
 「ウオーレン・バフェット氏の純資産の95%以上は彼が65歳以降に得られたもの」という驚き。彼のバークシャー・ハザウエイ社を率いる「投資の神様」と言われるウオーレン・バフェット氏の純資産は2021年時点で845億ドルと言われているが、その内842億ドルは彼が50歳の誕生日を迎えた以降に増えたもの、だという。類まれな投資家と言われる彼だが、彼の経済的な成功の秘密は若いころに経済的基盤を築き、長期間にわたって投資し続けたことにある。その成功の最大の要因は“時間”だったという。将に複利の力が彼を投資の神様に押し上げた。


自由
 “お金から得られる最高の配当とは、「時間」をコントロールできるようになること” 
確かに私も思う。「蓄えが増えるごとに、人は周りの都合に左右されることなく、自律的に生きられるようになってゆく。」そして、現代人は豊かさと引き換えに何かを失ってきた。それが時間だと思う。著書の中でハウセルは老年学者カール・ピレマーの著書「1,000人のお年寄りに聞いた30の知恵」を紹介している。その中で「長い人生経験から学んだ最も重要な教訓は何か」というアンケート結果を紹介している。その結果は、「1,000人の内誰1人としてもっとお金を稼げば良かったという人はいなかった。誰1人として周りの人と同じくらい裕福になりたいと言った人はいなかった。彼らが大切にしていたのは、温かな友情、高貴で大きな目的のための活動への参加、子供たちとゆったり過ごす充実した時間等だった。」と紹介している。
 モノではなく、時間こそが人生を幸せに導く!人生の先輩の言葉は重く響きました。


「目的のない貯蓄」が最大の価値を生む
 私たちは人生で必要な各イベントの為に目的をもって貯蓄に励んでいる。それは住宅や車そして老後等のためにである。しかし、著者は目的が無くても貯蓄すべきだという。それは予期せぬ出来事・リスクに対する備えになるからという。目的のない貯蓄がをすれば選択肢と柔軟性が手に入る。貯蓄があれば待つときはじっと待てる。考える時間も作れる。自分の意志で人生を軌道修正できるという。この辺になるとそうは言ってもそんな余裕はないよという反論も聞こえてきそうな気がする。しかし著者は 貯金=収入−エゴ(見栄) という考え方をしているようなので、
我々も再度生活を見直しして、見栄の為に車を変えたり、家具を揃えたりしていないか等見直しの必要はあると思います。
 以上、「お金の心理学」の1部を紹介しましたが、この他にも著者は面白い事を言っています。例えば、本当に富を蓄えている人の姿は見えにくく、リッチそうに振る舞う人の姿は目立つ。
そして、死後に莫大な資産を残したリードも生前は誰にも注目されることは無かった。このように富のように目にするのが難しいもののロールモデル(お手本となる人物)を見つけることは至難の業であるとも言えます。
 最後に本書の中でキーワードになっていたのが、投資における「複利効果」です。かのウオーレン・バフェット氏の莫大な資産のほとんどがこの効果のお陰であったという事実は衝撃的でありました。我々も投資の配当を生活やお小遣いに使ってしまわずに、再投資してこの効果の恩恵を受けられるように頑張りましょう!
                          CFP  重田 勉