相続放棄に思うこと

近頃、相続放棄に関するご相談が立て続けに舞い込んできています。

私のような小さな事務所にもご相談に来られるからには、世間的にはこの現実に差し迫られ困っておられる方が多くいるということが容易に想像できます。

「相続放棄」とはどういうことなのでしょうか。

相続財産には、プラスの財産とマイナスの財産があります。マイナスの代表的なものは借金ですが、相続ではどちらか片方だけ引き継ぐということができません。プラスの財産がマイナスの財産を上回っていれば、そのまま相続する(「単純承認」と言います)のでいいのですが、調べてみてマイナスの財産が多いときもあります。このような場合に選択できるのが、「相続放棄」です。(「限定承認」というのがありますここでは割愛します)

この相続放棄をするには、家庭裁判所に相続開始を知った時から3ヶ月以内に相続放棄の申述(申し出)が必要です。何もしなければ単純承認とみなされてしまい、マイナスの財産の方が多くても、言い逃れができなくなります。相続放棄とは、一言でいえば、一切の遺産を相続しないということです。つまり、最初から相続人ではなくなり、その人の相続権はなくなります。これに伴い、放棄した人の子や孫の代襲相続権もなくなります。

ご相談にこられた方の一人は、上述した3ヶ月の期限についてのお問い合わせでした。ご本人は、ご主人と25年前に離婚しましたが、ご主人はかなりの借金を抱えており、また病弱だったようです。そのご主人との間には子供があり、いま同居中です。ご心配なことは、元のご主人がどこかで亡くなり、その借金を子供が知らずに相続してしまうのでないかということでした。お子さんの幸せを考えるならばご心配も当然のことですし、25年前のことまで心配しなければならないというのも大変酷なことです。しかし、判例では、この点について「相続人であることを知ってから3ヶ月以内」としており、債権者等からの請求を受けてから放棄をしても間にあうことになりますので、対応はできそうです

また、もう一方のご相談は、相談者の叔父が借金を残して28年前に亡くなりました。相続人はその当時で15名です。全員が放棄をしたとのことですが、相続発生から2年経過した時点で、叔父の債権者(某信販会社)が叔父の自宅に相続人15名での相続登記(債権者代位登記)をしました。今では、法務局が調査して適切に対応するでしょうが、当時は、放棄したことなど調べずにそのまま登記を受けてしまったようです。その為、28年経過した今になって、役所から登記名義人である15名(今ではその人たちの相続人も入れてもっと増えています)に対し、固定資産税の請求がきました。叔父には2号さんが同居しており、つい先ごろまでその方が自宅に居住してましたので、代わりに固定資産税を払っていたようです。この度、なんらかの理由でその支払が滞ってしまったようで、市から15名に請求が来ました。

私からは、とりあえず相続放棄の証明書を裁判所から取り寄せ、申述書を添えて市に送るようアドバイスをしました。市とすれば現在の所有者とされる人に粛々と請求したのでしょうが、真の所有者ではありませんから、登記し直さなければなりません。その手続きは相続人全員に連絡をつけることから始めますが、相続人が増えていますので結構手間が掛かると思われます。これも、28年間経ってから発生した問題です。

このように、相続放棄に関わるものは後々に影響を及ぼし、相続人の数が増えれば増えるほど問題の処理も複雑になります。このような思わぬ負担を負わないための相続放棄について関心が増えている背景には、核家族化や離婚の増加などにより、相続人同士の現実の関係が希薄化している実態があることを感じざるを得ません。          

(萩原 和雄)