日本の投資信託もやっとトータルリターン重視に

FPにとって覚えておかなければならない投資信託の規制がここで変わる。これはこの12月1日に改正投資信託法が施行されるからだ。(10月27日付日本経済新聞既報)その主な項目は

 

  1. 投資信託の通算損益(トータルリターン)の通知制度の開始
  2. 運用報告書に簡易版が導入される
  3. 投資信託の統合時、大幅に資産内容が変更ない時には書面決議不要制度の導入

 

 このうち重要なのは1,3と思われる。日本の投資信託制度については様々な問題点がかねて指摘されてきたが、昨年1部改善された。あの1部に誤解を招くようなネーミング「特別分配金」

との表現である。これは「元本払戻金」と表現が改められ表面的に分配金がもらえているから儲かっているのだろうという一般の個人投資家の幻想を覚ます一定の効果はあったと思われる。

 

 今回の改正は「通算損益の通知」である。その計算方法は

      計算時点の評価金額+累計受取分配金+累計換金金額-累計買付金額

      (対象 全ての公募投資信託、例外 MRF・ETF等日々決算型商品)

 

 この方式で計算・表示された運用報告書が実際に郵送されるであろう来年1月には投資信託を

止めたくなる個人投資家も出てくるかも知れない。なぜなら現状の日本の投資信託はその約6割が

「毎月分配型」であり、毎月の分配金の多さでお小遣いの欲しい個人投資家の注目を集める販売手法をとっているからである。毎月分配金を受け取る投資信託を保有している個人投資家は今回の改正で自分の投じた資金の1部を分配金として受け取ってきたことが理解されると思われる。

 

  そもそも投資信託とは基準価格の長期的値上がり益の獲得を目指すものであるので、毎月分配金が受け取れても、それが元本の払い戻しであって分配金を受け取るたびに計算時点の評価金額(基準価格)がその分値下がりしていたらなんにもならない。

 

 また、目を世界に広げればこんなことが出来るのは日本ぐらいであって、アメリカ等は分配金の原資を投資対象の値上がり益や投資対象からの配当等に制限している。投資家の元金からの分配を認めている日本は投資家保護の観点からも、長期的な投資信託の発展のためにも改善点が多い。

 この意味で今回の改正は投資の極当たり前の姿、当初の投資元本がどの位増減したのかを分かりやすくするという点で大きな進歩と評価したい。

 

 もう1つの改正点、投資信託の統合時、大幅に資産内容が変更ない場合には投資家による書面決議を不要にできることにしたのも大きな意味がある。なぜなら日本の投資信託はその銘柄が4,000本を超えており選択するにも迷ってしまうが、最大の問題点はそのほとんどが資産規模100億円にも満たないものが多い点にある。

これは投資信託受託会社等がその時点での経済の注目点・話題に沿った投資信託を組成すると他社もこぞって同じテーマの投資信託を発売し、先に述べたように結果として4,000本もの銘柄が林立する状態を引き起こしている。

賞味期限の切れた(人気の離散した)古い投資信託は残高が減り、信託報酬だけではその経費を賄えないものが大多数という現実がある。当然投資運用会社も運用成績向上に対するインセンティブも薄れてくるだろう。これが日本の投資信託で販売手数料が高止まりし、無くならない遠因の1つであるからだ。

 

 上記の改正によって経費倒れになって放置されている小口の投資信託の統合が進むことになり、

規模の拡大によって信託報酬だけで経費を賄えるようになれば、高止まりしている販売手数料の

引き下げも可能になると思われる。

 

 今回の法改正をきっかけに毎月分配金がもらえるというだけでなく、本当に自分の投じた資金が増えている投資信託なのかどうかを基準に投資信託を選ぶという本来の姿に変わってゆくと推察される。このためには個人投資家も勉強し、また投資信託運用会社も法改正の趣旨を尊重して売りやすい毎月分配型の商品ばかりを開発する姿勢を改め、運用成績で勝負する商品を開発し世に問うて欲しいと思う。

                                H26・11・22

                             FPみらい 理事 重田勉