「わが投資術」(清原達郎 著)を読んで 

 本屋へ行くと投資に関する書籍が目白押しで、広い場所を占拠している。
中には投資で1億円以上の資産を築いた人を、一昔前の映画の題名(おくりびと)をもじって『億りびと』とマスコミで盛んに取り上げている。筆者は、古典的名著と言われる投資関連の書籍以外は余り 読んでいない。
と言うのも億りびとの投資術をマネしても、自分が億りびとには到底なれないだろうと思うからである。
そんな筆者が久しぶりに投資関連の本を読んだのが、清原達郎著の「わが投資術」である。
読んだ理由は、本の内容よりも著者の経歴が非常にユニークだったからである。著者は、最後の長者番付となった2005年にサラリーマンとしてトップになった伝説の投資家であり、個人資産は800億円を超えると言われている。長者番付というと会社のオーナー社長だったり不動産王や芸能人が常連だが、サラリーマンとして初めて長者番付(実際は納税額)のトップという点に魅かれたのである。ちなみに2005年発表の2004年の納税額は36億9,238万円であり、3位の柳井 正ファーストリテーリング社長の 納税額は10億8,393万円であった。
 また著者は、この本を記した理由として、咽頭がんを患い声を失って、第一線を引退することにな、25年におよぶ投資家としての投資のノウハウを本に書くことに決めたそうである。
*著者の経歴
 大学卒業後、野村証券に入社。野村證券在任中にスタンフォード大学で経営学修士号(MBA)を取得。野村證券退職後、ゴールドマン・サックス証券へ転職。
1998年に自己資金5千万円をつぎ込み、タワー投資顧問でヘッジファンド(タワーK1ファンド)を開始した。
(注記:ヘッジファンドとは、主に富裕層や機関投資家から資金を集めて運用し、利益を出す投資会社)
 本書は著者がヘッジファンドで培ったノウハウ的なことの記述が多く、素人には、そのまま適用できる内容は少ない。(『割安小型株に投資する』までは、何とか理解できるが、ネットキャッシュ比率が云々などとなると筆者の理解を越えている!)
著者の投資方針は、割安小型株に投資するもので、大型株の値動きは大きいものではなく、小型株であれば時には10倍になることもあるという。
現に、著者は北海道拓殖銀行が破綻した際、北海道拓殖銀行が持っていたニトリの株を買い、その後10倍になった時点で売却したそうである。
とは言え、儲かった話ばかりではなく、リーマンショックやコロナ禍では損失を出し、個人資産をつぎ込んで、何とか凌いだこともあったとのこと。           
 本書の中で筆者が気に入っている点は;
1)著者が会った人々のエピソードが、非常に面白く書かれていること。
2)素人にも役に立つ投資に対する姿勢を示していること。
 ではないかと思っている。
具体的に、それぞれを示すと以下の通りである。
1)著者が会った人々のエピソード
a .野村証券時代の上司だった、現SBIホールディングCEOの北尾吉孝氏 に面倒を見てもらったこと。北尾氏の奥さんの料理の腕はプロ級だったらしい。
b. .ヘッジファンドの大御所・ジョージ・ソロスから投資のオファーを受けた話。
c. .ヘッジファンド時代に企業の社長にヒアリングを行うが、某牛丼チェーン社長が「キン肉マン」張りの体型をしていたこと。
 などなど、文章も巧みでおもしろい。
2)素人向けの投資に対する姿勢
 本に記されているものを、いくつか紹介する。
 *間違っても損をするとは限らない、正しかったから儲かるとは限らない
 *投資の第一歩は「常識を疑うこと」
 *教科書に書かれているから正しいと思うな
 *すべての情報にはバイアスがかかっている
 *情報収集に金をかける必要なし(会社四季報があれば十分。
 個人投資家は節約して株を買う元手を貯めるのが大事)
 *未公開株は決して買ってはならない
 *金融商品の手数料にはご用心を
 中には、すでに世の中によく言われていることも含まれているが、それぞれの言葉の意味するところは、本の内容を参考にしていただきたい。
 最後にこの本の帯にも書かれている言葉を紹介する:
 「株式投資に才能など存在しない。『自分の失敗からどれだけ学んだか』だけだ。」

CFP 前川敏郎